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コロナ禍でのヒートショック対策 高齢者・高血圧・糖尿病の人は特に注意を!

矢島 ゆき子  解説委員

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◆「ヒートショック」というのはどういう状態?

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「ヒートショック」というのはどういう状態なのでしょうか?今の時期、朝、暖かい布団から出て、洗面所にいくと、とても寒くて震えてしまうという経験をしたこともあるかと思います。このような急激な温度変化で、血圧が大きく変動し、時に命にかかわる病気につながるのがヒートショックです。具体的には、軽度だとめまい・たちくらみがおこり、安静にしていれば症状がおさまりますが、重度の場合、失神・意識障害を引き起こし脳卒中・心筋梗塞・心不全につながり亡くなるケースもあるため、すぐに救急車を呼ぶことが大切になります。寒い今の時期、脳卒中・心不全で病院に運ばれる患者さんは多いので、ヒートショックには注意が必要です。
ではどうして寒いと感じると血圧が変動するのでしょうか?実は、“寒い”と感じると、その情報が脳に伝わり、交感神経が働き、体の熱を逃さないようにしようと血管が縮んで血圧が上がります。また、暖かい場所に行くと、今度は血管がゆるんで血圧が下がります。血圧とヒートショックに詳しい自治医科大学苅尾教授によると「血圧は絶えず上下変動しているのですが、血圧が大きく変動しても、健康で、しなやかな血管であれば、血圧が一定の範囲におさまります。しかし、高齢者、あるいは高血圧、糖尿病などで脳・心臓などの血管に動脈硬化があったら、急激な血圧変動に血管が対応できないことがあるので注意」が必要だとのことでした。

◆換気の方法に注意

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コロナ禍の今、新型コロナでの自宅療養者が増え、寒い日でも換気する方もいるかと思います。換気のやり方によっては暖かい部屋の温度が急に下がってしまいます。例えば、1時間に2回以上、定期的に窓を全開する換気のやり方が推奨されていますが、全開すると、どうしても室温が下がってしまい、寒い今の時期は現実的でないかもしれません。例えば常に窓を少し開けておいて空気を入れ替えつつ、暖房器具で室温を維持し続ける方法もあります。あるいは二段階換気。家の間取りを使ってみてみます。例えばリビングで作業している場合、リビングの窓を開けると寒くなるので、このような人がいない部屋の窓を開けて、リビングのドアをあけ、新鮮な空気を取り入れれば、廊下を経由している間に空気が暖まり、リビングが寒くならないという方法もあります。

◆冬、室内での理想的な室温は?

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では、今の冬の季節、理想的な室温というものはあるのでしょうか?世界保健機関WHOが、健康を守るための冬の室温としてすすめるのは18℃以上。子ども・高齢者はもっと暖かくとしています。
また、室内で血圧の変動を大きくさせないためには、足元の温度が大切なことがわかってきました。
冬、断熱性能の低い住居にすむ男女に、居間の室温と起床後の血圧を測定し続けてもらった共同研究があります。室温は、座ったときの頭の高さ、床から1.1mと、床から10cmの高さで測定しました。1.1mの室温が20℃のときの血圧は127と10℃のときは132。これらの血圧を比較すると、室温が10℃下がると血圧が5上昇していたことがわかります。一方、10cmの場合は、室温が20℃のときの血圧は122、室温10℃は131でした。つまり室温が10℃下がると血圧が9上昇していたのです。このことから、足元の温度の方が血圧への影響が大きいことがわかります。寒い時期、血圧上昇を抑えるためには、ともかく足元を冷やさない工夫が必要なのです。

◆家の中で、ヒートショックに要注意なスポット・お風呂場に注目してみると、、、

家の中で、ヒートショックに特に注意したいのは洗面所・トイレ、そしてお風呂場です。ここでは、お風呂場を例に見てみます。

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室温10℃という寒い脱衣所で着替え、40℃のお風呂に入ったときの血圧を健康な人で調べた実験データがあります。グラフからわかるように、血圧は「洋服を脱ぎ始めたあと」急上昇し、「浴室に入って体を洗う」間も上がっています。そして、その後「お湯につかる」と血圧が下がっています。これは身体があたたまり、リラックスして血管がゆるんだからです。しかし、お風呂を出ると着替えるまでに寒いので、また血圧がまた急上昇。そして、着替えてしばらくすると血圧が安定していることがわかります。この血圧変動を小さくするためには、浴室・脱衣所の室温が重要になります。例えば、この実験では室温25℃でも試しています。血圧の変化を見てみると、室温10℃の時ほど血圧は急上昇しなかったことがわかります。つまりお風呂の温度との温度差が大きい室温10℃の方が、血圧の変動がより大きく、体が強く反応したのです。

◆ヒートショックを防ぐ冬の入浴法

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入浴に際してヒートショックを防ぐためにはどういうことに注意したらいいのでしょうか?
冬はお湯の温度は41℃までがおすすめです。お湯の温度は体温に近いほど血圧変化が小さくなるので、熱いお湯は避けましょう。そして、お風呂に入る前に、手足に十分にかけ湯をする。かけ湯を繰り返すことで、上がった血圧が徐々に下がります。また、お湯につかる時間は10分程度。長湯だと血圧が下がりすぎ、お風呂を出たあとに血圧の変動が大きくなってしまうかもしれません。そして、お風呂を出るときはゆっくりと立ちあがる。脱衣所でまた血圧があがるのですばやく体をふいて着替える。
先ほど足元の温度を冷やさないことが大切という話をご紹介しました。脱衣所で暖房器具を使うにしても、床にマットを敷く、スリッパ・靴下をはくなど、足の裏で冷たい床をふれないことがヒートショックを防ぐためには重要です。
入浴に詳しい国際医療福祉大学大学院前田教授によると「入浴中に、めまい・動悸があったらヒートショックでの失神の兆候かもしれない。万が一、失神などで、風呂でおぼれないためにも、風呂の栓をぬき、家族に声をかけてください」とのことでした。

◆ヒートショックのリスクの高い人が入浴に際して特に注意しておくべきことは?

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高齢者、高血圧・糖尿病・脂質異常症などヒートショックのリスクの高い人は入浴に際して、他に、どういうことに注意したらいいのでしょうか?まずは食事直後に入浴しない。食後1時間以内は血液が胃に集まり、食後低血圧になっていることが多いからです。また食事の際に飲酒していると血圧はさらに下がります。この状態で入浴すると血圧の上下変動がさらに激しくなることが考えられます。そして水分をとったあとに入浴した方がよいと言われています。さらに前日の不眠だったりすると血圧の変動に影響するとも言われています。
入浴を夜でなく朝している方もいるかもしれません。冬の朝風呂は、夜より、リスクがより高いと言われています。
冬に限らず朝は、血圧が急に上昇しやすいことが多いのがわかっています。この血圧が急上昇する時間帯に、血圧の変動が生じる入浴などをするとさらに体に負担がかかり、リスクが高くなるのです。朝は入浴に限らず、血圧をあげないように注意したい時間帯です。

今は、一年のうちで寒さが厳しいといわれている時期です。入浴事故も多いとも言われているので、是非、「ヒートショック」にならないように、注意していただけたらと思います。

(矢島 ゆき子解説委員)


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