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どうなる? 部活動の地域移行

二宮 徹  解説委員

公立中学校の休日の運動部活動が、地域のスポーツクラブなどに段階的に移行されることになりました。部活動をなぜ地域に委託するのか、どんな課題があるのかなどについて、教育担当の二宮徹解説委員の解説。

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<部活動地域移行の提言>
運動部の地域移行は、スポーツ庁の有識者会議が今月、目指す改革の内容や方向性を提言しました。休日の運動部の活動は、教師ではなく、地域のスポーツクラブなどで指導する。その際、複数の中学校から集まっていいことにするなどです。

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まず、公立中学校の休日の運動部活動を段階的に移行するとして、受け皿には、地域の総合スポーツクラブやスポーツ少年団、民間企業や保護者会などを想定しています。来年度から3年間を「改革集中期間」として、全国で具体的な計画の策定や実施を進めます。平日は、地域の実情や進捗状況に応じて、「次のステップ」と位置付けています。
合唱部や吹奏楽部など、文化系についても、現在、文化庁の有識者会議で議論が進んでいて、近く同様の改革を求める見通しです。
一方、私立中学は、学校の方針や事情が違うので、提言では、適切な指導体制の構築を期待するなどの表現に留まっています。
また、高校は、義務教育ではないうえ、部活動を理由に進学する生徒も多いことから、「改善に取り組むことが望ましい」という表現です。

<背景①少子化と部活動の数>

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なぜ部活動を改革するのか。大きな理由は2つあります。一つは少子化です。
公立中学校の生徒数は、第2次ベビーブーム世代が中学生だった1986年がピークで、およそ589万人でしたが、去年はおよそ296万人。ほぼ半分です。出生率の低下で、今後も年々減っていきます。これに対して、中学校の数は30年間で1割程度しか減っていないのです。
このため、1校あたりの生徒数がどんどん減っているのです。このため、部員が集まらない部活が増えています。
例えば、サッカーは最低11人、野球は9人必要です。サッカーをやりたい生徒も野球部になどということはできる限り避けたいので、特に、生徒の少ない学校での部活動の継続が深刻な課題になっているのです。部員が集まらないのでは、練習もままなりません。

<背景②教師の長時間労働>

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地域移行のもう一つの理由は、教師の長時間労働です。OECD・経済協力開発機構の調査によりますと、日本の中学教師の1週間の仕事時間は56時間で、48の国と地域の中で最も長いのです。特に部活動や事務作業が影響しています。
土日も練習や試合の引率で休日出勤という先生は大変です。そうした休日出勤や残業が多いことで、教師を志す若者が減っています。地域によっては、採用や担任の確保にまで支障が出ています。教師の労働環境の改善、働き方改革のためにも、部活動を改革する必要に迫られているわけです。

<課題①受け皿と担い手>

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これらの問題は、部活動を地域に移行すれば解決できるのでしょうか。地域移行にも課題が山積みです。
まず、受け皿と担い手、つまり委託する団体や指導者です。
受け皿には、主にスポーツクラブやスポーツ少年団を想定しますが、スポーツクラブがないとか、グラウンドや施設が少ない地域もあります。小さな町や村では、例えばテニスを教えられる人はいるけど、バスケットボールは誰もいないなどが考えられます。さまざまな競技の指導者を確保することは容易ではありません。
しかも、教師と同じように、生徒の安全や心身の健康に配慮しながら、適切な態度や言葉で指導するのは、想像以上に難しいと思います。事故だけでなく、暴言や体罰、ハラスメントなどがないよう、生徒を守る仕組みが必要です。提言では、スポーツ団体の整備充実や、指導者資格の取得や研修のほか、地元の企業や大学との連携などを求めています。
さらに、こうした受け皿や担い手の地域による格差についても指摘しています。特に、小さな市町村に対して、国がしっかりと支援してほしいと思います。

<課題②家庭の負担>

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A・もう一つの大きな課題は、家庭の負担です。これまで部活動の多くは、顧問の教師が献身的に支えてきました。しかし、これを民間に委託する場合、指導の報酬は誰がどれくらい負担するのかという問題が生じます。
スポーツクラブの会費や施設使用料も同様です。
また、例えば、いくつかの中学校の生徒が、町のスポーツセンターに集まるケースでは、遠く離れた地区から誰が送り迎えをするのかなども課題になります。
こうした家庭への負担、特に困窮する家庭の支援策について、国は早く具体的に検討すべきです。地域移行のスタートに向け、来年度予算で国がどんな支援をどれくらい盛り込むかが重要だと思います。

そもそも、そこまでして部活動を存続させなくてもいいという人もいると思います。大人は誰もが、部活動について、良い経験だったとか、嫌な思い出だとか、賛否いずれも、いろいろな意見があります。地域移行のやり方にとどまらず、部活動はどうあるべきか。広い視野で地域や学校ぐるみで見つめ直す、話し合ういい機会にして、部活動を子どもたちにとって、より良いものにしてほしいと思います。

<部活動のあり方が変わる?>

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地域移行を進めるにあたって、一つ重要な動きがありました。中体連=中学校体育連盟は、一定の条件で地域のスポーツクラブが大会に出場できるとしたのです。そうなると、例えば、A町の3つの中学校が参加するバレーボールクラブが、県大会でB市のB中学校と対戦するという形が想定されます。
もう学校単位で競う形が難しくなってきたということです。こうした中で、今後は勝ち負けではなく、もっとスポーツ自体を楽しみ、教師以外の大人と関わりながら成長していくという形も増えるのではないでしょうか。
いくつもの競技を楽しむとか、そもそも休日は活動しない部活もあっていいでしょう。

これまで部活動は、「学校教育」の一環として見られ、良くも悪くも学校が丸抱えでした。これからは、地域が子どもたちをどう育てるのかという視点が重要です。今回は、「どうなる?部活動の地域移行」というテーマでしたが、「どうなる?」ではなく、子どもたちと一緒に、地域の大人や保護者が「どうする?」と意見や知恵を出し合い、協力しあうことが大切だと思います。

(二宮 徹 解説委員)


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