今週、梅雨のない北海道を除いて全国が梅雨入りしました。豪雨災害への警戒が必要な時期になりましたが、今月から大雨についての情報が変わります。どう変わり、どう活用したらよいのでしょうか。
今月から変わるのは大きくは2つの点です。
▼線状降水帯の発生を予測する新しい情報が出るようになること
▼洪水や土砂災害などの危険度を示す図情報「キキクル」が変わること
【線状降水帯の予測情報】
まず線状降水帯の情報についてです。
線状降水帯とは発達した積乱雲が次々に発生して帯状にほぼ同じ場所に数時間にわたってかかり続け、猛烈な雨を降らせる現象です。8年前の広島豪雨や関東・東北豪雨から注目されるようになり、甚大な被害を引き起こすことが多いため防災上の重要性が認識されるようになりました。このため気象庁は今月から線状降水帯の発生を予測し発表することにした。
発表のタイミングは発生の半日前つまり12時間前から6時間ほど前で「〇〇地方では〇日の夜には線状降水帯が発生して大雨災害発生の危険度が急激に高まる可能性があります」と呼びかけます。全国11ブロック単位で発表します。
ただ、この情報はまだ精度は高くありません。いまの技術では線状降水帯の発生を正確に予測するのは難しいのが現状です。
気象庁が過去の大雨のデータにあてはめてどのくらい予測できるのか計算したところ
▼情報を出して実際に発生をするのは2回に1回
▼発生をしたが事前に情報を出せないケースが3回に2回ほどあることがわかりました。
外れることも多いこの情報をどう受け止めたらよいのでしょうか。
精度は低いのですが、早い段階で危険性を知ることができる点がポイントです。
集中豪雨は夜間に激しくなって避難が難しくなるというケースが多くあります。
この情報は最大12時間前の発表なので明るいうちに「夜間、急激に危険な状態になるおそれがある」ことを伝えます。
市町村が高齢者等避難の情報を出したり、最大の防災体制をとる判断に生かすことができます。また住民も避難の準備をしたり、避難に時間がかかる人は避難を始めることが考えられます。
今後、精度をあげることはできるのでしょうか?
線状降水帯の予測が難しい大きな理由は雨のもとになる海上の水蒸気量の観測が難しいためです。精度を高めようと気象庁と14の大学や研究機関が協力して今月から10月にかけてさまざまな新しい技術で集中観測を行い、スーパーコンピューター「富岳」を使って解析をするプロジェクトを行っています。気象庁はこうした取り組みで精度をあげ、7年後には市町村単位での発表をめざすとしています。
【キキクルはどう変わるのか】
今月から変わる、もうひとつの大雨の情報は、洪水や土砂災害などの危険度を地図で示す気象庁の「キキクル」です。パソコンやスマートフォンで見ることができて大雨のときニュースでも頻繁に紹介されているものです。危険の大きさを表す色使いが変わります。
さまざまな防災情報は5段階の警戒レベルに整理されていて、レベル4が危険な場所にいる人は全員避難の「避難指示」。色は紫。レベル5は災害がすでに発生している可能性が高い「緊急安全確保」。色は黒で示されます。
しかし、これまでキキクルはレベル4までしかなく、レベル4の中に薄い紫色とさらに危険性の高い濃い紫色の2つがあってわかりづらいという指摘がありました。
キキクルは雨量から相対的な危険度を推定するものなので災害発生との関係が不確かだったためですが、実績を積んで信頼性が増したことからキキクルにもレベル5を設け、レベル4は紫色に統一することになりました。
実際の画面で比較すると▼土砂災害の場合、これまで濃い紫色で示されていたところの一部に、災害が発生している可能性が高い黒が表示される。川も同様。今月30日から表示が変わることになっています。
ただ重要なのは避難のタイミングはこれまでと変わらず、黒の警戒レベル5を待たずに、警戒レベル4までに必ず避難することが重要です。
【キキクルを避難の判断に活用を】
キキクルを利用するうえで、もうひとつ、ぜひ知っておきたいのは、ハザードマップの
危険地域を重ね合わせることができて、今、避難すべきかどうか一目で判断できることです。
土砂災害のキキクルを拡大していくと1キロ四方のメッシュごとに危険度が黄色や赤、紫で示されます。その地図に土砂災害の警戒区域がより濃い色=黒っぽい色であらわされています。この土砂災害の警戒区域内に自宅があって、そこに紫色がかかったら、土砂災害警戒区域の外へ直ちに避難をする必要があります。
川のキキクルの場合、危険性が増すにしたがって川そのものの色が黄色、赤、紫と変わっていきます。川の流域にはハザードマップの浸水想定区域が淡い黄色やピンク色で示され、浸水が深いほど濃いピンク色になっています。川がレベル4の紫になったら、その流域の浸水想定区域にいる人はただちに区域外に水平避難するか、それが難しい場合は想定される浸水の深さより高い階に垂直避難をする必要があります。
ただし中小河川はまだハザードマップができていない川があることから、浸水想定区域が示されていなくても紫になったら川から離れる必要があります。
自治体からの避難指示に加えて、自分でキキクルを見れば、自宅が避難の必要があるのか、どのタイミングで避難をしたらよいのか知ることができます。
片仮名でキキクルと入力、検索するとすぐ見つかります。普段から使い方を確かめておくとよいでしょう。
梅雨を迎えてハザードマップでまず自宅の危険性と避難場所やルートなどを確認すること。さらに避難のタイミングを決めたうえで、大雨のとき最新の情報を入手できるようツールの使い方を覚えておくなど、いまのうちに備えておいてほしいと思います。
(松本 浩司 解説委員)
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