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コロナで変わる? 保育所のおむつ持ち帰り

米原 達生  解説委員

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●コロナで変わる?保育所の“おむつ持ち帰り”

誰もがお世話になったことのある「おむつ」の話題です。
保育所で使用済みのおむつを保護者に持って帰ってもらう“謎ルール”。
コロナによる感染対策意識の高まりもあって、疑問の声が噴出し、見直しの動きも広がっています。
おむつの持ち帰りがなぜ始まり、どう続いてきたのか、少し掘り下げて考えました。

【おむつ帰りとは?】
Q.
使用済みのおむつの持ち帰りとは、どういうルールですか。
A.
最近の民間の調査で、使用済みのおむつを保護者に持ち帰ってもらうことがある自治体が、公立保育所のある自治体のうちの4割を占めることが分かりました。健康状態のチェックなどを理由にして続いています。
保育所には子どもごとにおむつの箱が並んでいて、まず、保護者がおむつに名前を書いて持って行きます。そして保育園ではおむつを替えると、子どもごとにこの箱で保管して、お迎えの時間に渡しているんです。

Q.
子どものものとはいえ、持ち帰るのは抵抗があります。

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A.
親からすると仕事帰りの荷物に加えて、子どもとその荷物、そこに、使用済みのたくさんのおむつを持ち帰らないといけません。重いですし、においも気になって、電車やバスに乗りにくい、買い物に立ち寄れない、荷物に臭いがついてしまった、といった声を聞きます。
では、保育士はどうかというと、忙しい中でおむつを替えるたびに、子どもの箱を間違えないように気をつけないといけないし、それでも時々間違えてしまって苦情をうけるのがストレスだということです。

Q.
双方にとってあまりいいルールではないようですね。

A.
そうですね。で、このルール、地域差があることも分かりました。

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保育所の運営やおむつの定額利用サービスを手がける大阪の会社が、公立保育所のある全国の市区町村にことし初めて調査を行いました。赤色が濃い方が持ち帰りのある自治体の割合が多い都道府県です。把握できなかった市区町村もあるので一概には言えませんが、西で高く、東で低い傾向が見て取れます。理由はわからないということですが、お迎えの交通手段や布おむつの使用など地域事情があるのかもしれません。特筆すべきは、東京23区では一つもないということです。これは東京では5年ほど前から自治体が相次いで持ち帰りをやめたそうなんです。

Q.
なぜなんでしょう?
A.
きっかけの一つと言われているのが、フランス在住で日本との子育て支援の差について発信しているライターの高崎順子さんのツイートです。ツイッターで親の声を集め、これをきっかけにSNSで保護者の声がつながって、問題意識が高まったと言われています。

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高崎さんに、なぜあえてこの話題を取り上げたのか聞いた所、「日本とフランスの保育所を比較する中で、これが衝撃的に違うことだった、と。排泄物を街なかで持ち歩かせるあり得ない話が『親でしょ』の一言で行われていることは、日本の子育てが困難だといわれる象徴だと思った」と話していました。

Q.
一方で西日本や関西は持ち帰りのところがずいぶん多かったですね?
A.
実は今、見直しの動きが広がっているんです。きっかけは新型コロナです。

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皆が感染対策に取り組む中で、排泄物を長時間保管し、保護者に持って帰ってもらう、しかも他の子のものが紛れ込む可能性があるということに、疑問の声が噴出しているんです。
こちらの関西地図、赤が持ち帰りありの自治体、緑がなしですが、この1年足らずの間に、大阪と兵庫で5つ、奈良で9つの自治体がおむつの持ち帰りをやめて、保育所での廃棄を決めるなど見直しの動きが広がっています。

【そもそもなぜ?】
Q.
いま見直しが行われているというのは分かりますが、そもそもなぜ、持ち帰るルールが続いてきたんですか?

