NHK 解説委員室

これまでの解説記事

新型たばこ 健康への影響は?

矢島 ゆき子  解説委員

m220607_002.jpg

新型たばこには、紙巻たばこと同じように、たばこの葉が使われている「加熱式たばこ」と呼ばれているものと、たばこ葉を使っていない「電子たばこ」という種類があります。今回は、加熱式たばこについて、最近、わかってきた受動喫煙のことなど、健康への影響をご紹介します。

◆若いときから喫煙すると健康にどんな悪影響がある?

m220607_004.jpg

5月31日に、国立がん研究センターからアンケート結果が発表されました。「若いときから喫煙することで、健康へどのような悪影響があるか知っている」ことを複数回答で聞いたところ、例えば、若いときから喫煙すると、「ニコチン依存度が高くなる」ことを知っていた人は40.7%。「病気のリスクが高くなる」ことを知っていた人は42.9%、「早世のリスクが高くなる」ことを知っていた人は29.5%でした。これらは紙巻たばこについて、科学的にわかっていることなのですが、「若いときからの喫煙が、健康に悪影響を与える」ことが理解されていないことがわかります。

m220607_007.jpg

これまで紙巻たばこの煙については、いろいろなことがわかってきました。例えば、煙には、ニコチン・一酸化炭素など5000種以上の化学物質・有害物質が含まれ、その中には、ホルムアルデヒドなど約70種の発がん性のあるものも含まれています。そして、喫煙は、非常に多くの病気に関係しています。例えば、肺がん、食道がん、胃がん、子宮頸がんなどの多くのがんだけでなく、脳卒中、歯周病、心筋梗塞、糖尿病など様々な病気につながることがわかっているのです。

◆新型たばこを使用している人はどのくらいいる?

m220607_011.jpg

では、最近は、どのぐらいの人が喫煙しているのでしょうか?紙巻たばこだけでなく、加熱式たばこも含んだ2019年のデータでは、男女合わせた喫煙率は16.7%。若い20代の喫煙率をみてみると、男性で25.5%。女性で7.6%です。日本では2014年から、「たばこの葉を使った」加熱式たばこが使えるようになりましたが、ある研究調査で、この加熱式たばこの使用状況を調べたところ、国内での使用者の割合が、年々増え、2019年には10%以上の人が使用していることがわかりました。また年代別には、例えば20代と60代をみてみると、20代で使用する人の割合がより増加していることがわかります。

◆加熱式たばことは?

m220607_019.jpg

加熱式たばこは、たばこの葉を加熱して使います。そのとき、エアロゾルが発生します。エアロゾルは、気体と粒子状物質が合わさったものです。一見、水蒸気のようなものが発生していると思うかもしれませんが、紙巻きたばこと同じように、ニコチンなどが含まれています。例えば、一酸化炭素、ベンツピレンは紙巻きたばこに比べて減少という報告もありますし、ニコチンや発がん性物質のホルムアルデヒドは紙巻たばことほぼ同量含まれているという報告もあります。ニコチンは依存性物質です。紙巻たばこを加熱式たばこにかえても、ニコチン依存は続いてしまいます。また有害物質は種類によって減少していますが、病気が減ると確認されているわけではありません。そして、加熱式たばこでは、紙巻きたばこには含まれない物質が使われています。例えば、食品や医薬品などへの添加物として使われていたけれど、初めて肺の中に大量に取り込まれることで、どういう影響があるのかわかっていないものも使われているのです。

◆受動喫煙のリスクは?

m220607_024.jpg

加熱式たばこの、周囲の人への影響はどうなのでしょうか?例えば、5月に出た研究論文で、加熱式たばこでも受動喫煙の害があることがわかってきました。研究に参加したのは、紙巻きたばこ・加熱式たばこを使用している父親の家族と非喫煙者の父親の家族です。研究では、尿の中のニコチン代謝物の濃度を測定することで、ニコチンが体内に吸収されているかどうかを調べました。その結果、紙巻きたばこを使用している人の家族は、尿中ニコチン代謝物の濃度が一番高く、次に高いのが加熱式たばこの使用者の家族、そして非喫煙者の家族が一番低いことがわかりました。グラフの真ん中の加熱式たばこ使用者の家族と、右の非喫煙者の家族を比較してわかるように、加熱式の方が明らかに高く、受動喫煙があることがわかったのです。国立がん研究センターがん対策研究所 片野田耕太部長にお話を伺ったところ、「コロナ禍で在宅勤務が増え、自宅は禁煙だったのに、加熱式たばこならいいだろうと使用しているケースもある」ので是非、注意をとのことでした。このグラフをみてみると、加熱式たばこは、紙巻たばこより、ニコチン代謝物の濃度は低いと思うかもしれません。ただ、片野田さん曰く、「これまでの研究で、有害物質の濃度が減っても、受動喫煙のリスクが減るとは限らないことがわかっている」とのことでした。

m220607_026.jpg

アメリカでは、あるたばこ社が、加熱式たばこを「リスク低減たばこ」として食品医薬品局(FDA)に申請したところ、「紙巻たばこから加熱式たばこに切り替えても、たばこに関係する病気のリスクを減らす証拠はない」と判定されました。アメリカでは、加熱式たばこは、有害物質は種類によって曝露(ばくろ)する量は減少しますが、病気のリスクを減らす証拠はないため、使用者や周囲の人の健康に悪影響があるものとして、取り扱われているそうです。科学的にわかってきたことが増えていますので、日本でも、使っている人や周囲の人の健康を守るという観点で、加熱式たばこについて、どうしたらいいのか、考える必要があるかもしれません。

(矢島 ゆき子 解説委員)


この委員の記事一覧はこちら

矢島 ゆき子  解説委員

こちらもオススメ!