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知っていますか?補助犬のこと

竹内 哲哉  解説委員

障害のある人の暮らしを支える補助犬の法律「身体障害者補助犬法」が定められてから、今月22日で20年となりました。補助犬の役割や受け入れに必要なことをお伝えします。

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【補助犬の仕事:盲導犬】
Q.補助犬、改めてどんな犬なのでしょうか。

A.補助犬は障害のある人の自立と社会参加を助ける、法律で認められた犬たちです。盲導犬、聴導犬、介助犬がいます。
盲導犬は視覚障害のある人が歩くのを手伝う犬。全国で848頭が活動しています。

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仕事は3つ。
○角を教える。ユーザーが自分の現在地を確認できるよう、写真のように、左側の角などに沿って体を左に向けて止まります。
○段差を教える。階段などはもちろん交差点の小さな段差でも止まります。のぼりの場合は段差の1段目に前足を乗せ止まって知らせます。下りは段差の手前で止まります。
○障害物をよける。バイクや自転車、電柱などをよけます。

Q.3つの仕事で視覚障害のある人を安全に誘導しているんですね。

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A.盲導犬をスーパードッグのように思う方もいるかもしれませんが、行き先を伝えれば連れてってくれなんてことはありませんし、信号も判断できません。
盲導犬ユーザーが目的地までの地図を頭に描き、要所要所で盲導犬が教えてくれる合図で、行く方向や進むタイミングなどを指示して歩いているんです。
盲導犬は歩行に安心感を与えてくれる頼もしい相棒なんです。

【補助犬の仕事:聴導犬】
Q.続いては聴導犬?

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A.耳の聞こえない人や聞こえにくい人に様々な音を教えてくれる犬です。62頭います。
どのように音を知らせてくれるかというと…。目覚まし音が鳴ると、ユーザーが起きるまで知らせます。玄関のチャイムや火災報知器、冷蔵庫の開けっ放しの音。外だと車のクラクションなど。当然ですが吠えるのではなく、タッチをするなどして知らせます。
こうした音への反応は、それぞれの生活に応じて増やしていけるということなんです。

Q.どういうことでしょうか。

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A.たとえば「赤ちゃんの泣き声」。子育てを経験した聴導犬ユーザーのお母さんに話を聞いたんですが、あらかじめ録音した「赤ちゃんの泣き声」に反応できるよう、出産前にトレーニングしたそうなんです。

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すると、赤ちゃんが泣くと知らせてくれます。そうなると夜泣きをして、たとえ夫が起きなくても、起こしてくれますからぐっすり眠れます。しかも経験を積むと、軽く「フギャ」くらいだと反応せず、きちんと泣いたときだけ知らせるようになったんだそうです。
その方が言っていたのは「音がなっていない時の安心感」。聴導犬がいないときは音がなっていないか常に緊張していたそうなんです。でも、聴導犬と暮らして、その緊張から解放されたのは大きいということでした。

【補助犬の仕事:介助犬】
Q.最後は介助犬ですね。

A.全国に59頭います。ものを拾う。着替えを手伝う、隣の部屋まで電話を取りに行く…。時には、ちょっとした段差を乗り越えるなど、手足に障害のある人を手伝います。

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介助犬ユーザーに話を聞くと、車いすから落ちた時に介助犬がいて助かったという話をよく聞きます。手に障害があると車いすから落ちると動けなくなってしまうからです。そんな時「Take 携帯」と言えば介助犬が手元まで携帯を持ってきてくれる。そうすれば助けを呼ぶことができます。

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介助犬がいれば、常に誰かの目が必要だった人が一人で過ごしたり、外出できるようになったりします。それはユーザーの世界を広げるだけでなく、家族もそれぞれの時間を持てるようになる。介助犬は安心を運んでくれるのです。

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それから介助犬など補助犬のユーザーは犬の世話、毎日のブラッシングや歯磨き、食事の用意や散歩などが義務付けられています。介助犬ユーザーで病気がある人のなかには、そうした毎日のルーティンをこなすことで、生活にリズムができ、通院も欠勤も減ったという声も聞きました。介助犬との生活は健康にも良い影響を与えるというのは、よくあることだそうです。

【法律ができて20年たってもなくならない同伴拒否】
Q.ユーザーにとって、補助犬は欠かせない存在だということが分かりましたが、課題はありますか?

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A.補助犬の受け入れが様々なところで拒まれるということです。
補助犬のユーザーの自立と社会参加を促すために制定された身体障害者補助犬法では公共施設や交通機関、あるいは病院やレストランなど不特定多数の人が利用する施設で補助犬を拒んではならないと決められています。ただ、罰則がないので、拘束力はないんです。

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日本盲導犬協会の調べでは、去年1年間、コロナの影響で外出が減り件数は少なかったものの、盲導犬ユーザーの35%が同伴拒否を経験。そして、2021年4月から今年3月20日までで協会が対応した事例は医療機関の拒否が35%と最も多くなっています。背景には犬が新型コロナウイルスを運ぶという誤った理解があったからではないかと協会は分析しています。厚生労働省によれば、犬から人に新型コロナウイルスが感染した事例は報告されていません。

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ただ医療機関での同伴拒否は、新型コロナだけでなく「犬アレルギー」への懸念もあり、以前から多いのも事実です。「犬アレルギー」の原因は「ふけ」や「唾液」で、犬に直接触れることがなければ基本的には症状は出ません。補助犬はユーザーが衛生面をきちんと管理する、ブラッシングなどを研修でしっかり学び、時にはコートを着せて抜け毛を防ぐという対策もとります。

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視覚障害者団体の会長の竹下義樹さんは、医療機関のほか交通機関や施設で同伴拒否をなくすためには、「補助犬への理解を広めるのが不可欠。同伴拒否が起きた場合は行政が速やかに対応し是正を」といいます。

【医療機関での受け入れの例】
Q.受け入れの参考になる事例はありますか?

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A.受け入れている病院を取材したところ「受け入れ前は不安だったがどうすれば受け入れられるか考え、盲導犬協会に助力を求めた」といいます。

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何をしたかというと、
○盲導犬協会による病院スタッフへの研修。
○ユーザーさん以外の一般の患者への盲導犬の説明。理解を得るようにしました。
○ユーザーとの話し合い。
盲導犬は院内にケージを作ってそのなかで待機とし、病院スタッフが誘導。犬嫌いの人と鉢合わせないよう、ユーザーの診療時間をずらすといったこともしています。
様々な準備をしたことで、トラブルはまったく起きていないということです。

【ますは知ることから始めよう!】
Q.いま拒否している施設でも話し合いをして考えて欲しいですね。

A.まずは知るということが大切です。補助犬の関連団体がいま盛んに行っているのが、学校の授業での補助犬の理解促進です。子どもたちの感想を読むと、補助犬が障害のある人にとって重要な存在であることはもちろん、障害についての理解も深めています。こうした取り組みは団体任せにするのではなく、厚生労働省や各自治体が主導して積極的に行ってほしいと思います。
補助犬は障害者にとって心強い存在ですが、何でもできるわけではありません。困っていそうだなと思ったら、補助犬ではなくユーザーに声をかけてあげてください。というのも、補助犬が仕事をしているときは目を合わせたり触ったりはすると、気が散って仕事ができなくなってしまうからです。よろしくお願いします。

(竹内 哲哉 解説委員)


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