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ノロウイルスに注意 新型コロナとの違いを解説

矢島 ゆき子  解説委員

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◆ノロウイルスなどが原因で起こる「感染性胃腸炎」の流行状況は?

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感染性胃腸炎、この冬の流行状況はどうだったのでしょうか?今の時期はほとんどノロウイルスが原因で起こります。グラフの紫で示した前のシーズンに比べて、赤で示したこのシーズンの冬は患者が多いのがわかります。全国的には流行がおさまってきていますが、地域によっては、まだ流行しています。前のシーズンは新型コロナが流行して初めての冬で、手洗いをしっかりした人が多かったために、感染性胃腸炎も抑えられたのではという話もあります。まだ春にかけてノロウイルスによる感染性胃腸炎の流行が続く可能性があり、特に乳幼児・高齢者など感染すると重症化する可能性のある人は注意が必要です。

◆ノロウイルスに感染するとどうなる?

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では、ノロウイルスに感染するとどうなるのでしょうか?ノロウイルスの場合、感染したあと、潜伏期間が半日~2日あり、その後、発症します。腸の中で増殖したノロウイルスがお腹全体の動きを悪くするため、最初「気持ち悪くなる」ことが多く、その後、「おう吐」します。それと同時に、「発熱」「腹痛」がおこり、食べられなくなります。そして、1~2日後に、「下痢」に。ウイルス感染で小腸の粘膜がダメージを受けるため、柔らかい、あるいは水のような便が大量に出ます。
乳幼児の場合、気持ち悪い・お腹が痛いということをきちんと伝えられないため、普段と違い、機嫌が悪いということがあります。また高齢者の場合、下痢による脱水だけでなく、おう吐物による窒息や誤嚥性(ごえんせい)肺炎などになり、命に関わることもあるので、注意する必要があります。

◆新型コロナの症状との違いは?

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発熱することもあるノロウイルスへの感染。新型コロナウイルスとの違いはどうなのでしょうか?
新型コロナの場合、頭痛、のどの痛み、鼻水、発熱、筋肉・関節痛、せき、くしゃみ、息切れ、だるさ、食欲低下、吐き気・おう吐、下痢、味覚・嗅覚異常、などの症状がでると言われていて、感染性胃腸炎と同じように発熱・おう吐・下痢の症状が出ることもあります。ただ小児感染症学が専門の新潟大学の斎藤教授にお話しをうかがったところ、「新型コロナでは、のどの痛み・鼻水・せきなどの呼吸器症状がメイン。それに対し、ノロウイルスの場合、おう吐・下痢が必ずあり、その程度が重く」、新型コロナとは違うとのことでした。
また、ノロウイルスは、食べ物を通して感染したり、感染した人から人へ感染するので、保育園、学校、家族など周辺の人に特におう吐・下痢の激しい症状があるかどうかでわかることが多いそうです。

◆ノロウイルスによる感染性胃腸変への対処

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ノロウイルスで感染性胃腸炎になってしまった場合、どう対処したらいいのでしょうか?今、病院を受診することで新型コロナに感染するリスクを高めたくないと思っている人も多いかもしれません。感染性胃腸炎は多くの場合、自然に回復し、特別な治療は必要とせず1~2日で症状は治ります。ただ大切なのは、脱水症状にならないこと。つまり水分をしっかりとれているかどうかです。おう吐がおさまり、そのあとの下痢で失う水分を口から飲んで補うことができれば脱水の心配はありません。
でも小さい子ども・赤ちゃんの場合、吐き続けているときに、水分をとらせるのは大変だと思います。大人もですが、一度にたくさん飲むと、胃腸炎で胃の働き方が悪くなっているため、すぐ吐いてしまい、結局、水分がとれていない状態になってしまいます。特に子どもの場合小さい5ml程度のスプーンで少しずつ飲ませることが大切です。また、おう吐・下痢で体から水分だけでなく、電解質(=ナトリウム)も失われるため、水分と同時に塩分の補給が重要になります。経口補水液やスポーツドリンクを水で薄めてのんでもいいかもしれません。さらに、吐き気・おう吐がおさまったら、おかゆなど軟らかく消化によいものでカロリーをとることが大切になります。
母乳をあげている子どもの場合、ひどく吐いているときはできれば、母乳はやめた方がいいという話もありました。

◆脱水症状になる前に医療機関の受診を!

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脱水し続けると、ときに命に関わります。症状が良くならない場合、脱水症状になる前に、ちゅうちょすることなく、医療機関の受診をすることが大切です。脱水のサインとしては、おう吐が1日以上続いている場合。乳幼児だと、ぐったりして元気がないときも脱水している可能性があります。また手足が冷たいのは脱水のサインです。例えば、普段、小さな子どもは手足があたたかいと思います。子どもに限らず、脱水すると血管中の水分が不足し、血液が脳・心臓などの大事な臓器に集まり、末梢の手足にはいかなくなるために手足が冷たくなるのです。さらに、尿が半日以上出ない、尿の色が濃い、唇がカラカラに乾いている場合も、すでに脱水を起こしているかもしれません。
特に胃腸炎が原因で、けいれんを起こした場合は救急車を呼びましょう。

また自宅で様子をみているときに、市販薬を使うかもしれませんが、下痢止めは腸の動きを抑え、ウイルスを排出しにくくし、回復が遅くなることもあるので、下痢止めはなるべく使わない方がいいようです。子どもに解熱剤を使う場合は、必ずアセトアミノフェンという成分が入っているものを使いましょう。パッケージなどで確認できます。他の成分、例えばアスピリンや大人用のNSAIDを使うと脳症などの重い合併症を引き起こす可能性があるからです。
また薬を使っているから大丈夫、子どもがよく眠っていると思っていたら、実は、脱水を起こしていたケースもあるそうなので、ご注意ください。

◆家族が感染したら、、、

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家族が感染性胃腸炎になったら、感染者の吐いたものや、使ったトイレ・洗面所・ドアノブ・食器などから感染することもあります。おう吐をした場合は、ウイルスが散っているかもしれないので、部屋の換気をし、消毒することが重要です。消毒では、家庭で使っている塩素系漂白剤に含まれる次亜塩素酸ナトリウムが有効です。例えば、濃度5%の塩素系漂白剤の場合、ペットボトルのふた1杯分(約5mL)を水500mlで薄めて使います。(消毒した後は色落ちや金属の腐食を防ぐためには水拭きをした方がいいかもしれません。)そして、患者が吐いたものなどの処理の際には、マスク・使い捨ての手袋などを使いましょう。85℃以上・1分間以上の加熱も有効です。
新型コロナウイルス対策で、アルコール消毒をすると思いますが、ノロウイルスにはアルコールは効きません。(ただ、添加物を加えたアルコール製剤の中には効果があるものもあります。)ノロウイルスには、石けん・ハンドソープで手を洗って水でしっかり流す基本的な手洗いが大切で、特に、調理・食事の前、トイレ、おむつ交換・汚物の処理のあとは、しっかり手洗いをしましょう。

例年どおりであれば、ノロウイルスの流行は春にかけてだんだんおさまりますが、その後も、ロタウイルス、アデノウイルスなど原因ウイルスが変わりながら感染性胃腸炎の流行はもう少し続きます。引き続き、ご注意いただけたらと思います。

(矢島 ゆき子 解説委員)


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