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障害のある子とともに学ぶために

竹内 哲哉  解説委員

4月は子どもたちが新学期を迎える季節。それに先立ち先月、文部科学省は障害のある子の教育を充実させるための報告書をまとめました。その背景にあるものと目指す教育とは?

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【障害のある子への教育の現状】
Q.障害のある子の学びはどのような状況ですか。

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A.障害のある子の教育のニーズは、ここ10年で非常に高くなっています。令和3年度に障害などで特別支援教育を必要とする学齢期の子どもの数はおよそ53万人。10年前に比べて、およそ2倍です。

Q.2倍ですか!?なぜ、こんなに増えているんでしょうか。

A.文部科学省によると、一つは障害のある子が顕在化したから、としています。
ここ数年で知的や発達障害のある子への社会の理解や認識が高まり、そのため、いわゆる“障害者手帳”を取得する子や障害の診断を受ける子が増えているんです。
もう一つは、これに伴い障害の特性や程度に応じた学びの場が整備されてきたことがあります。

ここで、障害のある子の義務教育での学びの場を整理したいと思います。

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○障害のない子と一緒に学ぶ「通常学級」。
○通常学級に籍を置いて週に数時間、障害に応じた指導を受ける「通級指導教室」=通級。およそ13万3400人が学んでいます。
○小中学校のおよそ8割に設置され、障害のある子だけのクラス「特別支援学級」。およそ32万4000人が在籍しています。
○そして、障害のある子どもたちだけの「特別支援学校」。およそ7万9600人が学んでいます。

どこで学ぶかは障害の種類や程度によりますが、通常学級以外で特別支援教育を受ける子は個別の支援計画を作り、それに沿った教育が受けられます。そうした教育を求める子や保護者が増えているということなんです。

【課題①教師の専門的な知識の不足】
Q.課題はあるのでしょうか?

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A.一つは特別支援教育を行う先生に、専門的な知識が不足しているということです。
特別支援学校で教える先生は通常の免許に加え、「特別支援学校教諭免許状」が必要です。しかし特別支援学校の先生以外は、この免許の取得が法律で定められていないため、「特別支援学級」の先生でも、およそ31%しか取得していないんです。

さらに課題があります。特別支援学級では年度後ごとに採用される非正規の先生の割合が高く、長期的な育成ができていません。
また、特別支援学級の担任は校長が決めますが、教える子どもの数が一クラス8人までと少ないため、なかには通常学級に対応できなかった先生を任命しているという指摘もあります。

Q.本来ならば能力が必要ですよね。

A.もちろん、免許がなくても熱心に指導する先生のほうが多いのですが、専門的な教育を受けられない子がいるのも否めません。
文科省がまとめた報告書では、誰もが特別支援教育に関わるよう
▽すべての先生が採用から10年程度の間に2年以上、特別支援学級の担任などを経験する
▽担任が難しい場合でも、一部の教科を通年で担当して経験を積むこととしました。
もちろん何の知識も経験もない先生にすべてを任せては、問題が起きてしまいます。必要なサポートとして、特別支援教育に詳しいベテラン先生と組む、あるいは理学療法士、臨床心理士など外部の専門家と連携し、定期的に指導や助言を得て支えるとし、2024年度までには実現させるとしています。

【課題②障害のある子が通常学級で学べない】
Q.現場での経験を通して、障害のある子への理解を深めようとしているということですね。もう一つの課題は何でしょうか。

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A.障害のある子が通常学級で学べない、ということです。
障害のある子とない子がともに学ぶことは、一人一人の個性を尊重する意識を養い、多様な人と一緒に暮らすことが当たり前になります。
文科省は報告書で「障害のある子とない子が可能な限りともに教育を受けられる学びの場を整備する」としており、法律でも障害のある子の学びの場は、子どもと保護者の意見を十分に尊重し、総合的に判断すると定めています。
しかし、教育委員会によっては、少しでも障害があると特別支援学級や支援学校を保護者に強く勧め、考えを押し付けるということが起きています。「通常学級で学べることを知らなかった」という声も少なからずあります。
つまり、教育委員会が通常学級での支援策を講じることなく安易に学びの場を振り分け、障害のある子とない子の間に“壁”を作っているのです。
文科省の報告書では「社会的障壁を取り除くのは社会の責務である、という考えのもと、すべての教師が特別支援教育に関する理解を深め、専門性を持つことが不可欠」とし、教育現場全体の意識改革を求めています。

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【障害のある子もない子も一緒に学べる支援~芦屋市の取り組み~】
Q.障害で分けるのではなく、その子を見て必要な支援を考えてほしいですよね。

A.先生の負担は大きすぎて、対応しきれないという声はよく聞きます。ですので、学級のさらなる少人数化や複数担任制など、先生の負担を減らす施策は今後も検討することが必要だと思います。
先生だけに頼るのではなく様々な人たちが教育現場に携われれば、障害のある子とない子が一緒に学ぶことはできます。兵庫県芦屋市は30年以上前からこうした取り組みをしてきました。
就学を決めるときには不安を抱える保護者にこれまでの通常学級での対応事例なども含め、きめ細かな情報を提供。これにより今年度の芦屋市の小学1年生の特別支援学校入学者は0。通常学級か特別支援学級に入学しました。

Q.具体的にはどんな支援をしているのでしょうか。

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A.入学前だと環境整備です。たとえば、歩くのが困難な子どものために低い位置に手すりを設置するなど、こうした準備は少なくとも1年前、早ければ3歳児検診などでも相談を受けます。

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入学後は、特別支援学級に在籍する子の場合、登下校や給食が一緒のほかにも、「交流学習」ということで通常学級で障害のない子と一緒に学びます。芦屋市ではこの学習を毎日、数時間設けています。
交流学習では通常学級の先生が主導し、特別支援学級の先生は支援をします。国語の授業で文章が難しい場合には漢字にルビを振る、表現を簡単なものに変えるなど、事前にその子に応じたテキストを支援学級の先生が作って対応します。
芦屋市教育委員会は「必要なのは多様な教育の場ではなく、多様な支援の方法」だといいます。通常学級の先生が障害のある子も自分のクラスの一員とみなし、特別支援学級の先生との連携はもちろん、生活を補助する介助員や学習を補助する特別教育支援員など様々な力を借りて、ともに学べるようにしています。
芦屋市でも先生の力量の向上など様々課題は抱えています。しかし、常日頃から障害のある子がクラスにいて、分かりやすい指導を心がけることで、クラス全体の理解が促進されるといいます。

【学校は未来の社会の縮図】
Q.一緒に学ぶことでともに大きく成長するということですね。

A.今回の取材で心に残ったのは、長年、特別支援教育に携わってきた先生から聞いた「分けられてしまったことが悲しかった」という障害のある子の言葉です。
学校は未来の社会の縮図だと思います。通常学級にも障害と認定されなくても、支援の必要な子は増えています。どんな子でも一緒に学べる場を整備していくことが、互いを尊重し、一人一人の能力を発揮できる社会への道しるべになるのではないかと思います。

(竹内 哲哉 解説委員)

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