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熊本城どこまで復旧?今も残る立ち入り規制区域

名越 章浩  解説委員

2016年4月の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城。あれから6年。いま、復旧の状況はどうなっているのでしょうか?
「熊本城どこまで復旧? 今も残る立ち入り規制区域」をテーマに、文化担当の名越章浩解説委員がお伝えします。

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【熊本城の被害と復旧状況】
熊本城は、地元の方々が「心の拠り所だ」というほど大きな存在です。

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熊本市は、復興のシンボルと位置付けて真っ先に天守閣を復旧させ、去年6月、一般公開にこぎつけました。
ことし4月、私が取材に行ったときも、多くの観光客で賑わっていました。

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熊本城の敷地は、実に東京ドーム21個分の広さがあります。
6年前の地震では、至る所で石垣が崩れたほか、櫓や門など、国の重要文化財に指定されている13の建築物すべてに深刻な被害が出ました。
現時点で復旧工事が完了しているのは、天守閣以外でいうと、国の重要文化財の長塀だけで、敷地内の多くのところでは、実は今も立ち入りが規制されています。
例えば、天守閣のすぐ横の通路を挟んだところなど、城内の石垣は、今も、崩れたままになっているところが少なくありません。

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また、各地に立ち入り禁止の柵が設けられているほか、壊れた建築物の部材を保管する仮設の倉庫があって、復旧がまだ道半ばなんだということを実感します。

【時間がかかる復旧】

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すべての復旧工事が終わるのは、熊本市の計画では2037年度の予定です。
というのも、文化財の修復は、同じ部材を使って元通りに直すのが基本で、しかも耐震の対策も施さないといけないため、時間がかかるのです。
特に国の特別史跡に指定されている熊本城は、石垣も文化財です。
熊本地震では全体のおよそ3割にあたる、およそ2万3600平方メートルの石垣が被災しました。
積み直しが必要な石は、10万個を超えるのではないか、ともいわれます。
その石垣を積み直す際、過去の写真などと照らし合わせながら、まるでパズルのように元の場所に積み上げていくことになります。

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その作業の順番が来るまでは、崩れた石の1つ1つに番号をふって、どの位置の石か分かるようにして、保管しているのです。

【この1年で工事が進んだところ】
一方、目に見える形で工事が進んでいるところもあります。

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例えば、国の重要文化財、「監物櫓」(けんもつやぐら)もその1つです。熊本城の北の防衛の要で、武器の倉庫としても使われていた建物です。
6年前の地震で石垣が崩れたり全体が傾いたりする被害が出ましたが、ことし4月、取材に行ってみると、建物が解体されていました。

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5月から建て直す工事が始まる予定です。

次に、「戌亥櫓」(いぬいやぐら)という建物にも変化がありました。
この戌亥櫓は、1年前は、土台の石垣が大きく崩れ、上の櫓が、一部の石垣で支えられている状態でした。
戌亥櫓は、平成15年に復元された建物なので、復旧の優先順位としては後回しになっていたのですが、ついに、5月から建物の解体が始まる予定となりました。
このため、今は建物全体を囲むように足場が組まれていました。

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【復旧が進む様子を見学する】
こうした復旧工事の様子を、私たちも近くで見ることができます。
天守閣までは、立ち入りが規制されている区域を通っていくことになるのですが、特別な見学通路が2か所に設けられていて、この通路を利用すれば天守閣まで行けるようになっているのです。

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このうち、南側のルートは、通常では見られない地上6メートルほどの高い位置から見学できるので、人気になっています。

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熊本城の天守閣まで、長さ350メートルの見学通路で、見晴らしも抜群です。
通路を進んでいくと、かつて茶会などを行っていた数寄屋丸の建物が目に留まります。

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土台の石垣は今も崩れたままで、建物には長い亀裂も入っています。
この数寄屋丸の建物は、数年後の解体が予定されていて、その工事の様子もこの通路から見ることができます。

また、城内の人気の撮影スポット「二様の石垣」のすぐそばも通ります。
熊本城の石垣は、緩やかな傾斜から次第に反り返る「武者返し」で有名ですが、「二様の石垣」は、異なる時代の石垣の傾斜を見比べられる場所として人気です。

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城を増築したことで、2つの時代の石垣が並んでいるのですが、熊本城の特徴的な石垣技術の変遷をここで見ることができるのです。
このように、熊本城の文化的な価値を、被災前とは違った場所から見られるほか、立体型の通路にすることで、復旧工事を邪魔することなく、観光客が天守閣まで行くことができるというわけです。

復興のシンボルとして地元の人々から愛され続けている熊本城が完全復旧するまでには時間がかかりますし、まだまだ支援が必要です。
次第に復旧していく様子を私たちが見に行くだけでも、街の経済が活性化し、ひいては復興を後押しすることにつながります。
6年という年月が経ちましたが、大切なのは熊本地震のことを忘れないこと。
被災者に寄り添う気持ちを改めて大切にしたいと感じました。

(名越 章浩 解説委員)


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