きょうは、知って得する年金特集です。
年金制度が4月から大きく変わりました。
受け取る額が、本人の選択しだいで、さらに大きく変わることになりました。
いつから、どうやってもらえばいいのか?
担当は竹田忠解説委員です。(たけだ・ただし)
Q①年金制度が変わる、これは暮らしを大きく左右する話しですよね。
A
そうなんです。
やはり年金というのは、人生設計の柱ですから。
今回変わった点、たくさんあるんですが、
きょうはこの3つを見てみます。
▼さらば年金手帳
▼“繰り下げ”の上限が75歳に
▼“働く年金”が使いやすく
Q②最初は、さらば年金手帳。
年金手帳って、年金制度の象徴みたいなものですよね?
それが、さらば・・なんですか?
A
そうなんです。その手帳が実は、4月から新規発行が停止されてます。
年金手帳は、本人に基礎年金番号を知らせることが大きな役目だったんですが、
今後はかわりに「基礎年金番号通知書」というものを、20歳になる人に送ると。
通知書は、お知らせの文書と一体になっていまして、
ミシン目で切り離すと、クレジットカードの大きさになります。
この通知書は、すでに年金手帳を持っている人には発行されませんので、
手帳をお持ちの方は、今後も、番号の控えとして
大切に保管しておいてほしいと厚生労働省では呼び掛けています。
Q③次は“繰り下げ”の上限が75歳に。
“繰り下げ”というのは、まだなじみのある言葉ではないですよね?
A
そうなんです。でもこれが今回の最大の改正点なんです。
どういうことかというと、
年金のもらいはじめは65歳が標準なんですが、
これはあくまで標準であって、本人が希望すれば、早くも遅くもできる。
65歳より早くするのを“繰り上げ”、
遅くするのを“繰り下げ”といいます。
以前は、60歳から70歳までの間の選択、だったんですが、
新たに最大75歳まで繰り下げできるようになった。
これによって、年金の額も、変わってきます。
たとえば、もらいはじめは一ヶ月単位でずらすことができまして、
繰り下げの場合は、一ヶ月遅らせるごとに0.7%、額が増えます。
なので、65歳でもらえる額を100とした場合、
70歳まで遅らせると142%
そして最大、今回改正された75歳まで遅らせると184%になります。
Q④1.8倍ですか!
A
そうなんです。逆に、繰り上げの場合は、額が減ります。
一ヶ月早めるごとに0.4%減額されます。
その結果、最も早く、60歳からもらうと、年金は76%に減ります。
そして、注意が必要なのは、
・繰り上げでも、繰り下げでも、
いったんその額でもらいはじめたら、あとから変更はできません。
・その額が一生、続くことになります。
Q⑤もらう時期をずらすだけで、額がこんなに変わって、
しかも、いったん選んだら変更できない。
これは、相当、判断が難しいですよね、悩みますね。
そもそもなぜ、こういう仕組みにしたんでしょう?
A
一言でいえば、人生100年時代に備えるためです。
どういうことかというと、
現在、平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳。
ただ、これはあくまで平均ですから、もっと長生きする人が増えます。
厚生労働省の推計では、およそ20年後には、
65歳の人が90歳まで生きる割合は
男性は42%、女性は68%に達します。
さらに100歳まで生きる割合は
男性で6%、女性で20%にのぼります。
まさに、人生100年が、現実になりつつあるわけです。
この長くなった老後を支えるためには、
働けるうちは、できるだけ長く働いて、収入を維持して
働けなくなったら、それまでの繰り下げで増やしておいた年金を
その後一生もらう、
そうすればより安心できるのでは、という狙いなんです。
Q⑥安心して長生きできる、というのはみんなの願いだと思うんですけど、
でも、みんながみんな、長く働けるわけではないし、
お金がなくて、早く年金がほしいという方もいらっしゃいますよね?
A
おっしゃる通りです。そこはいろんな事情があって、
いつからもらうかは、一人ひとりの判断なわけです。
そうすると、どうしても気になってくるのが、
年金を標準でもらう場合と、ずらしてもらう場合とで
受け取る年金の総額が、どう違ってくるのか?違わないのか?
これについて厚生労働省は、
年金は損得で考えるものではない!という立場なので
積極的な説明は控えていますが、
でも、年金を受け取る側としては、どうしても気になりますよね。
さきほど触れたように、
年金の増額率と減額率はそれぞれ公表されてますので、
それをもとにすれば、実はだれでも大体の計算はできるんです。
それがこのグラフです。
縦軸が年金の総額で、横軸が年齢です。
たとえば、70歳からもらいはじめると、
受け取る年金の総額は、おおよそ82歳で、
65歳から標準でもらう総額を追い越します。
また、75歳からもらい始めた場合は、
およそ87歳で、65歳の標準に追いつき、追い越します。
つまり、繰り下げを選んだ場合は、
何歳からもらおうと、ほぼ12年たてば、
65歳の標準に総額で追いつき、追いこす、という計算になります。
ちなみに、75歳と、70歳の場合を比較すると、
75歳が、70歳の場合を追い抜くのは
およそ92歳、ということになります。
なので、この場合はかなり長生きすることが必要になる計算です。
一方、繰り上げの場合では、
最も早く、60歳からもらい始める総額は
81歳で、65歳からの総額に抜かれます。
このように、いつからもらえば得か損かというのは
結局は、その人の寿命しだい、ということになってくるわけです。
Q⑦その人の寿命しだい、という話しですが、
そうなると、年金を繰り下げて待っている途中で
その人が亡くなってしまったら、どうなるんですか?
年金を全くもらえないまま、ということになるんですか?
A
はい、その場合は、遺族の方が受け取れます。
たとえば、70歳まで繰り下げている途中の人が
69歳で死亡してしまった場合は、
65歳から、亡くなるまでの間、
標準でもらえるはずだった年金を、
遺族の人が、年金の時効5年の範囲内で
まとめてもらえることになります。
Q⑧そういうことですか。
年金をいつからもらうか、という判断が、
こんなに大変なものとは知りませんでした。
で、その繰り下げや繰り上げをする場合、
その判断をいつ、どうやってすればいいんでしょう?
A
はい、そこも重要なポイントですよね。
ただ、たとえば年金を繰り下げる場合、
いつまで遅らせるか、ということを最初から決めておく必要はないんです。
というのも、65歳になる3か月ほど前に日本年金機構から書類が届きます。
ここで手続きをしなければ、自動的に繰り下げとみなされます。
ですから、とりあえず、元気で働けるうちは、繰り下げをしてみて、
そろそろ仕事をやめようと思ったら、
そこから年金事務所に行って手続きをして
増額した年金をもらいはじめる、ということができるんです。
一方、繰り上げの場合は、できるだけ早く、
年金事務所に行って相談することが必要です。
Q⑨そういうことですか。
最後の三つ目、働く年金が使いやすく、ですが。
A
はい、これも長く働くことを後押しする改正です。
具体的には、在職老齢年金と言われる、
働きながらもらう年金が、カットされにくくなった、という話しなんです。
対象となるのは、60歳以上65歳未満の人です。
たとえば、給与が30万円、年金が10万円の場合、
基準額の28万円を超える、12万円が超過となり、
この超過分の半分の6万円が年金からカットされていました。
結果、10万円の年金がわずか4万円になっていた。
しかし改正後は、
この基準額が47万円に上がって、年金がカットされにくくなって、
この場合は、年金が全額受け取れるようになった、ということなんです。
人生100年、年金制度をうまくつかいこなすことが
今後ますます重要になってくると思います。
(竹田 忠 解説委員)
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