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A.
最も多くの自治体が挙げている理由は、体調確認です。これはもともと布おむつを使っていた時代からの名残と言われています。布おむつは捨てずに持ち帰って洗うわけですが、そのときに中身を見れば、子どもの健康状態もチェックできるとされてきました。その慣習が、紙おむつが普及するなかでも残ってしまったんです。ただ、持ち帰ってわざわざ紙おむつの中身を確認する人が多いとは思えません。その必要があるのか、小児科の専門医・大阪母子医療センター・消化器・内分泌科の惠谷ゆり主任部長に聞きましたが、「便の状態把握は大事だけど、異常があったときに、保育士から聞けば十分。持ち帰っておむつを開けて見てもらうのは特にノロウイルスなどの感染対策を考えると好ましくない」と話していました。

Q.
で、もう一つの理由がゴミの保管・回収、予算の問題ですね。

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A.
実際に変えようと思うと直面する課題です。
保育所の運営は公費負担と利用者負担を合わせた「公定価格」で基本的にまかなわれています。この公定価格には紙おむつの処分費用は含まれていないんです。厚生労働省に尋ねると、先ほどのように、子どもの使用済みおむつは体調確認に使っている自治体もあるので「おむつは捨てるものになっていない」という説明です。
ちなみに、高齢者施設ではおむつは当然捨てるものとして、介護保険給付に含まれています。

ではどれくらい手間とお金がかかるのか。去年9月に持ち帰りを見直した大阪・吹田市に聞いていますと、最初にかかったのは、ゴミ箱代。臭いが漏れないタイプで、園に1つ約5万円。そして、他の燃えるゴミと一緒に事業系一般廃棄物として有料で処分するのですが、増えた費用が保育所1か所あたりで概ね1か月1万円程度だったと言うことです。
吹田市はコロナの感染対策の一環で予算を計上していますが、どの自治体でも保育所でも、こうした負担をどうするのかは考えなければなりません。

Q.
残っている理由は何ですか?

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A.
実は二番目に多かった回答はこちらです。「ずっとこうしてきた、理由はわからない」です。
理由にはなっていないのですが、自治体の担当者と話していて、多くの担当者の本音はここにあると思います。
保育の現場に詳しい大妻女子大学の石井章仁准教授は、おむつの持ち帰りのような、理屈では説明できない慣習が現場では結構残っていると指摘した上で、「健康状態の確認を理由に持ち帰らせるならその科学的根拠を、廃棄するなら利用者負担を含めたお金の説明をして、保育所と保護者がきちんと話し合って決めるべきだ」と話しています。

Q.
きちんと話し合って決めるのができないのは、なぜなんでしょう?
A.
背景には保育士に余裕がないことと、何よりも待機児童の問題があったのだと思います。

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保育士の配置についての国の最低基準は、例えば1,2歳児は子ども6人に保育士1人で、50年以上変わっていません。4歳児以上は30人に1人で、こちらも戦後間もない頃から変わっていないんです。加えて現場は慢性的な保育士不足です。
一方で保護者に聞いていると、「預かってもらうだけでありがたい」「おむつが外れるまでの辛抱だと思った」という声を耳にします。保育所を選ぶことが事実上できない中で、改善を求めることも、それを聞く余裕もなかったのが現実なのだと思います。

ただ、潮目は変わっています。待機児童の数は減っていて、去年4月には8割以上の市区町村では0になっているんです。保護者からも声が上がりやすくなるかもしれません。

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加えて待機児童の解消に合わせて、保育所や保育士のあり方も変えようという動きが出ています。
厚生労働省の検討会が去年12月に意見をとりまとめたんですが、その内容は、▼地域の中で孤立した子育てをして余裕のない家庭から乳幼児を預かる「一時預かり事業」を増やすことや、▼医療的ケア児、障害児、外国籍の子どもを受け入れる、となっています。つまり働いている親だけが利用する施設から、より厳しい環境の親子を支援していくことが方向性として打ち出されているんです。

Q.
そうなると、もう「親ができることはやってもらうという」ではすまされないですね。
A.
おむつの持ち帰りはそれ自体の問題もさることながら、子育てを社会と親でどう分けあうのかという問題の一つの現れです。新型コロナをきっかけに、これまで続けてきた慣習が本当にそのままでいいのか、少子化に歯止めがかからない中で、きちんと議論してほしいと思います。

(米原 達生 解説委員)

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