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ロッテ佐々木投手完全試合 選手の可能性を広げるには

小澤 正修  解説委員

プロ野球ロッテの佐々木朗希投手が今大きく注目されています。4月、史上16人目、28年ぶりの完全試合を達成し、続く登板でも8回まで1人のランナーの出塁も許さない完ぺきなピッチングをみせました。今回は佐々木投手のすごさ、そしてその活躍から選手の可能性を広げるヒントを考えたいと思います。小澤正修解説委員です。

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【“令和の怪物”が本領発揮】
高校時代から「令和の怪物」と呼ばれてきた佐々木投手。今シーズンは開幕から、そのニックネームにふさわしい活躍をみせています。10日のオリックス戦では160キロを超える速球と、落差の大きいフォークボールで三振の山を築き、64年ぶりのプロ野球記録となる13者連続三振。そしてプロ野球記録に並ぶ1試合19奪三振と、完ぺきな内容で完全試合を達成しました。続く登板となった17日の日本ハム戦でも8回で交代するまで、1人のランナーの出塁も許さず、大リーグでも例がない2試合連続の完全試合はなりませんでしたが、17イニング連続で相手を完全に抑える驚異的なピッチングを続けています。

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岩手県陸前高田市出身の佐々木投手は、東日本大震災で父と祖父母を亡くしています。震災から10年の去年は「10年前の僕はたくさんの人に支えられ勇気や希望をもらいながら頑張ることしかできなかった。今は勇気や希望を与える立場にあると思う。プレーでしか恩を返せない」と話しましたが、3年目のことしは、その言葉通り、規格外の活躍でファンを驚かせています。

【完全試合達成の価値は】

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完全試合とは英語で言うと「perfect game」。似た言葉のノーヒットノーランは無安打無得点。“ラン”はホームランではなく得点のことで、ヒットを打たれず得点も与えないという意味なのですが、完全試合は、それに加えてフォアボール、デッドボール、それに野手のエラーも含めて、1人のランナーも出すことが許されません。完全試合の達成者は、昭和11年に始まった日本のプロ野球80年以上の歴史の中でわずか16人しかいないのです。完全試合は平成6年、巨人の槙原寛己投手以来となる、28年ぶりで平成では槙原投手1人だけ。その前は昭和53年、阪急の今井雄太郎投手までさかのぼります。ただ先発完投が多かった時代とは異なり、今は先発・中継ぎ・抑えとピッチャーの専門化が確立して、そもそも1人で1試合を投げ切ること自体減っています。佐々木投手はそうした中での快挙だったのです。

【続く登板で“完全”継続もなぜ交代?】

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しかし続く日本ハム戦では、再びランナーを1人も許さないピッチングを続けながら、大記録目前にして、8回でマウンドを降りました。中6日で球数は102球でしたので「9回も見たかったな」と交代に驚いたファンもいたのではないかと思います。ロッテの井口資仁監督は交代を決断した理由について「7回が終わったところでへばりつつあったので、8回までと思っていた。1年間先発ローテーションを回るのが大事」と話しました。実は今シーズン、大リーグでも、MVPの受賞経験もあるカーショー投手が完全試合の可能性があったのにもかかわらず、腕の状態などを考慮して7回80球で交代する、ということがありました。プロスポーツはエンターテイメントですので、ファンの期待との両立は大きな課題とも言えるのですが、過去にも日米問わず期待の選手が、故障で思うような活躍ができないまま引退する、ということがありました。今回、井口監督の発言からは、佐々木投手に長期間・圧倒的なパフォーマンスを発揮してもらうために、故障のリスクに最大限配慮していることが感じられます。

【年間通した活躍を目指して】

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佐々木投手は20歳5か月、史上最年少での完全試合達成でしたが、その完全試合の時が通算で14試合目。9回を投げ切る完投すら初めての経験で、1年を通してプレーしたことはまだありません。ここで大切になるのが、故障のリスクは球数だけではない、ということです。医師でベースボール&スポーツクリニックの馬見塚尚孝理事長は「投球障害リスクのペンタゴン」という考え方を提唱しています。球数、ボールの強度、投球動作、コンディション、個体差、この5つの要素を選手ごとに総合的に考慮すべきというものです。例えば身長は個体差、疲労度はコンディションにあたります。故障予防に関しては、球数だけが注目されてしまうことが多いのですが、佐々木投手のような長身の選手は、個体差も重要になります。

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一般的に身長が高ければ腕も長く、速いボールが投げられることが知られていますが、その反面、腕が長いと投球動作で腕を振る、回転運動の半径が大きくなるため、肩ひじにはより大きな負担がかかってしまうのです。例えば身長1メートル70センチと1メートル90センチのピッチャーがそれぞれ140キロ程度のスピードでボールを投げた場合、肘にかかるストレスは、身長の高いピッチャーの方が、20%から30%程度高いという試算もあります。スピードがあがればその負担はより大きくなることが考えられます。さらに佐々木投手は日本ハム戦の終盤、マウンドで、肩で息をするようなしぐさがみられました。コンディションがよくないと、投球動作に無理がでて、けがにつながる可能性もあります。故障の予防には、平均的な物差しだけではなく、1人1人個別に様々な要素を組み合わせた判断をしていくことが必要なのです。

【選手の可能性を広げるには】

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佐々木投手は高校時代、「疲労で故障のリスクがある」というチームの判断で、甲子園出場がかかった岩手大会の決勝に登板しないという事態が大きな話題となりました。その後、ドラフト1位でロッテに入団後も、身長に対して筋肉量が少ないことなどから、1年目は1軍どころか2軍でも登板せず、ひたすら体力アップとフォーム固めを続け、2年目も原則として10日以上の間隔をあけて登板しました。こうしたことには、過保護ではないかという指摘もありましたが、球団が長期的な計画を立て、ぶれずに育成を継続したことが、抜群のコントロールで平均スピード160キロ前後という質の高いボールを、安定して投げる能力に磨きをかけたのではないかと思います。さらに成長し、経験を重ねていく中で、佐々木投手も今後の野球人生では、無理をしなければならない場面が出てくるとは思います。しかし、その姿からは、選手の可能性を広げるために、周囲も科学的で長期的な視点を持ち、成長段階を見極めて、今求められることはなにか、その意識を持って取り組むことが大切だということが感じられるのではないかと思います。

【常識を変えていく!】
同じ岩手県出身のエンジェルス大谷翔平選手が二刀流として野球界の常識を変えていますが、佐々木投手も、その存在は野球界のあり方そのものに大きな影響を与えていると思います。大記録を達成しても「まだのびしろがある」と思わせる佐々木投手、まずはこの1年の成長を楽しみにしたいと思います。

(小澤 正修 解説委員)

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