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"みんな"の選挙の実現を!

竹内 哲哉  解説委員

7月10日に投票が行われる参議院選挙。一票を投じることは憲法によって誰もが保障されている権利です。しかし、障害者や高齢者などが「投票する環境を、もっと整えてほしい」と訴えています。

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【訴えられた投票の“壁”】
Q.「投票する環境を、もっと整えてほしい」。具体的にはどういう要望なのでしょうか。
A.先日、障害者団体が“配慮が十分ではないため投票が難しくなるケースがある”として、およそ200の実際の事例を挙げて国に改善を求めました。こちらに団体とNHKのサイト“みんなの選挙”に寄せられたご意見の一部をまとめてみました。

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Q.「うつ病や精神障害のために投票所に行けない」。「候補者の政策を分かりやすい言葉で知りたい」など、様々な声がありますね。
A.投票の“壁”として3つに分類してみました。「投票所への移動」「投票所の環境」そして「情報」です。

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【壁①投票所への移動】

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「投票所への移動」ですが、「投票所までタクシーを使わないとならないのでためらう」といった声があるように、障害の種類や程度によっては遠い場所や行きなれていない場所への移動が大変で投票に行くのを躊躇あるいは諦める人さえいるんです。
コロナ禍では移動を支援してくれる人を手配できないというようなことも前回の選挙では起きていたようです。

Q.解決策は?

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A.自宅から投票所までの送迎をする公用車や介護タクシーによる移動支援。バスやワゴン車に投票箱を載せ学校や商業施設などを巡回する移動期日前投票所、いわゆる巡回投票の活用です。こうした取り組みは高齢化が進む過疎地などで広がってきてはいますがまだ一部です。
もう一つは「郵便投票」です。しかし、この制度、障害の種類や程度が限られています。そのため「うつ病」や「精神障害」の症状として外に出られないという人たちや、高齢者でも要介護4以下の人たちは使えません。

Q.郵便投票の対象者の拡大は考えられていないのでしょうか。
A.要望の声は大きいんですが、公職選挙法で定められているので、法律を改正する必要があります。2017年には総務省の検討会で、高齢者の郵便投票の範囲を拡大すべきという報告書がまとめられましたが、いまだに法律の改正にはいたっていません。
一票を行使できない人が現実にいるわけですから、国には真剣に向き合ってほしいと思います。

【壁②投票所の環境】
Q.2つ目は「投票所の環境」ですね。
A.端的に言えば投票所のバリアフリーの課題です。こちらは総務省がまとめた令和元年度の参議院選挙での投票所のバリアフリー対策です。

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Q.すべての投票所の設備が整備され、備品なども設置されているわけではないんですね。
A.たとえば「記載台の照明を明るくしてほしい」という弱視の人の声がありましたが、記載台用の照明を用意しているのは44%。「候補者の掲示板の文字が小さくて読めない」という声もありましたが、拡大された候補者の名簿を設置しているところは、41%とさらに少ない状況です。

Q.「誘導に不安を感じる」「何を言われているかが分からない」という声もありますね。
A.これは支援の仕方の課題ですがそういうものも様々あります。いまはコロナ禍でマスクをしているため、聴覚障害の人はさらに分からなくなっているという話も聞きました。
こうした対応は各自治体の選挙管理委員会に任せられていますので、対応に差が出てしまっていますが、障害のある人たちへの支援を充実させようと努力している自治体もあります。

【支援マニュアルを作成する自治体も】

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たとえば、さいたま市の選挙管理委員会が作った障害者に対応するときのマニュアルです。視覚障害者への誘導の仕方や、聴覚障害のある人への説明の仕方など、当事者の意見を参考にまとめられています。また絵などで意思疎通ができるようコミュニケーションボードを使った支援も行っています。
さいたま市選挙管理委員会の江森課長は「ちょっと工夫をすることで投票しやすい環境を作っていければ」と話していました。

Q.ほかの自治体でも取り組みが進むといいですね。
A.東京の目黒区や狛江市、横浜市や大阪の堺市などマニュアルを作るところは増えてきています。ただ、障害の種類や程度は様々ですので、臨機応変な対応ができるよう研修もして欲しいと思います。

【代理投票の課題】
投票所でもうひとつ考えなければならないのが代理投票です。

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日本では原則、候補者や政党の名前を自分で記入する「自書式投票」となっていて、「自書」ができない人には2人の職員がつき一人が代理で記入し、一人が立ち会うということになっています。
しかし、職員が顔見知りだったりするなど「投票の秘密」を不安視する声があります。また、知的障害や発達障害のある人は、なじみのない人が支援をするとパニックになってしまい投票をあきらめた人もいます。不正を防ぐのは当然ですが、それでも信頼できる通訳や介助者が支援して投票できる仕組みを検討する余地はあるのではないでしょうか。

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【壁③情報】
Q.そして3つ目の「情報」。

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A.主に情報が行き届かないという課題です。視覚障害のある人には選挙公報の情報を民間の団体が「点字版」や「音声版」「拡大文字版」にし「選挙のお知らせ」として届けるものがあります。しかし義務ではありません。そのため「点字版」「音声版」はあっても、「拡大文字版」までは配布しないという選挙管理委員会もあります。また人手には限界があり、情報が投票日直前でないと届かないといったことがあります。

【候補者による選挙公報の工夫を】
また「候補者の政策を分かりやすい言葉で知りたい」という知的障害のある人の声がありましたが、漢字に振り仮名を振ったり、分かりやすい文言にしたりした選挙公報を出すか出さないかは候補者に委ねられています。
今年5月に障害のある人が情報を得たり、意思疎通を図ったりするための壁をなくす法律が成立・施行されました。法律が成立する時には、衆議院で選挙における情報アクセシビリティーの改善の要望が出されています。ぜひ、候補者はすべての人に情報を届けることを意識した選挙公報を作成してほしいと思います。

【広がる特別支援学校での参政権の教育】
障害によっては投票が権利であることを理解するのも重要です。投票年齢が18歳に引き下げられたこともあり、いま、特別支援学校では選挙で一票を投じる大切さを知ってもらう取り組みが広がっています。

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たとえば、都内の特別支援学校で行った「投票」で給食のメニューを決める授業。実際の選挙で使われる記載台や投票箱を使って投票。自分の意思が決定に影響することを学んでいきます。
常松主幹教諭は「障害のある子が自らの意思を発揮して決められる。一人一人が幸せを追求し、未来を決めていくことが大事だ」ということでした。

【まとめ】
Q.誰もが一票を投じられるようになると良いですよね。
A.いまだに知的障害のある人たちには、投票所で「本当に判断できるの」といった心無い言葉が浴びせられることもあるそうです。しかし投票は誰にも与えられた権利ですから誰もが行使して当然で、できない壁があるなら、できるようにすることが大前提です。
誰もが病気になったり、けがをしたり、突然、障害のある人と同じような境遇になる可能性はあります。そのときに投票ができない状況が生み出されてはいけないと思います。障害者が投票しやすくなることは、誰にとっても投票しやすい環境につながるはずです。公職選挙法を改正しないとできない課題もありますが、少しの工夫で誰もがスムーズに投票できまるようになりますので、取り組みをしてほしいと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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