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北京オリンピック 氷を読むとは?カーリング、ロコ・ソラーレの活躍に注目

中村 幸司  解説委員

北京オリンピックが、2022年2月4日に開幕しました。今回は「氷とのたたかい カーリング」をテーマに、お伝えします。

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Q:カーリング、今大会では女子が出場しますね。
A:日本は、北京オリンピックにミックスダブルスと男子は、出場できませんでした。女子は、2月10日から競技が始まります。前回、ピョンチャン・オリンピックで銅メダルの「ロコ・ソラーレ」が出場します。

Q:まずは、少し、競技の基本を思い出してもらいましょう。
A:競技する場所=「シート」と言いますが、長さは45メートルあまりあります。

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4人対4人で戦います。両チームが、1エンドに交互に8投ずつ、合計16回投げます。10エンドの合計点を競います。

Q:点のつけ方がちょっと難しかったですね。
A:16投、投げ終えたところで、円の中のストーンをみます。

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上の図で、中心に一番近いストーン①のチーム=「赤のチーム」が得点します。点数は、相手のストーンより中心に近いストーンの数だけ。この場合、3番目に近いのが③の黄色なので、赤のチームに2点、黄色のチームは0点です。
どちらかは、必ず0点になります。両チーム0点の「ブランクエンド」になることもあります。

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先攻は、黄色のストーンが円の中にたくさんあっても、後攻の赤チームが最後の1投を中心近くに入れれば、赤に1点入ります。後攻が有利なんです。
思い出してきたでしょうか。

Q:カーリングは、ストーンをはじくところも魅力の一つですね。
A:衝突したあと、ストーンがどう動くかを読むのも重要です。
ストーンは、ズレて衝突すると、その方向は、いつもほぼ直角=90°を作ります。

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Q:いつもそうなるのでしょうか?
A:衝突の前後で運動のエネルギーがほとんど失われなければ、計算上、ほぼ直角になります。

Q:これを知っていると、試合の見方も変わってきそうですね。
A:そうです。例えば、シンプルに見える下の図の状況でみてみます。
黄色のチームは、この赤のストーンを出しにくいんです。

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赤にあてると、赤は3時方向(円を時計に見立ててストーンの位置を表現します)の黄色にあたります。3時方向の黄色はもともと赤と非常に近いところにあったので、多くの場合、概ね右下方向にはじかれます。すると、先ほどの直角の理屈で、赤は、直角に8時方向の黄色のストーンに向かい、勢いがあればそのまま、8時方向の黄色もはじき出す可能性があります。
つまり、黄色のチームにとって、この赤のストーンは、出しにくい=処理するのが難しいいしです。直角のことが分かっていないと、赤いストーンを出す難しさに気づきません。

※・・・・・・上記の展開は、実際に2021年12月にオランダで開催された北京オリンピック代表を決める世界最終予選、日本(ロコ・ソラーレ)対韓国戦でありました。
日本は、このエンドは有利な後攻でした。しかし、どのストーンにもあたらない「スルー」のミスがあって、韓国の黄色いストーンが円の中に3つ、日本はなしという状況になり、ペースを握られかけました。そうした状況で、吉田知那美選手のヒットアンドロールによって、上記のように赤いストーンをいいところに配置できました。韓国はこの赤のストーンの処理にショットを使いました。このエンド、日本は結局、1点で終わりましたが、一時は、先行の韓国に点を取られる「スチール」もありそうな展開を、1投で変えました。

Q:「氷とたたかう」というのは、どういうことでしょうか?
A:氷には、「滑る」「滑りにくい」があって、一般に滑りにくいと、ストーンが「曲がる」傾向にあります。カーリングは、これをどう読むかです。

Q:滑りとか、曲がりやすさには、何が関係しているのでしょうか?
A:氷の表面温度が低いほど滑りにくい=曲がる、接触面積が大きいほど滑りにくくて=曲がります。ここでいう接触面積とは、氷とストーンの接している面積のことです。

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上の図の左の写真は、カーリングのシートの氷の表面です。凹凸があるのがわかります。

