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科学的介護の実践!  データ活用でサービス向上を

牛田 正史  解説委員

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老後の生活を支えてくれる「介護」。
今、データを活用することで、
介護サービスの質を高めていこうという取り組みが広がってきています。
「科学的介護」とも呼ばれています。
この介護現場でのデータ活用とはどういうものなのか、牛田正史解説委員がお伝えします。

【介護のデータ活用とは】

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まずこの「データ」とは何かといいますと、「睡眠時間」、「食事の量」、それに、握力や歩ける距離といった「運動能力」などです。
データというので、何か難しい数値を想像した方もいるかもしれませんが、日常の基本的な項目、これを数値化して介護に生かすということです。

実は介護は、医療と比べて、こうしたデータの活用が十分ではないという指摘があります。
その人にどんな介護サービスが最適なのかを考える上で、根拠となるデータがまだ少なく、どうしても、職員の経験や感覚などに頼る部分が大きかったとも言われてきました。
これが最近になって、あくまで可能な部分に関してですが、データを基に最適な介護サービスを考える、それが徐々に広がってきているんです。

分かりやすく、その具体的な事例をご紹介したいと思います。
いち早くデータの活用を実践している神奈川県の老人ホーム(SOMPOケア運営)で実際にあったケースです。

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ここでは毎日の食事の量をチェックしていますが、朝食を食べる量が減っているという、ある入居者が見つかりました。
この人は体の一部にマヒのある人なんですが、さらに他のデータも調べてみると、朝起きる時間が遅くなっていることが分かりました。
そこで施設側は「夜中に十分な睡眠が取れなくなっているのではないか」と考えました。
そして原因を調べたところ、夜中にトイレに行って再びベッドに戻って寝るまで、かなり時間が掛かっていることが分かりました。
体のマヒが少し悪化して、夜間の排せつ、この負担が知らず知らずのうちに大きくなっていたわけです。
そこで施設側は、夜中のトイレの際には、当直の職員に声を掛けてもらい、介助を行うことになりました。
つまり食事の量、それに睡眠時間といったデータから、夜中の介助の必要性に気づいたというわけです。

このように「データ活用」とは、状態の細かい変化を読み取り、介護に生かしていく、これが大きなポイントになります。
今ご紹介した施設では、細かいものも含めて500のデータを集めているそうです。
正直、ここまで活用している事業所はまだ少ないのですが、介護業界でこうしたデータ活用の気運が高まっているのは間違いありません。

【国のデータ活用システム】

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その大きなきっかけは、去年4月から導入された、LIFEと呼ばれる国のシステムです。
国が介護事業所から、個人の身体能力や食事量といったデータを集めて分析し、介護サービスの改善点を事業所にフィードバックします。
これはどういうことかと言うと、例えばある利用者が、同じような年齢や状態の人たちよりも歩行距離が伸びていない、すると、今行っている機能訓練を改善していくべきだと指摘する、そんなケースが想定されています。
システムを活用すると介護報酬が加算されるため、すでに全国でおよそ6万の事業所が登録しています。
このシステムをきっかけにデータ活用を始めたという事業所もあると思います。
ただ、これまでは主にデータを集める段階でしたので、ご紹介したような詳しいフィードバックは、まだ行われていません。
国はこれから徐々にフィードバックを充実させていくとしています。
介護業界の気運が高まっているうちに、システムを早く軌道に乗せてもらいたいと思います。

【データ活用の例(通所施設)】
この「介護現場でのデータ活用」は、高齢者が暮らす入居施設での例が多いのですが、中には、デイサービスなど日中だけ通う「通所施設」でも、先進的な事例が出てきています。
それもいくつかご紹介します。

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埼玉県にある社会福祉法人・欣彰会では、2年前から、デイサービスの利用者のデータを記録する独自の電子システムを導入しました。
利用者の日常動作や食事の量など24項目の詳細なデータで、どの職員もすぐに把握することができます。
ここではデータの変化に応じて、こまめに介護や機能訓練のメニューを変えています。
例えば、当初車椅子から立ち上がるのも難しかった人が、ペダルをこぐ、そして立ち上がるというように、状態に合わせて徐々に訓練を変えていき、最終的に歩行器を使って歩けるようになったケースもあるそうです。
 
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そして、北海道を中心にデイサービスなどを運営する会社・3eeeでは、基本的な運動機能だけでなく、体のバランスもデータで計測しています。
こちらの機器は、体の重心などを調べるものです。
軽い運動の後に計測し、もし重心の移動の遅れや、偏りがあった場合は、歩行訓練やリハビリなどに繋げています。
また、利用者には、自宅で自主トレーニングのプログラムも実施してもらっています。
半年に一度、身体機能を詳しく計測し、こちらも数値の変化に応じて、プログラムを細かく変更しているということです。
施設を利用する時間よりも、自宅で過ごす時の方が長いですから、重要な取り組みと言えます。

【フレイル予防にもデータ活用】
そしてこのデータ活用は、介護現場だけで広がっているわけではありません。
住民の健康を維持していこうとする地域の活動でも、データの活用が始まっています。その1つが「フレイルチェック」の取り組みです。

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フレイルとは以前、介護が必要な一歩手前の状態を指します。

東京大学の飯島勝矢さんが中心となって展開しているプロジェクトでは、地域の高齢者が定期的に集まって、握力や立ち上がり動作、それに滑舌の状態などを計測します。
このデータの推移を見ながら、フレイル状態になりそうな人は、機能維持や予防のトレーニングに繋げています。
これもデータを活用して健康を維持していく重要な活動と言えます。
この取り組み、コロナ禍で一度、ストップしてしまいましたが、最近はオンラインのチェックも取り入れながら、徐々に再開していまして、今では全国85の自治体が導入しています。

【自分でも出来るデータ活用】
ただ、こうした取り組みが実施されていない地域もあります。
その場合、データ活用は工夫をすれば自宅でも出来ることがあると思います。
例えば、フレイルでいえば、こちらの5つの項目が重要とされています。

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「歩く速度が以前より遅くなった」
「疲れやすくなった」
「社会活動などの活動性が低下した」
「筋力の低下」
「体重の減少」
これが3つ以上揃うとフレイル、1つか2つの場合はプレフレイルに該当するという考え方もあります。
特に以前と比較して低下したかどうかが重要なのですが、これを、データを基にチェックすることも出来ると思います。
例えば歩く速度でいえば、散歩の最中に一定の距離を歩く時間を測る、
また活動性で言えば、外出の回数や歩行数などを記録する。
そして体重も毎日測る、このように自分でデータを記録して、変化にいち早く気づくことも重要ではないでしょうか。

このように、介護や私たちの健康維持の取り組みを大きく変える可能性がある「データ活用」ですが、肝心なのは、ただデータを取るだけでなく、それをどう生かしていくかです。
介護事業所や私たち1人1人が、何のデータを取り、どのように活用すれば良いのか。
それを導いてくれる相談窓口やシステムが必要になってきます。
そこも併せて国や自治体、介護事業所の団体などが整備を進めてほしいと思います。

(牛田 正史 解説委員)

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