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再エネがもったいない!広がる太陽光発電の停止・出力制御

水野 倫之  解説委員

きょうは、暮らしに身近なエネルギー・電力がテーマ。
今月、四国電力など大手3電力で初めて、太陽光などの再生可能エネルギーの発電を止める「出力制御」が行われた。ウクライナ危機などの影響で電気代が高騰する中、燃料費タダで発電できるのにもったいないという声も。
なぜ今このエリアで再エネを止めるのか、対策はあるのか、水野倫之解説委員の解説。

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今回再エネの停止が初めて行われたのは四国、東北、中国の3つの大手電力管内。
3年前から行われていた九州電力管内からエリアが大きく広がった。

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まず四国電力が9日初めて行い、太陽光中心に最大15万kWの発電を停止。
次いで東北電力が10日に最大11万kW。
中国電力が17日に最大47万kW止めた。
四国と東北はその後の土日にも相次いで行っている。

この出力制御、政府や大手電力は、広域停電を防ぐためと説明。

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電気は簡単には貯めることができないため、使う量と発電量を同じにしてバランスを保たなければ。それが崩れると電気の質が悪くなり、発電機が故障を防ぐために自動的に停止、広域停電となってしまう。

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先月東京電力と東北電力管内で初めて需給ひっ迫警報が出され節電が呼びかけられた。この時は地震で発電所が停止していたのに加えて、寒波で電力需要が増え電気が足りなくなってバランスが崩れそうに。
今回はその逆。
電気が余ってバランスが崩れ停電のおそれがでてきたため、再エネを止めた。

電気が余る要員は太陽光発電の急増。

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東日本大震災のあと、再エネの電気を買い取る制度が始まり、各エリアとも設置が比較的容易な太陽光が急拡大。
四国エリアでは、昨年度までに311万kW ・大型発電所3基分と震災直後の16倍に、東北エリアでは29倍、また中国エリアでも16倍に。
これに対して電力の需要は今の春や秋の季節は、冷暖房需要があまりない。
特に工場の操業などが止まって電力需要が減る土日の昼間に晴れると、電気が余るようになってきた。

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こうした場合国のルールがあり、各社ともまず出力の調整が比較的容易な火力発電の出力を抑えた。
夕方以降の需要にこたえる必要があるので完全には止めない。
同時に揚水発電所で余った電気で水を汲み上げた。
揚水発電は上と下に池があって、必要なときに上の池から水を落として水車を回し発電できる巨大な蓄電池で、余った電気をここに貯めた。
さらに隣接するエリアに送電線で余った電気を送る「電力融通」を行うなどしても電力が余り、いよいよ太陽光などを止めることになったわけ。

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原発については政府は、昼夜を通して発電するベースとなる電源で、出力を短時間で調整することは技術的にも、また地元の了解も必要で難しく、止めるのは最後だと説明。
また今回東北と中国電力は原発が動いていなくても電気が余る状態に。
そこで今回各社は、こうしたルールに従って、一般家庭の太陽光は対象からはずし、10kW以上の設備を持つ事業者の中から毎回対象を決め、停止した。

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3社では、来月にかけて大型連休や土日に行う可能性が高いと。
またこれ以外にも今年度、北海道と沖縄電力管内で行われる可能性が高くなっている。
さらに九州電力管内では夏や冬にも行われるようになってきていて、管内の再エネ発電量の5%余りが停止すると見込まれ、このままだと出力制御は全国的にあたりまえになってくるかも。

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ただこの出力制御は再エネを増やすために、太陽光は天候次第で制御の可能性があることを国が事前に示し、事業者もこれを了解した上で再エネ事業に参入した結果でもある。
とはいえ再エネ事業者からは、「売電収入が得られないのは手痛い」と困惑の声も。
これから再エネ事業に参入したり拡大していこうという動きにも影響あると困る。
というのも政府は脱炭素に向けて再エネを主力電源と位置づけ、最優先最大限に導入する方針で、2030年には現状の倍近い36~38%導入する目標。
またウクライナ危機で、ほぼ輸入に頼る燃料の価格が高騰し電気代上がり続けているがその点再エネは国産のエネルギー、拡大していけばエネルギーの自給率向上にもつながる。
ですのでこの出力制御を今後いかに減らしていくかが大きな課題。

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まずは比較的はやくできる対策として、火力の出力をさらに落とす対策を急ぐこと。
政府は火力を50%以下に落とすよう求めてきたが、今回東北電力管内では古い火力の中には50%以上で運転された発電所も。
古い火力は、低い出力で安定して運転するには機器の改造が必要だということで、そうした対策への支援も考えていかなければ。

次にこれまでは需要が減る夜間に電気が余ることから、多くの電力会社が夜間の料金を安くするプランを提示。しかし今は時期によって昼間に電気が余るわけで、そうした時間帯を事前にメールなどで利用者に伝え安く利用できる料金プランができれば、需要を促すこともできるのではないか。
また電気を貯める対策も。
将来的には余った電気で水を分解して水素でためることも考えられるが現状有効なのが蓄電池。
ただ安くなってきているとは言えまだ値段が高めで、広く普及していないので、政府は蓄電池のコストダウンに向けた研究開発を急ぐ必要。

さらに長期的な対策として、ほかの地域と電力をやりとりできる送電線・連携線の増強も。
ただ今後全国的に増強した場合、数兆円のコストがかかるという試算も示されていて、その費用負担をどうするのかといった課題。
いずれの対策も、電力の有効利用や停電防止、そしてエネルギーの自給率アップにつながる対策なので、出力制御が広がった今こそ、再エネを無駄にすることなく主力電源化していく対策に力を入れる時。

(水野 倫之 解説委員)


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