2月のNHK世論調査がまとまり、岸田内閣の支持率は前回1月より3ポイント低下し不支持率は7ポイント上昇した。新型コロナの新規感染者が多い日で全国10万人近く確認され、くらしへの影響が長引くことへの懸念も出るなか、現状と政治の果たすべき役割を国民はどう考えているのだろうか。世論調査を元に分析する。
【ワクチン3回目 交互接種不安】
感染の流行がなかなか収まらない。14日時点でも全国で1日6万人余りの新規感染者を確認し、死者もすでに2万人を超えた。こうした状況を受けて岸田総理大臣はここにきて、「新規」の対策を示すとともに、「継続」や「見直し」も相次いで打ち出した。
このうち「新規」の対策が、3回目ワクチンの「1日100万回接種」だ。菅前総理大臣と同じ目標を掲げ、政府内の体制も強化した。ただ現状では3回目を終えた人の全人口占める割合は9%余りに過ぎない。
目標達成に向け重要なのは、2回目までとは異なるワクチンを接種する「交互接種」が進むかどうかだ。「交互接種」に不安を感じるか、感じないか聞いたところ、「感じる」は33%、「感じない」は55%、「ワクチンは接種しない」は6%と国民受け止めは分かれている。
岸田総理は「目標達成に向け私自身が陣頭指揮を執る」と述べ、自治体、職域、自衛隊の接種をフル稼働させたい考えだ。
今後必要性を丁寧に説明し、理解や安心を得られるかが、カギを握りそうだ。
【13都県で重点措置延長の評価】
「新規」の対策が「1日100万回接種」ならば、「継続」するのはまん延防止等重点措置だ。政府は10日、東京など13都県の重点措置を3月6日まで延長することを決めた。
この延長の決定をどう思うか聞いたところ、「適切だ」は49%、「延長せず解除すべきだった」は15%、「緊急事態宣言にすべきだった」は26%だった。先月9日、沖縄・広島・山口に初めて重点措置を適用して以降、適用地域は次々に拡大し、20日には大阪など21の道府県でも期限を迎える。
岸田総理は「感染拡大のスピードは明らかに落ちている」と強調しているが、新規感染者数が高止まりすることで重症者が今後増加する可能性も指摘されている。
今後特に、リスクの高い高齢者をいかに感染から守るかが課題だ。
【水際対策を続けるべきか】
「見直し」を行うのは水際対策だ。政府は去年11月、オミクロン株の海外での流行を受けて外国人の新規入国を原則停止する措置に踏み切った。2月末まで継続する方針だが、経済界や留学生からは入国制限の緩和を求める意見が出ている。
制限を「続けるべきだ」と思うか、「緩和すべきだ」と思うか聞いたところ「続けるべきだ」は57%、「緩和すべきだ」は32%と、何らかの形で規制の継続を求める声が根強い。
水際対策が国民から一定程度評価される一方で、重症化リスクは低いとされるオミクロン株へ置き換わりが進んだこともあり、効果や必要性を疑問視する声も上がっている。各国のなかでも際立った厳しい措置によって、ビジネスチャンスや留学生の学びの場を奪うことになれば、日本の国際的な評価にも影響しかねないとの懸念が安倍元総理大臣や公明党の山口代表など与党内からも高まっている。
岸田総理は「水際対策の骨格自体がどうあるべきかを見直し、緩和の方向で検討していきたい」と述べていて、今後1日3500人程度に設定している入国者数の上限引き上げや、入国後の自宅待機などの日数短縮も含め検討を急ぐことにしている。
【政府の対応の評価】
一連のコロナ対策を国民はどう見ているのだろうか。政府の対応を「評価する」は「大いに」「ある程度」をあわせて59%、「評価しない」は「あまり」「まったく」をあわせて37%と「評価しない」が1月より6ポイント増えた。
【内閣支持率】
一方で岸田内閣を「支持する」と答えた人は3ポイント下がって54%、「支持しない」は7ポイント上がって27%だった。「支持しない」理由として「実行力がない」が急増して38%と最も多く、与党支持層、無党派層で「支持しない」が7から8ポイント増えたのが響いた。
コロナ対策で「先手、先手」をアピールし、状況次第では方針の修正や撤回も厭わない柔軟な構えを取る岸田内閣だが、ことしに入ってからの感染急拡大で政府の対応への評価は初めて下がり、去年の内閣発足時に逆戻りした格好だ。
【相次ぐ値上げの家計への影響】
そしてもうひとつ、内閣支持率に影響を与えているとみられるのが、不透明感が増している暮らしや経済の行方だ。
このところ値上げが相次ぎ、12月の消費者物価指数は野菜や魚介類などの「生鮮食品」が前年同月比8%、ガソリンや灯油などの「エネルギー」は16.4%の大幅な上昇となった。
こうした値上げが家計にどの程度影響しているか聞いたところ、「影響している」は「大きく」「ある程度」あわせて73%。「影響していない」は「あまり」「まったく」あわせて22%だった。
食料品価格や光熱費の上昇は低所得者ほど負担感が大きく、格差の拡大、生活水準の低下につながりやすい。一方で肝心の賃金はというと、岸田総理が春闘で3%を超える賃上げへの協力を経済界に要請したが、NHKが国内の主な企業100社に行ったアンケートで、基本給を一律に引き上げるベースアップを行うと回答した企業は5社にとどまり、「未定」や「検討中」とする企業が48社で半数近くと慎重な姿勢だった。
過度な物価の上昇を抑え、企業が賃上げ可能な環境をいかに整えられるか。岸田総理の実行力が問われている。
【今の支持政党は 通常国会審議は】
政党支持率に目立った変化はなかった。
国会は15日、新年度予算案の採決の前提となる公聴会が開かれるなど、例年より比較的早いペースで審議が進んでいる。背景には野党第1党の立憲民主党が批判や対決一辺倒とみられるのを避けようと、審議を遅らせる「遅延戦術」や、予算を人質に取った「日程闘争」を極力控えていることが挙げられる。ただ日本維新の会や国民民主党、共産党との連携や距離感にも迷いも感じられ、野党内でリーダーシップを思うように発揮できていないようにも映る。
一方で対する与党内はどうかと言えば、しっくりいっていない部分もある。それは夏の参議院選挙での協力をめぐり調整が難航しているからだ。自民党は公明党が求めた選挙区の候補者の推薦に向けて党内調整を急ぐ一方、公明党は自民党の対応が遅いとして態度を硬化させている。こじれた状態が続けば国会運営にも影を落とす可能性がある。
自民、立憲民主とも他党の動向に気を配りながらの国会に臨む日々が続きそうだが、大事なことは国会審議の充実、それを国民がしっかり見ていることを忘れないでもらいたい。
(曽我 英弘 解説委員)
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