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試合前に上の写真のようにして、ジョウロみたいなもので、水をまく作業をします。まいた水はすぐに凍って、凸凹ができます。この氷の出っ張りを「ぺブル」と言います。

ぺブルの先は、そろえてカットしてあるので、試合開始したばかりは、接触面積が広くて、曲がりやすいのです。

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ストーンが通るなど、その表面が試合で使われると、ぺブルの先がまるまって、接触面積が小さくなります。滑る=曲がりにくいようになります。さらに、試合終盤になると、先が削れて、接触面積が大きくなり、滑りにくく=つまり、曲がるようになることもあるということです。
氷の状態は、試合中も変化しているのです。

氷の表面をブラシで、こする「スイープ」は、表面の氷を溶かして、水が潤滑油のようになって、すべるようになります。

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スイープによって、女子は2メートル以上、男子は3~4メートル、ストーンの距離を伸ばすことができるそうです。

Q:滑りや曲がりに関係するものは、他には何があるのでしょうか。
A:観客の体温の熱や、吐く息の水分などが、影響します。

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温度や湿度の条件によって、氷に「霜」がつくことがあります。霜がつくは選手にとっては困った状況です。急に滑らなくなってしまうからです。
北京オリンピックでは、コロナ対策で一般向けのチケットは販売されていませんが、招待された観客などが入っています。この観客の影響などを、選手は読む必要があります。

実は今回の会場、未知数の部分もあると言われています。下の写真は、カーリングの競技会場、「国家水泳センター」です。水泳センターというのはどういうことか。

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ここは、2008年の夏、北京オリンピックの競泳会場です。北島康介さんが、平泳ぎで2種目・2連覇を達成したところです。そこを改修して、カーリングの競技場にしています。

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カーリングは、湿度などの微妙な変化が、ストーンの滑りに影響します。このため、世界のトップ選手が集まるオリンピックの会場として、プールを改修して使うということは、これまでは、なかったということです。

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カーリングの関係者に話を聞いたところ、氷の温度、あるいは、湿度や空気の流れといった空調の管理がどうなっているのか、氷を読むのに必要ことなので、気になっていると話していました。こうしたことを、事前に調べておくことも大切で、ひとつの「情報戦」ともいえるかもしれません。

Q:曲がり方は、氷の状況で決まるのでしょうか。
A:氷だけではありません。

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ストーンによっても違います。試合では、シートごとに決まったストーンが使われます。ストーンの底の部分=氷と接触する部分の状態によって、1個1個曲がりやすさも異なります。

チームでは、試合までに、使うストーンの状態を確認しています。

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この確認は、ロコ・ソラーレの「リザーブ」で、2002年のソルトレイクシティーと2010年のバンクーバー・オリンピックに出場した石崎琴美選手が、他の選手とおこなっているということです。
癖のあるストーンがみつかったら、比較的速いスピードでストーンを投げることが多い「セカンド」に、癖のないストーンは、最後に投げる「スキップ」が投げるようにすることが多いそうです。
リザーブの選手は、試合中、双眼鏡を使って他のシートで行われている試合を見て、他のチームが、どのストーン=ストーンに番号がふってあるのですが、何番を誰が使っているかをみて、参考にすることもあるということです。

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Q:いろいろな条件が関係しているので「氷を読む」というのは、複雑で難しいのですね。
A:強いチームは、「曲がり具合が変わった」と感じたとき、様々にある条件のうち、何が変わったのか、絞り込むことができるといいます。
原因が分かれば、修正も早くできます。それが氷を読めるチームの強さです。
選手が、氷と、どうたたかっているのか、これこそカーリングの面白さだと思います。
北京オリンピック。女子のカーリングは、各国のレベルの差は縮まっていると言われています。各国にチャンスはありますが、混戦になるという予想もあります。
ロコ・ソラーレ、試合では、少しでも早く氷の状態をつかんで、持ち前の積極的な試合運びをしてほしいと思います。

(中村 幸司 解説委員)

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