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悪質な「お試し商法」規制強化 新たな取消権も!

今井 純子  解説委員

悪質な「お試し商法」について、今月から規制が強化されました。今井解説委員。

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【悪質なお試し商法。どのような商法ですか?】
例えば「初回、お試しで500円」。あるいは、「動画見放題。まずは1か月無料お試し」といった表示を見て、「お試しだけ」のつもりで申し込んだら、実際には違っていたという、「定期購入」、そして、「定額サービス」です。

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いずれも、ネットの取引でトラブルが多く起きていることから、特定商取引法という法律の規制が今月1日から強化されました。新たな「取消権」もできました。

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【定期購入のトラブルは、よく耳にします】
では、まず、その定期購入。どのようなトラブルが起きているのかというと、
例えば、通常一袋5000円の健康食品が「初回、お試しで500円」という広告を見て、一回のお試しのつもりで購入したら、2万500円請求された。画面をスクロールした下の方に、小さい文字で「最低5回は買わなくてはいけない定期購入の契約だ」ということが書いてあったのです。これが典型的なトラブルです。

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ほかにも
▼ 「いつでも解約できる」と、大きく表示されていたので、お得な初回分を購入した後で、解約しようとしたら、いくら電話をしてもつながらない。
▼ 電話はつながったけれど「解約するなら、違約金として、通常価格との差額分4500円を払うことが条件だ」と言われた。
▼ また、お試し価格での購入を申し込んだ後に、割引クーポンが表示されたため、それを利用して、さらに安く買えた。ところが、その後、解約しようとしたら、クーポンを利用した場合は、解約できない条件になっていると言われた。
このような、トラブルも起きています。こちらも、解約の条件が下の方に小さく書いてあったのです。

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【いつでも解約できると書いてあるのに、解約できない。というのは、悪質ですね・・】
人を誤解させるような巧妙な表示が増えているといいます。全国の消費生活センターには、昨年度は、5年前の3.5倍。今年4月、5月も、一年前の同じ時期の1.4倍近い相談が寄せられています。

【被害は増えていますね・・】
それでも、金額がそれほど大きな額でないということもあり、相談している人はほんの一部とみられています。そこで、今月1日に規制が強化されました。

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【どのように強化されたのですか?】
事業者に対して、申し込みの最終確認画面(=ボタンをクリックすると、注文が確定することになる画面ですね)。そこに、
▼ 定期購入であることや、支払総額。解約の方法や条件。こうしたことを、わかりやすい場所、大きさ、色などで、消費者に誤解を与えない形で表示することを義務付け、
▼ 電話で解約を受け付ける場合は、確実につながる電話番号を表示することも義務付けました。一方、
▼ 「お試し」とか「トライアル」。解約に条件があるのに「いつでも解約できます」といった表示をすることは禁止とし、その上で、
▼ 違反をした事業者は、これまでの行政処分に加え、懲役刑や罰金の対象とすること。
▼ さらに、もうひとつ。ネット通販は、もともと一定の期間、無条件で解約できるクーリング・オフの対象ではありません。クーリング・オフは「突然の勧誘で、消費者が冷静に判断できないまま契約してしまうことがある」訪問販売や電話勧誘などが対象で、ネット通販は、突然の勧誘ではないからです。このため、今回、定期購入について、誤解をさせるような表示で消費者が申し込みをした場合、契約を取り消せる新たな「取消権」が設けられました。

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【かなり、厳しく規制が強化されたのですね。もうひとつの定額サービスについては、どうなったのですか?】
この定額サービス。サブスクリプションとも呼ばれ、例えば、一か月いくらといった、決まった金額を払えば、ドラマや映画などの見放題、音楽の聴き放題、パソコンなどの不具合について専門家に質問し放題といったように、繰り返し利用できるサービスのことです。

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【便利なサービスのように思いますが、どのような問題があるのですか?】
例えば、
▼ 「まずは一か月無料お試し」という広告を見て、無料お試しだけのつもりで申し込みをしたのに、いつのまにか月2000円の有料会員になっていて、利用していないのに6か月分の料金を口座から引き落とされていた、という相談。(無料お試しの期間に解約しないと、自動的に有料プランに移行することが、下の方に、小さく書いてあったのです)
▼ また、解約しようと思って事業者のホームページを見たけれど、解約の方法がわからない。といった相談が、全国の消費生活センターに、昨年度、7400件あまり寄せられました。統計は、昨年度からとり始めたため、過去と比較はできませんが、相談現場の感覚では、増えてきているということです。

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【小さな表示に気付かなかった自分が悪かったと思いがちですが、知らないうちに有料プランに移行するのは、やはり問題ですね】
そうですね。そこで、ネットで申し込む定額サービスについても、今月から事業者に
▼ 自動更新である場合はその旨や、いつから有料サービスに移行するのか。支払う料金はいくらか。解約の方法や条件。こうしたことを、申し込みの最終確認画面に、消費者に誤解を与えない形で表示することを義務付けたほか、
▼ 解約に条件があるのに「いつでも解約できる」と表示することを禁止するなど、
定期購入と同じ規制や罰則が適用されることになりました。
▼ こちらでも、誤解をさせるような表示で消費者が申し込みをした場合、契約を取り消せる「取消権」が設けられました。

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【契約を取り消して、おカネが戻ってくるのは、助かりますね】
助かりますが、「誤解させるような表示」があった場合という条件があります。そして、なにが「誤解をさせるような表示」か。最後は、行政や裁判所が、消費者が受ける印象や認識を踏まえ「総合的に判断する」ことになっています。悪質な事業者ほど、巧妙な表示をして「誤解をさせる表示ではない」と解約に応じない懸念もあります。

【そうなると、消費者としては、申し込む前に注意しないといけませんね】
ただ、規制を強化したわけですから、まずは、国や自治体が、巧妙で悪質な表示について、消費者の目線に立って、摘発を強化する。それによって、どういう表示が誤解をさせる違法なものか。明確に示していくことが欠かせません。

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その上で、消費者も
▼ トラブルを防ぐには、注文を確定させる前に、契約の内容や解約の方法をきちんと確認することが大事ですし、
▼ トラブルになった場合に備えて、最終確認画面をスクリーンショット(写真)で、撮っておくことも、役立つのではないかと思います。
▼ そしてもし、トラブルになった場合は、身近な消費生活センターに相談をしてください。全国共通で「188」の番号から、つながる仕組みになっています。

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【相談をすると、おカネが返ってくるかもしれないですから、大事ですね】
はい。今回の法改正では、悪質な定期購入や定額サービスについて、国の認定をうけた消費者団体が、事業者に不当な表示を改めるよう申し入れて、応じない場合は、裁判を起こすこともできるようにもなりました。相談をすることで、おカネが返ってきたり、事業者の摘発につながったり、表示が改善され、次の被害を防ぐことができたり。といった可能性があります。

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ぜひ、泣き寝入りをせずに、相談をしていただきたいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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