例年、梅雨明けした7月から8月にかけて多くなる熱中症。熱中症対策は本格的な夏になってから考えればいいと思う人もいるかもしれませんが、実は暑くなる前からはじめることが大切です。今からできる熱中症対策、どんなことがあるのでしょうか?
◆熱中症、いつから注意すべき?
熱中症はいつから注意した方がいいのでしょうか?5月から9月に熱中症で救急搬送された人のデータを見てみると、全国で47877人。7月が一番多く、21372人と2020年の2.5倍、夏に熱中症が多いことがわかります。ただ5月も1626人の人が搬送されていて、今の時期から注意が必要なことがわかります。
そして、熱中症を予防するためには、暑さに強い体、つまり汗をかくことができる体づくり欠かせません。これは本格的に暑くなる前の今の時期からはじめることが大切です。
◆どうして「汗をかく体づくり」が、熱中症予防につながる?
暑いときに、体を動かすと、体内で熱がつくられて体温が上昇します。その時、汗をかくことがあると思いますが、汗が蒸発するときに体の熱が奪われて体温が下がります。あるいは、血液量が増えて皮膚の血管が広がり、体の熱が空気中に出ていきます。
汗をかくことで上昇した体温が下がるというように、体温はいつも調節されているのです。しかし、この汗をかく体温調節などがうまくできなくなると、体の中に熱がたまって体温が異常に上昇し、その結果、熱中症になり、めまい・立ちくらみ・頭痛などのさまざまな症状が出てしまいます。
◆ 汗をかく体をつくる
では、汗をかく体は、どうすれば作れるのでしょうか?大切なのは「やや暑い環境」「ややきつい」、つまり汗ばむ程度の運動、ウォーキングなどを継続することです。個人差がありますが、運動をはじめてから数日すると汗がだんだん早く出るようになります。そして、数週間かけて、体を少し動かすだけでも汗をかけるようなり、体温が上がりにくくなり、熱中症の予防につながります。熱中症に詳しい帝京大学三宅康史教授にお話しを伺ったところ、いきなり「やや暑い環境」で運動などをはじめるのはリスクがあるので、まず、涼しい日、あるいは気温が上がる前の時間帯などに体を動かし、汗をかき、暑さに備えることがポイントとのことでした。また、お天気が悪い場合は、室内での、筋トレ・ストレッチでも軽く汗をかくことができます。ただし注意していただきたいことが。今の時期は昼間、気温が上がっても、夜は寒いことがあると思います。せっかく汗をかけるようになって暑さに慣れても、夜、寒くて風邪をひいてしまう可能性があるので、汗をかいたら着替えたり、夜、涼しいと思ったら上着をきちんと着ることが大切です。
では、高齢者など、運動できない人はどうしたらいいのでしょうか?三宅教授曰く、今の時期、暑くないときに、外に出て散歩しながら日に当たるだけで違うということです。また、シャワーではなく、お風呂に入る、入浴することで、適度に汗をかくことも良いそうです。
◆脱水状態にならない体をつくる
もう一つ熱中症予防のために大切なことがあります。それは脱水状態にならない体を作ること。つまり、体内の水分を減らさないことも大切です。実は、ウォーキングなどで筋肉がつくと、体に多くの水分がためられ、脱水状態になりにくくなります。体の水分量は成人男性では体重の60%が水分で、その4割は筋肉などの細胞にためられているからです。高齢になると、体内の水分量が体重の50~55%ほどと少なくなります。また高齢者は、体温調節の働きが悪いことが多いので、脱水状態にならないためにも、筋肉量を減らさないようにする、維持することが大切です。
新型コロナウイルスの流行で、外出自粛や在宅勤務が続き、動く量が減り、筋肉が減少した人もいるかもしれません。またやはり筋肉の維持は大変だと心配する高齢者の方がいるかもしれませんが、この脱水状態は水分補給の習慣化で防ぐことができます。特に高齢者は喉の渇きを感じていなくても、気がつかないうちに水分が失われていることが多ので、特に水分が失われがちになる運動後・入浴後・睡眠をとった後などに、水分補給が大切です。
また、新型コロナウイルスのためにマスクを着けることが多いと思います。マスクをしていることで口内の湿度が保たれて、体の水分が足りていると錯覚して、熱中症になりかねないので、こまめに水分補給を心がけましょう。これから気温、湿度が高くなり、熱中症のリスクもあるので、屋外で人との距離が十分ある場合は、適宜、マスクをはずすことも大切になります。
◆健康管理をしっかりする
そして、熱中症予防のためには、健康管理をしっかりしましょう。具体的には、十分な睡眠。これは、体温調節を悪化させないためにも必要です。3度のバランスのよい食事は、汗をかいたときに体の外にでてしまう水分・塩分などを補うことができるので大切です。またアルコールの飲み過ぎると、体にたくわえられている水分が体の外に出やすくなるので、脱水状態にならないためにも気をつけましょう。
熱中症は、もちろん気温が暑いときに発症しますが、実は、発症する人は、体調が悪い人、高血圧・心臓病などの持病が悪化した人などが多いので、健康管理・体調管理そのものが熱中症予防につながるのです。三宅教授が言うには、新型コロナで体温測定が習慣化した人も多いと思うので、同時に、脱水していないかの目安になる体重なども測定してメモをとるなど体調の見える化がおすすめだとのことでした。
◆熱中症の発生場所は住居が多い
去年、熱中症を発症する場所で一番多かったのが住居・自宅でした。また昼間だけでなく、夜から明け方にかけても熱中症になる人がいます。昼間だけでなく、寝ているときにも含めてエアコンなどで室温を適切に保つことが大切で、今のうちからきちんと動くかどうか確認しておくといいかもしれません。
今の時期から無理のない範囲で、汗をかける体づくりなどを続け、急に暑くなっても大丈夫なように備えていただけたらと思います。
(矢島 ゆき子 解説委員)
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