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値上げの春 この先は?

今井 純子  解説委員

この春。身近な食料品やエネルギーの値上げが、相次いでいます。今井解説委員。

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【毎日のように値上げのニュースを耳にします】
今月、値上げをした、あるいは、これから値上げをするものの一例です。
▼ 身近な食料品のほか、政府が一括して輸入をして、製粉会社などに売り渡している、輸入小麦。その価格も、17%あまり引き上げられました。
▼ そして、電気やガスの料金。
▼ 飛行機や特急などの一部の交通機関、高速道路の上限料金も一部上がります。
そのほか、
▼ 日用品や外食のコーヒー、クリーニング代にも、値上げの動きが広がっています。

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【値上げの動きは、以前からありましたが、一段と広がっていますね】
消費者物価指数は、2月には一年前と比べて0.6%の上昇でしたが、4月は、2%程度に上がるのでは、という見方もあります。

【一気に上がるのですね】
実は、2月の段階では、去年、携帯電話の通信料金が大幅に下がった影響で物価全体が押し下げられている面がありました。4月からは、その押し下げ要因がなくなる。そこに、値上げの動きが加わり、上昇率が、一気に上がるとみられているのです。もし、2%台に乗った場合、消費税率が引き上げられた時期を除くと、2008年、原油価格が今以上に高騰していた時、以来のことです。

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【なぜ、これだけ値上げの動きが広がっているのでしょうか?】
個別には、様々な要因はありますが、大きくは、国際的な原材料価格が上がっていた。そこに、ロシアのウクライナ侵攻、そして円安が加わった、という3点です。
▼ まず、原材料価格ですが、もともと、天候不順のほか、世界的に経済がコロナから回復して、需要に供給が追い付かない状態になっていたため、穀物やエネルギー、木材などの国際的な価格が大きく上がっていました。2月の時点で、輸入物価指数は、一年前と比べて、34%と大幅に上昇していました。
▼ そこに、ロシアのウクライナ侵攻がありました。ロシア、そしてウクライナは、穀物やエネルギー、レアメタルなどの輸出大国です。このため、軍事侵攻で、国際的な供給がさらに減るのではないかという見方から、こうした製品の国際価格が、一段と高騰しました。
▼ さらに、円安も進んでいます。一年前には、1㌦=110円前後でしたが、秋以降徐々に、円安が進み、3月に入って、一気に、一時、125円台をつけました。

Q)急激な円安ですね。これもロシアの侵攻の影響ですか?
A)こちらは、金融政策の影響です。アメリカでは、インフレの動きをとめようと、中央銀行のFRBが、金利の引き上げに動いています。一方、日本では、日銀が、金利が上がると景気の回復が妨げられるとして、金利上昇を抑える政策をとっています。すると、日本とアメリカで金利の差が広がり、投資家はより高い利回りが見込めるドルを買って、円を売る動きを強めた。その結果、円安が一気に進んだ形です。

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【2月の時点で輸入物価が大幅に上がっていた。そこに、ロシアの軍事侵攻や円安の影響が加わる・・となると、値上げの動きは、まだ続くのでしょうか?】
残念ながら、続くとみられます。すでに、
▼ 5月には、お菓子や飲み物。そして電気料金、都市ガスの料金もさらに上がることが、決まっています。例えば、東京電力では、使用量が平均的な家庭で一か月の電気料金が8505円と、一年前より1700円近く値上がりすることになります。
▼ 6月の値上げが公表されているものもあります。
▼ また、今月、小麦の製粉会社などへの売り渡し価格が大幅に引き上げられたことで、今後、パンやパスタ、うどんなど身近な製品の値上げにつながっていくとみられます。

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▼ さらに・・ロシアの軍事侵攻の影響が本格的にでてくるのはこれからとみられます。輸入小麦の売り渡し価格は、このままでは次の価格改定がある10月に、一段と上がる心配があります。
▼ また、建設用資材の価格が上がっていることで、すでに高くなっているマンションなどの価格も、もう一段高くなることが懸念されています。
値上げの春だけでなく、値上げの夏。値上げの秋と、続いていくという見方もでています。

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【家計には重く響いてきますね】
重いですね。本来は、賃金が上がって、消費が増え、それによって物価が上がる。というのが、良い形での物価上昇です。日銀は、まさに、その形で2%の物価上昇を目指してきました。数字だけを見ると、その目標を達成しそうな勢いではありますが・・今回は、悪い形の物価上昇という指摘が強くでています。

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【悪い形の物価上昇ですか】
はい。予想される2%程度の物価上昇に対して、賃金。
▼ 今年の春闘では、企業が賃金を上げる動きが広がっていて、賃上げ率が2%に達する可能性も指摘されています。ただ、内訳をみると、年功序列で上がる仕組みの、いわゆる「定期昇給分」が1.8%程度ありますので、それを除くと、実質、0.2%程度の賃金引上げにとどまることになり、物価上昇分にはとても追い付きません。その分、物価上昇の重い負担が家計にのしかかることになりますので、悪い物価上昇ということなのです。

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【なんとかならないのでしょうか?】
政府は、今月末までに、こうした4つ柱で、物価上昇への緊急対策をまとめる予定です。このうち、焦点になっている原油価格の高騰対策について見てみますと・・

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▼ 今は、ガソリンや灯油などの小売価格の上昇を抑えるため、石油元売り会社へ、最大1リットル=25円分の補助金を出していますが、例えば、
▼ その延長に加えて、ガソリン税を、1リットル=およそ25円分、引き下げる仕組みの、いわゆる「トリガー条項」について、今凍結しているのを発動するという措置を組み合わせる。
▼ あるいは、補助金の措置をさらに拡充する。といった、案が検討されています。

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【生活が厳しい人への支援も大事ですね】
その通りです。2月の消費者物価。さきほど0.6%の上昇と言いましたが、このうち、生活必需品に限ってみると、4.1%上昇しています。価格が上がっても買わないわけにはいかないため、所得が低い世帯にとっては、より重い打撃です。しかも、もともと所得が低い世帯は、コロナの影響も大きく受けています。今回の対策では、こうした弱い立場の人たちに、特に重点をおいた対策を検討してほしいと思います。
さらに、加えると、その場しのぎだけでなく、
▼ クルマや住宅の省エネ化を進めるために、買い替えやリフォームなどの思い切った促進策もとってほしいと思います。

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【なにか、私たち自身でとれる対策はありませんか?】
すでに、多くの方が、節電や無駄なものを買わない。といった対策はとっていると思います。その上で、強いて言えば、
▼ 大手スーパーの中には、プライベートブランドについて、物流の効率化につとめたりすることで、6月末まで、価格を据え置くことを決めたところも出てきています。また、
▼ コメも、外食での需要が落ちていることから、安値の傾向が続いています。
選択肢のひとつになるかもしれません。

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最終的には、賃金の引き上げを続けることが欠かせないと思いますが、当面は、なんとか、知恵と工夫でやりくりが求められる生活が続くことになりそうです。

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(今井 純子 解説委員)

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