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はやぶさ2 水・アミノ酸発見!生命の起源は?

土屋 敏之  解説委員

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◆はやぶさ2が地球に届けた小惑星の試料から水とアミノ酸が検出された

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はやぶさ2は2019年に小惑星リュウグウに2回着陸して砂や石を採取。合わせて5.4グラムの試料を地球に届けることに成功しました。
その試料はまず一部が国内外の8つの研究チームに分配され分析が進んでいますが、先週このうち2つのチームが科学専門誌に成果を発表し、中でも注目を集めたのが私たち生命に欠かせない物質、水とアミノ酸が豊富に含まれているという内容でした。

◆小惑星にアミノ酸

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岡山大学などの研究チームが日本学士院紀要という専門誌に発表した論文によると、リュウグウの試料から23種類ものアミノ酸が検出されました。
アミノ酸は、私たちの体重の2割を占めるたんぱく質を構成する物質で、生きていく上で欠かせない働きをしているものも多くあります。今回検出された中には、ヒトが体内で作れない「必須アミノ酸」と呼ばれるバリンやロイシン、イソロイシン、「神経伝達物質」としても働くアスパラギン酸やグルタミン酸などもありました。
そしてこれらは、はやぶさ2が2回目の着陸で採取したものでした。
1回目は普通に着陸してリュウグウ表面の物質を採取したのに対し、2回目はリュウグウに弾丸を撃ち込んでクレーター状の穴を作り、地下の物質を露出させるという独創的な技術で採取しました。地下の物質は太陽の光や放射線を浴びていないためより状態の良い試料が得られ、ここからアミノ酸が見つかったわけです。
実はこの2回目の着陸は、失敗すればはやぶさ2自体が壊れて1回目に得た試料も持ち帰れなくなるリスクもあることから、実施するかどうかJAXAで議論がありました。結局、高い技術とチームの決断によって実現したのですが、それが今回の成果につながったとも言えそうです。

◆アミノ酸が宇宙にあるとわかってきたことの意味は?

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これまでも隕石=言わば地上に落ちた小惑星のかけらからは、多くのアミノ酸が見つかっています。ただ、隕石の場合、地上に落ちた後で地球上のアミノ酸が紛れ込んだ可能性も否定できません。
これに対し近年、欧米の探査機が彗星(すいせい)に行って一部のアミノ酸を検出しています。
ですから、今回は小惑星からアミノ酸を持ち帰ったのが初めてということになり、かつ多様な種類が見つかったということで、生命の起源の解明につながるのでは?とも期待されています。

◆生命の起源の謎

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実は地球の生命の元になった物質については、大きな謎があります。
地球は46億年前にできて、40億年ぐらい前には生命が誕生していました。ただ、初期の地球は非常に高温のマグマのような状態だったため、生命に必要な水やアミノ酸などの物質がもしあったとしても、この高温によってなくなってしまったのではないか?とも考えられています。
そこで、これらの物質は地球が出来てからある程度経ち冷えた後で、小惑星などがたくさん降り注いで運びこんだのではないか?という説が近年有力になっています。
太陽系の初期には、惑星の他に小惑星や彗星の元になる小さな天体も無数にあり、その一部は内部が溶けてあたたかい温泉のような状態で、ここでアミノ酸など多様な物質が作られたとも考えられています。
そして、この頃はまだ惑星の軌道が安定せず、位置が動くことがあったと考えられています。木星や土星のような大きな惑星が移動すると重力の影響で周辺にあったたくさんの小惑星が飛び散るため、その一部が太古の地球に降り注いで、生命の誕生に欠かせない物質や水をもたらしたのではないか?というのです。
ただし、今回の結果でただちに地球のアミノ酸などが小惑星から来たと言えるわけではなく、その可能性があるという段階で、今後より詳しい研究が待たれます。
例えば、アミノ酸には2つのタイプがあり、その比率が注目されます。

◆アミノ酸の「右手型」「左手型」

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多くの化学物質には同じ元素の配列でも鏡に映したように左右対称な2つのタイプがあります。右手と左手のように重ねると一致するけど左右が逆、ということから、これを「右手型」「左手型」と呼んで区別しています。
そして、理由はわかりませんが、私たち地球上の生命はほぼ左手型のアミノ酸しか使っていないという特徴があります。そのため、もしリュウグウのアミノ酸もやはり左手型がほとんどだということになれば、地球のアミノ酸は小惑星から来た可能性が高いと言えるかもしれません。

◆小惑星に豊富な水も

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もうひとつ、生命の起源に関して重要視されるのが「水」の検出です。
JAXAを中心とした化学分析チームが、アメリカの科学誌Scienceに発表しました。
これは液体の水や氷があったという話ではなく、基本的には水の成分である水素と酸素 が結合した粘土鉱物という形で存在していたという意味ですが、全体の重量の7%も水の成分が占めていたとのことで、かなり豊富だったと言えます。またこの鉱物は太陽系が出来てからおよそ500万年後、リュウグウの元になった天体におよそ40℃の温水があり、そこで形成されたと見られています。その後この天体は壊れ、一部の破片からリュウグウができたと考えられます。
「地球の水は小惑星由来なのか?」という点で注目されるのが、水の成分の「同位体」です。
水は水素と酸素で出来ていますが、この酸素に「同位体」と呼ばれる少し重さが違う成分が混じっていて、その比率から水の由来をある程度知ることができます。今回の初期分析では、リュウグウの水は地球の水よりもこの同位体がやや多かった、という結果です。
ただし、以前ヨーロッパの探査機が彗星の水を調べた際は地球の水と成分が大きく違っていたのに比べると、リュウグウと地球の水は「似ている」と言えるレベルだとのことです。
これが何を意味するのか?さらなる分析が待たれます。

◆発見もあればさらに謎が深まった面も

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もちろん、仮に水やアミノ酸が小惑星からもたらされたとしても、他にも生物に必要な「細胞」や、あるいは子孫に遺伝情報を伝えるDNAやRNAといった物質がどこでどうできたのか?などまだまだ生命の起源には多くの謎があります。

一方、はやぶさ2の試料が8つの研究チームで分析されている中で、今回はまだ最初の2つのチームが速報しただけです。会見に出席した専門家は、これはまだ連続ドラマの初回に過ぎない、とも表現しています。
今後も驚くような発見があるかもしれません。

(土屋 敏之 解説委員)

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