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変わる高校教育 キーワードは「探究」

二宮 徹  解説委員

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全国の高校で、この4月から「総合的な探究の時間」が始まるなど、「探究」を重視するようになりました。生徒自らが問題意識を持って、解決策を探っていく、この「探究」。高校の授業はどう変わり、どんな効果が期待されるのかなどについて、教育担当の二宮徹解説委員が解説します。

<高校で「探究」が本格実施>

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教育内容を定めた高校の学習指導要領が改訂され、4月から実施されました。
まず、必修の「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」に名前が変わりました。3年前から一部で始まっていましたが、全面実施で一層の充実が図られます。
また、選択科目に理数探究基礎と理数探究が新設されたほか、国語と地理歴史の再編で、主に2年生以降が学ぶ科目に、古典探究や世界史探究などができました。
「探究」と付いた科目はこれまで一つもなかったのですが、7つも設けられました。しかも、新しい学習指導要領は、ほかの教科・科目でも「探究的な学び」を強調しています。

<「探究」とは?>
そもそも「探究」とは、何を学ぶというより、教え方、学び方が、通常の授業と違うのです。大学入学共通テストに「探究」という科目が増えるわけではありません。

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通常の授業は、主に教科書を使って、教師が板書をしながら、ほぼ一方的に進めますが、「探究」は、生徒自身が問いを立て、情報を集め、意見を交わしながら、課題解決を探っていきます。
あくまで一例ですが、「鎌倉幕府の滅亡は何年か?」のような、いわゆる暗記知識ではなく、「鎌倉の観光客を増やすにはどうすればよいか?」のように、答えが一つではない課題を探り、究めます。世界史の授業で、ロシアによるウクライナ侵攻の歴史的背景を深く探るのも探究です。

<なぜ「探究」?>
授業の進め方が違う「探究」。なぜ、今、探究を重視するのでしょうか?

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今の社会、時代の変化に対応するためです。
IT化で、単なる暗記知識は、パソコン一つ、スマホ一つですぐ答えが見つかります。一方で、グローバル化や多様化の中、差別や環境、高齢化などの課題が複雑に絡み合っています。
世界も時代も変わる中で、自ら課題を見つけ、解決に取り組める人材こそ必要というわけです。企業や大学もこうした人材を求めています。

<先進校・堀川高校の「探究」>
それでは、「探究」の授業は、具体的にどんな授業なのでしょうか?
先月、20年以上前から、「探究」を軸にした教育に取り組んでいる高校に行ってきました。

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京都市立堀川高校は、1999年度から探究学習に取り組んできました。導入直後から生徒の学習意欲が向上し、進学実績も急上昇したことで、全国から注目を集め続けています。
入学したばかりの1年生のクラスで先月行われた、最初の「探究」の授業では、4人グループで、「なぜ眠るのか?」「なぜ飽きるのか?」「圧力鍋の仕組みは?」など、日頃、疑問に感じていることを出し合いました。他の生徒や教師が質問をしながら、それぞれの「なぜ?」を深めます。

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廊下には、入学前に集めた、生徒たちの「知りたいこと」が掲示されています。その数なんと、およそ5000。一人あたり20個以上です。これら一人一人の興味・関心を重視しがら、3年間、学びを深めていきます。

<生徒の「なぜ?」を深める>

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集まった疑問は、「毛玉やホクロはなぜできる?」「渋滞はなくせるか?」、「心はどこにあるの?」など、実に多種多様です。中には、ちょっと調べればわかることもある一方で、奥が深い疑問もあります。
例えば、以前、「弟の足はなぜくさいのか?」と考えた生徒がいたそうです。そこで、「くさいってどういうことか?」「どうすれば比べられるか?」など、どんどん発展させたところ、生徒は、においのもとになる細菌を培養したほか、食べ物を腐らせない菌を調べ、そこから食糧の保存に関心を持ち、「国際的な貧困問題」に行き着いたそうです。
こうして、生徒の「なぜ?」を深めていくのが探究なのが、学力や進学、就職にどうつながるのか気になる人も多いかと思います。
そこで、進学でも大きな実績を挙げている堀川高校を見ると、ある重要な視点があるのです。

<堀川高校に見るヒント>

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他の教科との連動です。探究では、論文や資料を読んだり、データを集計したりしますが、それには、国語や数学など、他の教科の知識が必要だと気付きます。また、考えを説明するには、論理的に話す力も欠かせません。
こうして他の教科を学ぶ意欲が高まり、大学などで何をどう学びたいか、将来何をしたいかという具体的な目標につながるといいます。
生徒の意欲を広く引き出す「探究」が全国の高校で始まったということで、効果の広がりが期待できますが、これこそ根深い課題があって、簡単ではなさそうです。

<探究の課題=指導力や人材確保>

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まずは、教師をはじめとする人材です。指導力、つまり「どんなテーマを深めるか?」「どう声をかけながら導くか?」などがとても重要です。
しかも、多様なテーマに、教師一人で対応するのは困難です。堀川高校では探究のサポートに、市の予算で30人の大学院生に来てもらっています。こうした大学生や大学院生は、身近な将来の姿でもあり、とても有効だといいます。
しかし、全国には大学がない地域も多く、オンラインで協力してもらうなどの工夫が必要です。国や自治体は、予算や人材面での支援を増やしてほしいと思います。地域によって格差が生じないようすることも必要です。

<進学や就職は?>
もう一つの課題は、進学や就職。特に、入試でどう評価するかです。一生懸命、「探究」に取り組んでも、入試が1点刻みの知識比べのままでは意味がありません。

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ただ、大学側もすでに変わってきています。小論文や面接で選ぶ総合型や学校推薦型の入試が増え、私立では半数あまりがこうした入試で入学していますし、国公立でも増え始めています。
進学、就職とも、「探究」の成果や姿勢をもっと適切に評価できるようになってほしいと思います。
でも、入試にこだわりすぎると、「探究」の目的を見失ってしまうかもしれません。堀川高校の飯澤功教頭は、探究で得たものはもっと先の人生で活きるといいます。「これからの世の中を明るく生きていける力を身につけてもらうのが最大の目的。壁や困難にぶつかっても、ワクワクしながら解決に向かう心と能力で乗り越えてほしい」と話していました。

高校生たちには、「探究」を通じて生き生きと学んでほしいと思います。それに、探究的な学びは、小中学校でも広がっています。
でも、自分の好きな探究だけをするわけではありませんし、授業の多くはそれほど変わらないかもしれません。「単なる暗記ではない学び」の時間と重みが増すということです。
探究重視で、子どもたち、特に高校生はどう変わるのか。日本や地域の未来につながることなので、しっかり見つめていきたいと思います。

(二宮 徹 解説委員)

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