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"黒潮大蛇行"過去最長 暑さ・水害など深刻な影響も

土屋 敏之  解説委員

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◆黒潮の流れが大きく変わる「黒潮大蛇行」が続いている期間が過去最長に

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日本近海の海流としては、北から流れてくる親潮や南西から流れてくる黒潮がよく知られています。黒潮は通常は九州から関東にかけて日本の南側に沿うように流れています。

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ところが、気象庁の最新のデータを重ねると現在はこんな状態です。紀伊半島沖で南に大きく迂回した後、東海から関東にかけてはぐっと近づいて流れています。これが、「黒潮大蛇行」です。
実は大蛇行が発生すること自体はそれほどまれではなく、十分なデータがある1965年以降では今回が6回目になります。ただ、これまで1~2年で終わることが多かったのですが、今回は2017年に始まった大蛇行が今も継続中で、先月の時点で既に4年10か月と期間が過去最長になっています。

◆黒潮大蛇行によって深刻な影響も

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色々な影響がありますよく知られているのは水産業への影響です。
海水温の分布を見ると、黒潮は暖流なので黒潮が流れている所は水温が高く赤っぽくなっている一方、蛇行した内側では水温がかなり低くなっています。魚によって好む水温も違いますので、大蛇行によって漁場が遠くなったり獲れなくなってしまう魚も出ます。もちろん、漁獲量には近隣諸国の漁業による影響や地球温暖化など色々な要因が関わるので簡単に言えない面もありますが、既に各地で大蛇行の影響ではないかと見られる変化が出ています。
例えば、静岡県で盛んなシラス漁は大蛇行前の2016年までと比べ2017年以降は漁獲が大きく減っています。また、三重県尾鷲市の定置網のブリが不漁になったり、カツオは地域によって漁獲が増える所と減る所が出ています。また黒潮は水温が高いだけでなく栄養分が乏しい海流です。プランクトンが少なく透明度が高いため海の色が青黒くなり、これが「黒潮」の名前の由来にもなっていますが、こうしたことからヒジキやノリなどの海藻の育ちが悪くなっている所もあるようです。

◆影響は水産業以外にも

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水温に敏感なサンゴは和歌山県で大量死が起きたりもしており、海の生態系への影響が懸念されます。
また、海流の位置が大きく変わることで船舶が航行するのに経済的なコースも変わり、原油高騰の中、燃費が悪化するとも言われます。
それだけではありません。実は黒潮大蛇行の影響で、関東地方では夏はより蒸し暑くなり、一方で冬は東京でも雪が降りやすくなると言った、気象への影響を指摘する研究もあります。
さらに、気象庁は関東から東海にかけての沿岸で台風や低気圧が接近した場合に低い土地の浸水、つまり水害などが起きやすくなるとして注意を呼びかけています。

◆なぜ黒潮大蛇行が夏の蒸し暑さや水害につながるのか?

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大蛇行が起きると、黒潮の流れはいったん南に離れた後北に戻り、東海から関東にかけてはむしろ通常より沿岸に近づいています。
そして、暖かい黒潮の接近で水温が上がると海水が膨張するため海面が上昇します。東海地方では大蛇行の影響で通常より潮位が10cm~20cm高くなると言います。
そのため3年前の台風19号、いわゆる東日本台風の際には黒潮大蛇行と台風の接近が重なったことで静岡県清水港などで過去最高の潮位となり、高潮による浸水被害が起きる一因になったと気象庁は分析しています。
今や地球温暖化による台風の激甚化や海面上昇が進んでいるとされるが予測される中で、 黒潮大蛇行がさらに被害を大きくする要因となるわけです。
また、水温の高い黒潮が沿岸に接近することで周辺の空気が高温多湿になり、蒸し暑い夏や大雨につながりやすくなるおそれもあって、これからの時期注意が必要です。

◆黒潮大蛇行はなぜ起きる

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長年黒潮の研究をしてきた海洋研究開発機構の美山透主任研究員によると、黒潮大蛇行の発端は九州の南東沖で海底の地形の影響で小さな蛇行ができることで、これ自体は毎年のように起きる珍しくない現象とのことです。

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この小さな蛇行は黒潮の流れによって西から東へと移動していきますが、その途中でたまたま近くに風の影響などでできた海流の渦があったりすると融合して大きな蛇行に成長することがあります。
ただ、こうして黒潮大蛇行が出来ても、これがそのまま東の海上まで流されていけばやがて消滅するので長くは続きません。

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ところが、潮の流れが南に大きく蛇行すると、理屈は複雑ですが地球の自転の影響で西向きに押す力が働きます。
一方で近年、黒潮の流量が通常よりもやや減少しています。すると東へ押し流そうとする力が弱まるため、この西向きの力と東へ流そうとする力が拮抗して大蛇行が長期間維持されていると考えられています。

◆黒潮大蛇行はいつまで続く?
正確な予測はまだ難しい面がありますが、美山さんはスーパーコンピューターで今後のシミュレーションを行っています。
8月前半までのシミュレーションを行ったところ、いったんは蛇行している部分がちぎれて独立した渦状になる、つまり蛇行があまり見えなくなるかもしれないという結果が出ていますが、またまもなく九州の南東に小さな蛇行が出てきて東側の渦とつながって大きくなりそうで、結局また大蛇行状態に戻るようです。

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美山さんは大蛇行が長期化している要因である「黒潮の流量の少なさ」などが当面は変わらないと見られることから、まだしばらく黒潮大蛇行は続くと考えています。

◆これからの時期、私たちが気をつけることは?

食料品の価格上昇が相次ぐいま水産業の不振も心配ですが、産地や魚種によっても影響が異なりますので賢く買い物をしたいところです。
そして、これからの時期は関東や東海に限らず大雨や台風・高潮などで水害への備えが必要です。さらにこの夏も広い地域で高温多湿になるおそれもあり、熱中症対策もしっかり行ってほしいと思います。

(土屋 敏之 解説委員)

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