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ロシアのウクライナ侵攻 くらしへの影響は?

今井 純子  解説委員

ロシアのウクライナ侵攻は、私たちのくらしにも、影響が出ることが懸念されています。今井解説委員。

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【ウクライナ情勢。深刻ですね】
ロシアとウクライナの代表団による会談は、交渉を継続していくことで合意しました。ただ、停戦が実現するかは不透明な情勢です。ロシアには、一刻も早く戦争をやめて、軍隊を撤退させるよう望みたいと思います。そして、このロシアによるウクライナ侵攻によって、私たちのくらしも、大きな影響を受けるのではないかと、懸念されています。

【どのような影響ですか?】
まず、ガソリンや電気代などのエネルギー価格。そして、穀物、例えば、パスタなどの価格が上がる心配があります。

【生活に身近なので、気になりますね】
ウクライナは、黒海の北に広がる平原の国で、土壌が肥沃なため、菜種の輸出量が世界第2位、とうもろこしは第4位。小麦も第5位という、「穀物の輸出大国」です。
また、ロシアは、原油は世界第3位。天然ガスは第2位の生産量を誇る「エネルギー大国」。そして、小麦の輸出量も世界1位です。

【こうしたものが軍事侵攻の影響をうける心配があるのですね】
はい。軍事侵攻を受けている、ウクライナでは、穀物の供給ができなくなる心配があります。
一方、ロシアについては、国土が戦闘に巻き込まれているわけではありません。ただ、ウクライナに侵攻したことで、供給への懸念から、エネルギーや穀物の価格が上がりました。さらに、アメリカやヨーロッパ、日本などが、ハイテク分野の輸出規制などに加え、SWIFTと呼ばれる、銀行間の国際的な決済ネットワークから、ロシアの一部の銀行を締め出す制裁をとることでも合意するなど、次々と制裁措置を打ち出しています。詳しい内容は、これからですが、こうした制裁措置によって、エネルギーや穀物などの輸出に制限がかけられることも考えられ、今後も価格が一段と高騰する心配があります。

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【実際に価格はどのくらい上がっているのですか?】
例えば、原油。ニューヨーク市場の先物価格は、もともとコロナの影響から世界経済が回復していたことで、上昇傾向にありましたが、今回の侵攻を受け、一時1バレル=100ドル台に値上がりしました。100ドル台をつけたのは、2014年7月以来、7年7か月ぶりで、その後も高値で推移しています。これによって、日本国内のエネルギー価格が、さらに上がる心配があります。

【ガソリンや灯油については、国内の価格が上がるのを抑えるため、政府が補助金を出していますよね。効果は期待できないのでしょうか?】
ご指摘の通り、政府は、ガソリン価格の急激な値上がりを抑えるため、石油元売り会社に補助金を出しています。補助金を出すことで、その分、ガソリンスタンドへの卸値を上げないよう抑える狙いです。そして、ウクライナ情勢を受けて、価格がさらに上がっていることから、補助金の上限を、最大1リットル5円から25円に拡充する方向で調整を進めています。灯油なども対象になります。上限を超えて価格が高騰しない限り、値上げの動きを抑える一定の効果は期待できると思います。ただ、これは、あくまでも元売り会社への補助金です。小売価格は、各ガソリンスタンドが、個別の事情に応じて決めるものなので、各スタンドで、狙い通り、値上げを抑えられるかは、わかりません。
▼ また、電気代やガス代。大手電力会社10社の4月分の電気料金は、比較できる過去5年間で最も高い水準となる予定です。大手都市ガス4社も、4月の値上げを予定していて、今回の侵攻によって、今後も高止まりが続くと見込まれています。
▼ さらにプラスチック製の製品や包装材などの値上げにつながる心配もでています。

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【穀物の価格はどうなのでしょうか?】
小麦の先物価格も、今回の侵攻をうけ、シカゴ商品取引所で、1ブッシェルあたり、9ドルを超え、一時、13年8カ月ぶりの高値をつけました。小麦については、海外から安定的に確保するために、政府が一括して輸入をして、製粉会社などへの売り渡し価格を半年ごとに見直しています。世界的な異常気象などの影響で、去年の10月にも、19%引き上げられましたが、今後も、さらに値上がりし、家庭向けの、小麦粉や食パン、パスタ、焼きそばなど、幅広い製品の値上がりにつながる心配があります。とうもろこしの価格上昇も、家畜のえさを通じて、肉や乳製品の値上げにつながります。

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【もともと、エネルギーや食料品の値上げの動きが相次いでいたところに、もう一段、値上がりする心配があるのですね。家計には響きますね】
そうなのです。消費者物価は、4月には、一年前より、2%程度上昇するのではないかというのが、多くの経済の専門家の見方です。そして、ロシアのウクライナ侵攻によって、この上昇傾向が続く心配があります。特に、エネルギーや食料品といった生活必需品は、価格が上がっても、買わないわけにはいかない。それだけに、所得が低い世帯にとっては、より重い打撃になります。
さらに、ウクライナ情勢は、値上げ以外でも、家計に影響を与えるのではないかと心配されています。

【値上げ以外ですか?】
賃金引上げへの影響です。
というのも、ウクライナ情勢が、企業の業績の足を引っ張るのではないかとの懸念がでているためです。
▼ ロシアは、エネルギー、穀物だけでなく、排ガスの有害物質を減らすパラジウムなど希少金属(=レアメタル)も多く産出しています。ロシアが制裁への報復措置として、レアメタルの供給を絞る可能性もあり、そうなると、日本国内でも、自動車など工業製品の生産に影響がでる心配があります。
▼ また、世界的にインフレの勢いが増すこと。そして、ロシアにエネルギーの多くを依存してきたヨーロッパでエネルギーへの不安が広がることなどで、世界経済が冷え込む心配もあります。そうなると、日本からの輸出にも影響が出ることは避けられません。
▼ ロシアが一方的にウクライナに侵攻したことで、引き起こされる経済的な混乱によって、日本でも景気が悪化する懸念がでてきているのです。

【それで、賃金にも影響がでる心配があるのですね】
今、国内では、春闘の交渉が始まっています。トヨタが組合の要求に前向きな姿勢を示したり、建設大手が3%を超える賃金引き上げを決めたりするなど、賃金引き上げに前向きな動きも伝えられています。そこに、先行きに新たな不安の雲が漂ってきたことで、企業が賃金引き上げに慎重にならないか。特に、エネルギーや原材料の値上り分を、製品に転嫁するだけの力がない中小企業で、賃金の引き上げをためらう動きがでてくるのではないか。心配があります。

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【物価は上がって、賃金は上がらないとなると、生活にとっては厳しいですね】
特に、コロナの影響で、生活が厳しくなっていた人にとっては、一段と深刻な状況になりかねません。政府は、困っている人への、より手厚い支援を考えることも、必要になってくるかもしれません。ウクライナ情勢は、日本で暮らす私たちにとっても、無縁なことではありません。なにより、ウクライナの人たちが平穏な生活を取り戻すため、そして、私たちのくらしに大きな混乱が起きるのを防ぐためにも、一刻も早く戦闘が終わることを願いたいと思います。

(今井 純子 解説委員)

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