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就職活動 止まらない"内定"の早期化 今後は?

今井 純子  解説委員

大学生の就職活動が本格化しています。内定の早期化について、今井解説委員。

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【就職活動、早期化しているのですか?】
はい。主に今の大学4年生と大学院2年生の就職活動ですが、今月1日の時点で、いずれかの企業から、事実上の内定をもらっていると答えた学生は、46.5%。去年の同じ時期より8.3ポイント高くなっています。もらった内定を懐に、別の企業を受けている学生もいますが、本命の企業から内定をもらって就職活動を終えたという学生も、15.7%と、去年より5.8ポイント増えています。全体的にみると、学生の売り手市場と言っていいかと思います。

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【就職活動には、日程のルールがありましたよね】
政府が要請している日程です。大学4年生になる直前の3月から企業の説明会、そして、エントリーシート(応募書類)の提出が始まり、6月から面接・内定が解禁ということになっています。

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【守られていないのですね】
もはや形骸化してしまっています。もともとIT系や外資系など、早くから内定を出す企業はありましたが、それ以外の企業の間でも、全体的に早期化が進んでいます。それに加えて、「早期採用のルート」から、一部の学生に、より早く内定を出す動きが広がっているというのです。

【早期採用のルート。なんでしょうか?】
「インターンシップ」と「オファー型のサイト」からのルートです。

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【インターンシップというのは、大学生が企業で仕事の体験をして、就職の参考にする活動ですね】
そうです。学生にとっては、いろいろな業界や企業の実態を見ることで、やりたい仕事、志望する企業を絞っていく上での大きな経験になります。ただ、いまや主に大学3年生の夏から始まるインターンシップは、事実上、就職活動のスタートになっています。本来、ルール違反ではあるのですが、「選考と結びつける」「優秀な学生は考慮する」という企業が74%にのぼり、参加した学生を、社員との座談会や早期選考会に誘い、早めに内定を出す動きにつながっています。

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【もう一つの「オファー型のサイト」とはなんですか?】
学生が、自分のプロフィールや、大学で学んでいることなどを登録しておくと、興味を持った企業から、選考の誘い=オファーがくる。という仕組みのサイトです。いくつかのサイトがあり、利用する企業や学生が増えています。今年は26%の企業が活用すると答えた調査結果もあります。

【なぜ、利用が増えているのですか?】
デジタル技術やビッグデータなど、技術革新が急速に進んでいる中、幅広い業種の企業が、こうした分野の専門知識を学んでいる=いわゆるDX人材を採用したいと考えています。でもそうした学生はIT業界などに目が向きがちで、これまで待っていても応募してこない。それなら、企業の方からそういう学生を探そうということで、利用が広がっているというのです。学生にとっても、思っても見なかった業種や企業から声をかけてもらい、話をすることで、視野を広げるきっかけになるという声もあります。

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【なぜ、これほど採用の早期化が進んでいるのですか?】
3点あげたいと思います。

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まず、日程の「しばり力」が一段と低下しているという点です。もともとは、この日程。経団連が決めた指針でしたが、おととしからは、政府の要請になりました。経団連に加盟している大企業にとっては、自らをしばる力が弱くなった。だから周りを見ながら、どうしても採用したい学生については、早めに内定を出す企業が増えているのです。

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背景の2点目は、企業の採用意欲が非常に高いという点です。

【ロシアのウクライナ侵攻で、経済の先行きには不安がありますよね。それでも、採用意欲は高いのですか?】
高いのです。というのも、昨年度の企業の業績は全体としては、好調でした。
コロナの影響で、新卒採用を見送っていた航空や旅行などの業界でも、採用を再開する企業が出ています。
経済の先行きに不安はありますが、人口減少が進んでいる中、先ほど触れた、DX人材を含め、積極的に若い人を採用したいという企業が多いというのです。

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そして、背景の3点目。就職活動のオンライン化が、内定の早期化を加速させているというのです。

【なぜですか?】
もともとは2年前、コロナで仕方なく、インターンシップや説明会、面接のオンライン化が始まりました。でも、やってみたら、学生にとっては、費用や時間的な面に加え、心理的な面からも、参加するハードルが低くなった。一方、企業にとっても、会場の制約がないので、より多くの学生に参加してもらえる。双方にメリットが大きいということで、定着してきました。結果的に人数は多くても選考活動を効率よく進めることができ、内定を早く出す動きにつながっているというのです。

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【内定の早期化が進むことで、問題はでてきていないのですか?】
学生が、企業をよく理解しないまま入社することで、ミスマッチからすぐに辞めてしまう動きが増えるのではないか、という懸念の声はあります。

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一方、企業の側からは、入社の前に、辞退する学生が多くなるという懸念も出ています。去年、「計画通りの人数を採用できなかった」という企業が45%近くにのぼり、その理由として半数近い企業が「内定辞退が予定より多かった」と答えたという調査結果もあります。今はメールで辞退を伝えることも多いため、学生にとっては、心理的なハードルが低いというのです。そこで、今年は
▼ 1次面接の後に、通過した学生と、若手社員との座談会などを開いたり、OB・OGを紹介したりして、質問や相談を受け付ける。
▼ 面接の後、合否にかかわらず、良かった点、課題と感じた点などを学生に伝える。
▼ オンラインだけでなく、直接対面する面接を増やす。
こうした取り組みをする企業が増えているといいます。学生とのつながりを増やし、親近感をもってもらうことで、内定辞退を減らそうという狙いです。
学生にとっても、企業への理解を深めることで、ミスマッチを減らす効果も期待できます。

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【まだ、内定をもらっていないという学生は不安ですね】
ただ、これから、本命の企業の面接にのぞむ学生も多いと思います。自分の思いをしっかり伝えてほしいと思います。
一方、心配はなのは、コロナでオンライン授業が多かったことで、大学からの情報が伝わらず、出遅れ気味の学生も見られるという点です。ただ、こちらも、これから採用活動を本格化するという中堅・中小の企業も多くありますので、焦らず、視野を広げて取り組んでほしいと思います。 

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その上で、さらに心配なのは、これから就職活動が始まる大学3年生です。

【なぜですか?】
この学年は、大学入学の時から、ほとんどキャンパスに行けず、サークル活動も制約を受けてきました。友達や先輩との交流が少ない学生が多いという指摘もあって、夏から本格化するインターンシップの情報が伝わらず、出遅れる学生が増えることが懸念されています。大学によっては、早いうちからメールでガイダンスへの参加を呼びかけたり、学生どうしをオンラインで結んで不安を共有できる場をつったりするなど、対策に乗り出しているところもあります。

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来年も内定の早期化はとまらないとみられるだけに、大学はぜひ、丁寧に情報を発信して、出遅れる学生がでないよう目配りをしてほしいと思います。

(今井 純子 解説委員)


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