新型コロナウイルスの感染が急拡大し、再び外出を極力控えて、生活している人も多いと思います。そんな中、注意してほしいのが便秘です。
実はコロナ禍で便秘になる人が増えていると言われています。
この“巣ごもり便秘”について、牛田正史解説委員がお伝えします。
“巣ごもり便秘”は、新型コロナの感染拡大で外出の自粛が呼び掛けられて以降、便秘になる人が増えていることから、専門家の間で出てきた言葉です。
便秘とは、「本来、排出すべき便を、十分な量、快適に出すことができない」状態を指します。
排便の回数が少ない、あるいは、1回に少しだけしか出ないなどのパターンがあります。
排便状況を記録するアプリを開発・運用する「ウンログ株式会社」が、最初の緊急事態宣言の時に、10代以上の男女3000人を調査したところ、宣言や外出自粛によってストレスを感じ、排便や便の状態が「変わった」と答えた人は、42.4%にのぼりました。
では、排便の何が変わったのか。
もっとも多かったのは回数が減ったという人で56%、次いで便秘になったという人が43.3%いました。
あくまで1回目の宣言時の割合ですので、今もこの割合が続いているかどうかは分かりませんが、コロナ禍で便秘になる人が増えているとは言えそうです。
これはいったいなぜなのか。考えられる要因をご説明します。
便秘は、主に大腸の働きが深く関わってきます。
まずストレスや生活習慣の乱れが続きますと、大腸が痙攣するなどして詰まりやすくなり、便をスムーズに排出できなくなります。
また、外出の機会が減って、じっとして動かない時間が増えますと、大腸の働きが弱まります。
このように、コロナ禍での「ストレス」や「運動不足」によって、これまでより便秘が起きやすくなっているというわけです。
中には「便秘は放っておいても大丈夫じゃない?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、便秘は決して侮ってはいけません。
便が出ないことはとても苦しいことですし、帝京平成大学の松井輝明教授に話を伺ったところ、便をためると、腸内細菌の中の悪玉菌が作る「毒素」がたまって、腸管に悪影響を及ぼすそうです。
そうしたことなどから、「肌荒れ」や「集中力の低下」そして「免疫力の低下」など、様々な影響を及ぼすということです。たかが便秘とは決して言えないのです。
また、今の時期は、ちょうど入学試験、受験のシーズンです。
実は受験生にとっても、この便秘のリスクというのは是非、知っておいてもらいたい点です。
「日本トイレ研究所」というNPO法人が、去年11月から12月にかけて、全国の高校生1000人を対象に調査を行いました。
「排便しても残っている感じがある」
「強くいきむ必要がある」
「ころころした便や硬い便が出る」
「肛門が詰まっている感じがある」
「自然な排便が週に3回未満」
「肛門の周りを押したりして便をかきだす必要がある」という
6つの項目に2つ以上当てはまる場合は“便秘状態”と定義すると、実に20.2%の生徒が該当したと言います。
また1つだけ当てはまる“便秘予備軍”、つまり今後、便秘に注意が必要とみられる生徒は27%にのぼりました。
そして、この便秘状態の高校生に話を聞くと、実に80%を超える生徒が「勉強に集中できないことがある」と答えたそうです。
これは便秘がないと答えた生徒よりも割合が20ポイントほど高くなっています。
便秘は勉強にも、大きな影響を与えかねないことがわかります。
調査を監修した小児外科医で学校法人・神戸学園の中野美和子校長は、「便秘で苦しいと感じた人は、とにかく便をまず出すことが大事」と話していました。
腸に便がたまればたまるほど、出にくくなってしまうので、早めに出すことが重要だそうです。
便秘用の内服薬や浣腸薬も選択肢の1つで、どんな薬を選べばよいかわからなければ、薬局や医師などに相談してほしいとしていました。
そして、どうしても出なれば、きちんと医師に診てもらうことも必要になります。
また便秘にならないよう、あるいは症状を改善するために、日ごろから出来ることもあります。
便秘は生活習慣とも関わりが深いとされています。
帝京平成大学の松井輝明教授は3つのポイントを指摘しています。
「生活リズムの改善」「腸内環境を整える」「運動の習慣化」です。
まず「生活リズムの改善」から見ていきます。
腸は不規則な生活を続けると働きが弱まるので、出来るだけ規則的な生活サイクルを保つことが重要とされています。
例えば、寝る時間と起きる時間を毎日同じにする。
そして朝起きたらコップ1杯くらいの水分と朝食を必ず取るべきだということです。
この朝食を食べることは、眠っている大腸を動かすという意味で、最も重要なポイントの1つとなります。
寝ている間は腸も働きを弱めているので、起こしてあげるというわけです。
続いて「腸内環境を整える」。
これは主に食事が関わってきます。
まず、食物繊維です。腸にいる細菌のエサとなり、その働きに大きく影響しますが、コメなどの穀物や、野菜などに多く含まれます。
この食物繊維は、日本人の摂取量が減っているとも言われています。
ですので、松井教授は、意識して摂取することが必要だと話していました。
またヨーグルトなどの発酵食品も腸に良いということです。
そして最後に「運動の習慣化」。
体を動かすことで、血流が良くなって腸の働きが強くなります。
特別な運動でなくても、とにかく習慣にすることが大事だそうです。
この運動については、専門家などで作る「大腸劣化対策委員会」というグループが動画を作成し、ホームページで公開しています。
「腸腰筋」や「横隔膜」に働きかける運動法と呼吸法、それに腸の巡りをよくするためのマッサージなどを紹介しています。
こうした動画も参考にしながら、自分に出来る運動を続けてもらいたいと思います。
松井教授によりますと、新型コロナの前から、食物繊維の摂取量が昔より減るなどして、大腸が劣化している人が、増えていると考えていたそうです。
そこにコロナが追い打ちをかけ、さらに深刻な状態になったと話していました。
便秘というのは、気づかないうちに悪化することも多いので、明確な症状がなくても、最近トイレの回数が減っていないかなどを、是非注意してほしいと思います。
(牛田 正史 解説委員)
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