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ウクライナ危機 日本の安全保障・憲法論議にどう影響?

曽我 英弘  解説委員

5月のNHK世論調査がまとまった。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の終わりが見えず、日本の安全保障をめぐる議論も熱を帯び始めている。こうした状況を国民はどう考えているのかについて調査結果から探る。

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ウクライナ危機
【ロシア外交官ら追放措置/政府の対応】
ロシアへの新たな制裁措置、日本も相次いで打ち出している。

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岸田総理大臣は先週、資産凍結の対象となるロシアの銀行や個人などを追加したのに続き、9日はG7=主要7か国のオンラインの首脳会合でロシア産の石油を原則禁輸する方針を表明した。一方で外交面でも圧力を強めていて、駐日ロシア大使館の外交官など8人を国外に追放したが、この対応を「評価する」人は「大いに」「ある程度」あわせて63%。日本政府のこれまでの対応を「評価する」は68%と依然として高い水準にある。背景には軍事支援を行う欧米並みとはいかないまでも、日本ができることはおおむね行っていると受け止められているからではないか。
ただロシアの侵攻は続いている。プーチン大統領はきのうの演説でも軍事侵攻は「タイミングを得た、唯一の正しい判断だった」と正当化している。岸田総理は「国際社会は大きな歴史の岐路に立っている」としているが、G20で制裁に加わっているのはおよそ半数にとどまり、通貨ルーブルは侵攻前の水準にほぼ回復してもいる。制裁は効果に時間がかかるうえ限界もあるほか、行う側にもダメージがあるだけに、今の評価がいつまで続くかは見通せない。

日本の安全保障
【「反撃能力」保有の賛否】
日本の安全保障の関心も高まっている。焦点のひとつに浮上しているのが、「反撃能力」という考え方だ。

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4月自民党が岸田総理に提言した。「反撃能力」は、弾道ミサイルなどによる攻撃に対処するため、敵のミサイル発射基地などを破壊する能力で、自民党は日本が持つべきだとしている。そこで、こうした能力を持つことへの賛否を聞いたところ「賛成」は55%、「反対」は29%だった。
今後の論点として重要なポイントは「専守防衛」との関係だ。「専守防衛」は戦後日本が一貫して取ってきた防衛戦略の基本理念で、「相手から攻撃を受けたときにはじめて防衛力を行使し、保持する防衛力も自衛のための必要最小限に限る」という考え方だ。これに基づき政府は、敵の基地を攻撃する能力は憲法上認められる一方で、日米の防衛協力のもと、実際の攻撃はアメリカが担うという立場をとっている。ただ自民党は、「専守防衛」を堅持しながら、「相手側に攻撃の意図が明確にあり、すでに着手している状況であると政府が判断すれば攻撃は可能だ」と説明している。また対象を基地だけでなく「指揮統制機能」などにまで拡げることも議論を呼んでいる。「攻撃の意図」「着手している状況」などの見極めは難しく、対象が際限なく広がるのではないかという指摘もあり、立憲民主党や共産党などは「専守防衛から逸脱し、先制攻撃の可能性をはらむ」としていて、今後大きな争点となることは間違いない。

【防衛費をどうすべきか】
また防衛費のあり方も議論が活発になっている。

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これまで慎重だったドイツが大幅な増額に政策転換し、北欧もこれに続くなどヨーロッパを中心に見直す動きがある。そこで、日本の防衛費をどのようにすべきか聞いたところ、「増やすべき」は52%、「今のままでよい」は29%、「減らすべき」は7%と「増やすべき」が半数を超えている。ただ年代、性別では温度差もうかがえ、50、60代の6割余りが「増やすべき」と答える一方、70歳以上は5割、女性は4割にとどまった。

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日本の政治はどう対応しようとしているのだろうか。日本は長年、防衛費を対GDP比1%程度の水準を維持してきているが、自民党は2%以上を念頭に、5年以内に増額するよう求めている。一方で公明党は大幅な増額には慎重で、今回の調査で自民党支持層の6割が「増やすべき」とする一方で、公明党は4割と与党を支持する人たちの間でもかなりの開きがあった。「専守防衛」を堅持しながら、いかに防衛力を高めるか。そのために必要な予算はどのような水準か。国民的な議論を冷静に行うとともに、政府の丁寧な説明が何より求められる。

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【緊急事態条項創設で憲法改正】
そしてウクライナ危機は、憲法論議にも少なからず影響を与えている。

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大規模な災害やテロなどの緊急事態が発生したときに政府の権限を一時的に強めたり、国会議員の任期を延長したりする「緊急事態条項」を、憲法を改正して加えるべきだという意見がある。これに対し憲法を改正しなくても今の法律で対応できるという意見もある。そこで憲法を改正して「緊急事態条項」を設けることの賛否を聞いたところ、「賛成」「反対」ともに40%と意見は分かれた。
国会での議論で中心となっているのは、議員任期の規定をめぐってだ。憲法は衆議院の任期を4年、参議院を6年と定める一方で任期が切れた後の規定はないため、任期満了を前に大災害などが起きて選挙を行うことが難しい場合、議員が不在になる恐れがある。「緊急事態条項」は海外の9割を超える憲法に規定があることから、これを憲法改正の突破口として期待する声がある一方で、「議員任期の延長」は政権の延命に利用されかねず、「総理大臣への権限集中」も「政府への白紙委任につながる」との慎重論も根強い。緊急時に国民の生命と財産を守るため、政府や議会がいかに役割を果たすか。憲法の観点からも議論を深める必要がある。

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政治の行方
【物価上昇の緊急対策】
終わりに政治の行方を考える。ウクライナ危機、新型コロナへの対応に追われる岸田政権だが、ここにきて最重要課題に加わったのが深刻な物価高、そして急激な円安だ。

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東京23区の消費者物価指数は4月中旬時点で、去年の同じ月を1.9%上回り、およそ7年ぶりの上昇幅となった。さらに日米の金利差も背景にした急激な円安が輸入価格をいっそう押し上げている。これを受けて政府は、低所得の子育て世帯への給付金などを盛り込んだ緊急対策を決定し、これを「評価する」人は56%に上っている。

【内閣支持】

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このように山積する国内外の課題への対応に一定の評価をされていることが岸田内閣の比較的高い支持率を下支えているとみられ、5月の内閣支持率は55%と、7か月連続で50%を超え、ことし1月に次ぐ高い水準となった。

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また各党の支持率にも大きな変化は見られない。ただウクライナ危機が長期化する中でロシアへの制裁をいつまで続けることになるのか。また物価はいつになったら落ち着きを取り戻せるのか、いずれも予断を許さない。
それだけにこうした動向が、公示まで1か月余りの見通しの参議院選挙の行方にも少なからず影響を与えることになりそうだ。

(曽我 英弘 解説委員)

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