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コロナで需要急増 加湿器の事故、加湿器肺炎に注意

水野 倫之  解説委員

真冬の今、乾燥防止に効果的な加湿器、新型コロナに関連して飛沫飛散抑制効果にも注目が集まり、出荷台数が増えている。
ただそれにともない子どもがやけどする事故や肺炎も報告され、注意の呼びかけ。
水野倫之解説委員が解説。

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今から春先にかけては一年中で最も空気が乾燥、
加湿器が昼夜を問わずフル稼働という家庭も多い。
それに加えて、新型コロナウイルスに関連して
湿度が高いほど飛沫の飛散抑制に効果があるとされる点からも加湿器、注目されている。

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理化学研究所などのチームがスパコン富岳を使って計算した結果、
咳をした場合、湿度30%に対し、90%と高い湿度では空気中を漂う飛沫は少なくなり、
飛散を抑制する一定の効果があるという結果が示された。

図の青い飛沫、湿度90%の方が少ないことがわかる。

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こうしたこともあり加湿器の出荷台数増えていて、
業界団体によると、昨年度の出荷台数は121万台と前年の6割増。
ただ出荷が増えるにしたがって子どものやけどなどの事故や肺炎が報告されていて、
注意が呼びかけられている。
いずれも誤った使い方によるもので
トラブルを防ぐには今使っている加湿器のタイプを把握しておくことが必要。
製品評価機構によると加湿器おもに3種類あって、
① まずタンクにためた水を沸かして蒸気を放出するスチーム式、加熱式とも呼ばれタイプ。
② またタンクの水を超音波で細かい粒子にして放出する超音波式。
③ そして気化式は水を含ませたフィルターに風を送って放出する方式。
このほか超音波式、気化式にヒーターをあわせて温風を送るハイブリッド方式のものもある。

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このうちスチーム式に多いのがやけど。
特に子どもに多く、過去5年間に機構に報告された重度のやけど10件のうち
7件が1歳以下の乳幼児。
過去に東京都内で起きた事故では、
1歳の幼児が蒸気の噴きだし口に触れて重度のやけどを負った。
再現映像を見ると、子供がおもちゃで遊んでいて、
親が目を離したすきに加湿器に近づく。加湿器が床に置いてある場合、ちょうど乳幼児の目の位置に噴き出し口があるものが多く、
噴きだす蒸気に興味を持った子どもが手を近づけて事故にあうケースが多いという。
この事故で幼児は皮膚を移植する手術を受けた。
機構が実際に噴きだし口の温度を測ったところ90度以上のものも。
乳幼児の手の皮膚はおとなに比べて薄いため、
皮膚の奥まで影響が及んで重症化するケースが多いという。

また加湿器の熱湯そのものでやけどする事故も。
兵庫県では、両親が1歳の幼児の泣き声で目を覚ましたところ、
倒れた加湿器からこぼれた熱湯で足に大やけどをしていた。子供の手に届くところに置いてあったため幼児が倒して、熱湯がこぼれたとみられている。

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やけどを防ぐための対策を考えるうえで重要なのが、子どもは目につくもの、手が届くもの、興味をひくものをすぐに触ろうとすることを知ること。
事故を防ぐには子どもが加湿器に近づけないようにしなければ。
柵を設置したり、小型の製品であれば子供の手が届かない高い場所に置くことが有効。
コードを子どもが引っ掛けて倒すことがないよう、電源を差し込む場所にも注意。

ここまでやけどの事故を見てきたが、
大人も含め注意しなければならないのが加湿器が原因の肺炎。
呼吸器の専門医への相談が増えているほか、
消費者庁などが運用する事故情報データバンクにも
加湿器を使っていて呼吸困難になるなど体調に異変があったという情報が寄せられている。

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実際に肺炎と診断された40代の女性の例では、
5年前に購入ししまい込んでいた加湿器を使い始めたところ、
熱はないのに夜間咳がとまらず、ものを飲み込むときに喉に違和感があった。
当初女性は新型コロナ感染を疑いPCR検査を受けたが、結果は陰性。
しかし症状が半月続いたため、呼吸器の専門医の下でレントゲン撮影などの検査を受け、
加湿器を使っていたことも説明。その結果医師から肺炎と告げられた。
加湿器の中で繁殖したカビなどがまき散らされて吸い込み、
アレルギー反応を起こしたとみられるという。
女性は薬を服用し発症から1か月半後に完治。

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呼吸器が専門の医師は
「カビや化学物質などを繰り返し吸い込むことでアレルギー性肺疾患になることがあり、
その原因物質が加湿器に由来する肺炎は加湿器肺炎とも言われ、
重篤な症状になるおそれもある」と指摘。

実際に2017年12月から2018年1月にかけて、
大分県の高齢者施設で入所者など3人がレジオネラ菌による肺炎を発症し、
1人が亡くなっていますが、部屋にあった加湿器からレジオネラ菌が検出されている。

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カビや雑菌が放出される原因はおもに水。
先ほどの3種類のうち
スチーム式は水を沸かすことで、また気化式はフィルターを使って雑菌を抑えているのに対し、超音波式はタンクの水をそのまま放出しているため、
水に雑菌が含まれていれば放出される。
実際先ほど紹介した女性が使っていたのも超音波式。
デザイン性が高いものが多く値段も手ごろなので最近人気なだけに注意が必要。

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肺炎を防ぐには加湿器を清潔に保つことが重要。まずは水。
もしも1週間前にコップに水を入れて置きっぱなしにしたとして、
その水を飲む人はまずいないと思う。
「加湿器も飲み水と同じ感覚でいることが必要だ」と専門家は指摘。
超音波式は特にそうだが、汚れにくいとされるスチーム式も含めて毎日水を交換して、
雑菌の繁殖を防いで。
そしてより重要なのが、タンクに入れる水は必ず水道水だという点。

汚れた水はもちろん、ミネラルウォーターや井戸水などはミネラル分が多く
固着して水垢の原因に。浄水器を通すと塩素成分が抜けてしまう。
また塩素系除菌消臭剤などの化学薬品は火災の原因ともなり、絶対に入れない。
そして定期的に、吸気口のほこりを吸い取ったり、
フィルター洗浄するなど機器全体を清潔に保つことも大切。
日頃の手入れをしっかり行い、幼児が触れないよう対策をして、
安全に使ってもらえれば。

(水野 倫之 解説委員)


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