◆子宮頸がんワクチンとヒトパピローマウイルス
子宮頸がんと診断される人は、およそ11000人。年におよそ2900人の人が亡くなっています。
この子宮頸がんの患者の多くに関係するのが、こちらのヒトパピローマウイルス(HPV)。そして、このウイルスの感染を予防するのが子宮頸がんワクチンで、WHO(世界保健機関)や多くの国で接種がすすめられています。日本では、2022年4月から子宮頸がんワクチンの接種を呼び掛ける「積極的な勧奨」が再開されました。定期接種の対象は小学校6年生~高校1年生の女子で、市区町村からお知らせが届きます。定期接種できるのは2価ワクチンと4価ワクチンです。そして、同じワクチンを合計3回、公費、つまり無料で接種できます。
日本では、9年前に、積極勧奨がされていましたが、接種後に続く、体の痛みなどの「多様な症状」の訴えが相次ぎ、不安が広がったため、積極的な勧奨が控えられていました。その後、専門家などの検討が続き、国の調査研究などから、ワクチン接種していない人でも同様の症状があることがわかり、また安全性についても特段の懸念が認められないなどとして、積極勧奨が再開されたのです。
ヒトパピローマウイルス(HPV)には200以上の型があり、少なくとも15の型が子宮頸がんに関係しています。ウイルスの遺伝情報はもたない偽のHPVがワクチンとして使われています。2価ワクチンは、特にリスクの高い16型・18型という2つの型に対応し、また、4価はこれら以外に、さらに2つの型に対応できるワクチンです。そして、このウイルスは性的接触で感染するので、性交渉を経験する前にワクチン接種した方が効果があることが分かっています。
◆ワクチンの効果は?
ヒトパピローマウイルス(HPV)感染してから、がんが発症するまで数年から十数年かかります。世界各国で接種がはじまってから10年以上たち、ようやくワクチンが子宮頸がん発症予防する効果についてのデータが出はじめました。注目された研究の一つが、こちらのスウェーデンのデータです。167万人を超える女性を対象に、ワクチンを接種していない人の子宮頸がんの発症リスクと、10~30歳で少なくとも1回接種した人のリスクを比べると、63%低いことがわかりました。さらに詳しく年齢別でみると、17~30歳で接種すると53%減、10~16歳で接種すると88%減と、年齢が低いときに接種した女性の方が、効果が高かいことがわかりました。
また2価ワクチンでも、同様なワクチンの有効性を示すデータが世界各国で出ています。
では日本人の場合はどうなのでしょうか?
「前がん病変」でのデータが日本でも出はじめています。
前がん病変は、がんになる前の段階です。子宮頸がんの場合、ウイルスが子宮の頸部に感染してから、数年から十数年という時間を経て、人によっては、前がん病変ができ、それが軽度→中等度→高度と進行し、最後にがんになります。3万人を超える20~29歳の女性を対象に調べたところ、前がん病変の発症リスクは、過去にワクチン接種していると、中等度では76%減少、高度では91%減少と効果があることがわかりました。
◆ワクチンの副反応は?
一方、ワクチンの副反応については、どういうことがわかっているのでしょうか?
子宮頸がんワクチンは、新型コロナウイルスのワクチンと同様、筋肉注射です。2価ワクチン、4価ワクチンに共通して多い副反応は、注射をした部分の痛み・皮膚が赤くなる・腫れでした。また、それ以外に、発熱、関節・筋肉痛、頭痛など様々な症状があります。さらに、例えば、アナフィラキシー(呼吸困難・じんましんなどの重いアレルギー)など、重度なものも頻度は低いのですがあります。
日本国内では、これまで、ワクチン接種後、1万人あたり、約10人に何らかの症状があり、そのうちの、約6人に入院などの重篤な症状がありと判断されたという報告もありました。ただこれらには、因果関係があるかどうかわからないもの、接種後短期間で回復した症状なども含まれています。6月以降、積極的な勧奨が再開してから、どんな副反応があったのかなど、国の方でまとめて順次報告していく予定とのことです。
◆接種の不安・ストレスを減らすには?
自分の子どもが接種する場合、やはり大丈夫だろうかと心配してしまう保護者の方もいるかと思います。不安になるのは当然です。
最近、子宮頸がんワクチンに限らず、新型コロナワクチンなど、さまざまなワクチンの接種前・接種時・接種後に、人によってはストレス・不安などを感じ、それをきっかけに、痛みを感じたり、体が変化することがわかってきました。接種ストレス関連反応(ISRR)とも呼ばれ、WHOから提唱されています。ただ接種をする医師が丁寧に説明し、本人が理解・納得して接種することで、これらのストレス・不安などが軽減されることがわかっています。ともかくストレス・不安などを減らすためにも、気になることがあれば早目にまず接種医・かかりつけ医に相談することが大切で、また医療機関側も丁寧なフォローをしていただけたらと思います。
◆定期接種を逃した場合は、キャッチアップ接種を!
そして、「積極的勧奨」が止まっていたために、知らずに定期接種の機会を逃してしまった人もいるかと思います。定期接種の機会を逃した人への「キャッチアップ接種」が、誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日の女性で、合計3回接種していない人を対象に、2022年4月~2025年3月までの3年間、公費・無料での接種が可能になります。
◆9価ワクチン
また、もう一つ注目したいことが。9価ワクチン接種です。9価ワクチンは、4価ワクチンが対応する型に、さらに5つの型を加えたもので、子宮頸がんの9割の予防が可能というデータもでています。日本では、任意接種のため、約10万円の費用を全額自己負担することで接種は可能です。(接種は3回)
今、国内では、9価のワクチンを公費で接種できるようにするかなど検討中とのことです。ただ、海外では、有効だということで、若年者への2回接種もはじまっています。日本では、ワクチンの種類に関わらず3回接種が基本です。今後、2回接種の有効性も含めて9価ワクチンを検討する可能性もあるかもしれません。そうなると、9価が公費で接種できるのはまだ先かもしれません。
ともかく、もし接種するのであれば、大切なのは、感染前にワクチン接種することで、早い年齢で接種した方が、がんのリスクがより減らせるかもしれません。
今後も、子宮頸がんワクチンの新しい情報が出てくるかもしれません。ワクチンを接種するのか、しないのか、接種の対象年齢になったら、ご本人も保護者の方も、ワクチンの効果とリスクなどの情報を集め、まず、どうするのがいいのかを検討してみることが大切かもしれません。
(矢島 ゆき子 解説委員)
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