時速100キロを超えるアルペンスキー!
音を頼りに的を正確に撃つのは、視覚障害者のバイアスロン!
そして車いすに乗って戦うカーリングなど。
冬のパラリンピックも魅力満載です!
【北京パラリンピックの参加者と競技は?】
Q.どんな大会になりますか?
A.北京パラリンピックは3月4日から13日までの10日間。世界中からおよそ650人。日本からは29人の参加が予定されています。
行われるのは6競技78種目。
○時速100キロを超えるスピードが魅力のアルペンスキー。
○持久力と精神力が求められるクロスカントリースキー。
○クロスカントリースキーに射撃を組み合わせたバイアスロン。
この3つの競技は立って滑るクラス、座って滑るクラス、視覚障害のクラスがあります。
○スノーボードは平昌大会からの新競技。腕や足に障害のある選手が変化に富んだコースに挑みます。
○アイスホッケーはスレッジと呼ばれるそりにのって戦います。激しい肉弾戦が特徴ですが、女性の出場も認められています。アメリカが4連覇を目指します。
○車いすカーリングは男女混合、4人がチームを組んで戦います。一般のカーリングと異なりスウィーピングがないので、より正確なショットが求められます。開催国・中国の2連覇がかかっています。
日本は残念ながらアイスホッケーと車いすカーリングは予選で敗れ出場ができません。そこは世界トップの戦いを見て欲しいと思います。
【日本期待の3選手!村岡選手・新田選手・小栗選手】
Q.たくさん見どころあると思いますが、期待の日本選手は?
A.全員と言いたいところですが、強いて3人をご紹介します。
日本選手団の主将、アルペンスキーの村岡桃佳選手。下半身がマヒしているためチェアスキーで滑ります。平昌大会では金メダル1つを含む5つのメダルを獲得。東京大会の陸上100mで6位に入賞した二刀流は鍛え抜いた体幹を武器に大会に臨みます。
クロスカントリースキーの新田佳浩選手。パラリンピック出場は7大会連続7度目。3つの金メダルを獲得しているレジェンドです。新田選手は左腕の肘から先がありませんが、ストックを持たない左腕も大きく振ることで世界一美しいとされる左右均等のフォームを生み出しました。今大会で現役引退を表明しており、最後の雄姿となります。
スノーボードの小栗大地選手。もともとプロスノーボーダーとして活躍していましたが事故で右足を切断。義足でゲレンデに戻ってきました。2021年のワールドカップでは優勝しており、2度目のパラリンピックで表彰台も夢ではありません。
【冬ならではのポイント① 選手×用具】
Q.冬のならではのポイントは?
A.1つ目のポイントは「選手」と「用具」の関係です。
たとえば、アルペンスキーで使う「チェアスキー」。一本のスキー板の上にサスペンションと座るシートがついています。選手は手にはアウトリガーというストックの先に小さなスキー板がついたものを持って、バランスを取りながら滑ります。どのくらいバランス感覚があるかというと、選手によってはバランスボールの上で逆立ちができます。
滑っているときには重力の4倍以上の遠心力がかかると言われていますので、それに耐えられる筋力も必要です。
その選手の能力を十分に引き出せるかは、メーカーの技術にもかかっています。選手が使うチェアスキーは日本とフランスのメーカーで90%を占めており、平昌大会のメダルは9つずつと、しのぎを削っています。
軽量化や強度化などの技術の向上、これはスノーボード用の義足なども同じですが、日常用の車いすや義足に生かされることもあります。
Q.視覚障害の選手にも用具は必要ですよね。
A.その一つがヘッドセットとスピーカー。陸上競技では “絆”と呼ばれるロープでガイドと選手を繋ぎましたが、冬はこれを使います。
どうするかというと前を滑るがガイドが後ろの視覚障害の選手にガイドの腰につけたスピーカーから、選手に指示を伝えます。選手以上の技術が求められるので、なかにはオリンピック出場経験者もいるほどです。
ガイドは常に選手の前で誘導しなければなりません。もしガイドがゴール前で転倒し、選手が先にゴールすると失格です。ちなみにメダルは二人に授与されます。
もう一つ欠かせないのがクロスカントリーと射撃を合わせた競技、バイアスロンで使うレーザー銃です。視覚障害の選手はレーザー銃と連動して流れてくる音の高さを判断して的を撃ちます。高音になると真ん中に近づいたことが分かるので、その一瞬を狙います。
Q.まさに神業ですね。
A.視覚障害の射撃では的までの距離が10m。的の直径は2.1センチです。射撃は1回につき5発。的を外した回数によってタイムが加算されるなどペナルティーが科せられます。呼吸を整えミスなく撃てるかが勝敗を左右します。
【冬ならではのポイント② 競技タイム】
2つ目のポイントは冬独特の勝敗を決めるルールがあることです。
どういうことかというと、アルペンスキー、クロスカントリースキー、バイアスロンは視覚障害のクラス、立って滑るクラス、座って滑るクラスの3つのカテゴリーしかありません。
そこで、使われるのが「競技タイム」。
クロスカントリーの立って滑るクラスで説明します。左側の数字は障害の種類や程度。その隣は係数と呼ばれるものを示しています。
たとえば、LW3両足に障害のある選手とLW8片腕に障害のある選手の場合。LW3の選手のタイムが100秒だと、係数86%をかけたものが競技タイムとなり86秒。LW8も同様に行うと競技タイムは87.4秒。LW3の選手の勝ちとなります。
冬は夏ほど選手が多くないので、様々なデータから公平に競えるように計算式を作り出しました。いろいろな選手が一緒に戦う姿は、多様性を感じられるパラリンピックの醍醐味の一つだと思います。
【ロシアのウクライナ軍事侵攻による影響】
Q.パラリンピック楽しみになってきましたが、ロシアのウクライナへの軍事侵攻が影を落としていますね。
A.ロシアは国連で採択されたオリンピックとパラリンピックの期間中の休戦決議の共同提案国にも関わらず、ウクライナに軍事侵攻しました。IPC=国際パラリンピック委員会はロシアを強く非難する声明を発表しました。
しかし、きのう開かれた理事会では「ロシアとその同盟関係にあるベラルーシの選手は、中立的な立場の個人としてのみの出場を認める」と発表。除外しなかったのはIPCの憲章や規則に反すると理解を求めました。
※その後、IPCは決定を覆し、ロシアとベラルーシの選手の出場を認めないと発表しました。
パラリンピックは第二次世界大戦で負傷した傷痍軍人のリハビリから始まりました。今大会にも傷痍軍人は出場しますが、彼らは人間の無限の可能性を示すとともに、自らの身をもって戦争の悲惨さを訴えています。
そして、昨日、北京入りしたウクライナ代表の選手たちは「ウクライナに平和を」と訴えています。私はパラリンピックは「平和を考える祭典」だと思います。いまこそ改めてパラリンピックの理念について、世界中の人々と一緒に考え共有できればと思います。
(竹内 哲哉 解説委員)
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