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厳冬アフガニスタン 深まる人道危機

出川 展恒  解説委員

「世界最悪の人道危機」が起きているとも言われるアフガニスタンについてです。イスラム主義勢力「タリバン」が権力を掌握して、5か月が経過しましたが、寒さ厳しい本格的な冬を迎え、深刻な食料不足に陥り、子どもたちを中心に多くの人々の命が失われようとしています。
出川解説委員です。

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Q1:
アフガニスタンといえば長く戦乱が続いたことや、緒方貞子さん、中村哲さんの活動などで親日的な国として知られますが、現在の人道危機、どんな様子ですか。

A1:
はい。アフガニスタンは、今、マイナス10度を下回る寒さで、特に地方の人道状況は、筆舌に尽くしがたいものがあります。たとえば、西部のヘラート州にある避難民のキャンプには、大勢の人々が身を寄せていますが、食料などの支援物資がほとんど届いていません。
病院には、栄養失調でやせ細った子どもを抱いた親が集まっています。しかしながら、病院は深刻な資金不足で、必要最小限の薬や医療器具を買うこともできません。このため、十分な治療を受けられず、命を失う乳幼児が相次いでいます。
家族が生きてゆくため、幼い娘を嫁がせる親も少なくないということです。この男性は、食料支援が届かなくなったため、3歳の娘を、裕福な親戚の家に嫁がせる約束をして、
いわゆる「結納金」を前払いで受け取り、一家の生活費にあてざるを得なかったと話しています。また、自らの臓器を売りに出して、家族を養おうという避難民もいます。

Q2:
どうして、それほどひどい状況になってしまったのですか。

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A2:
そもそもアフガニスタンは、国家予算のおよそ80%を国際社会からの支援に頼ってきましたが、

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その支援が、届かなくなってしまったため、人道危機が悪化の一途をたどっているのです。

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タリバンは、去年8月、権力を握った当初、「国内すべての勢力が参加した政権をつくる」と約束していましたが、暫定政権の閣僚ポストを独占し、約束は反故にされた形です。また、女性の人権も十分に守られていないと、欧米各国は見ています。たとえば、日本の中学・高校にあたる中等学校では、女子生徒の登校がまだ認められていませんし、職場を追われる女性の教員も数多くいます。
タリバンの暫定政権下で、前政府の関係者70人以上が、司法手続きもなく処刑されたことが明らかになったほか、報道機関のうち4割が閉鎖に追い込まれ、報道の自由も失われつつあります。また、選挙を監督する委員会も廃止され、今後、民主的な選挙が行われなくなると見られています。
こうした事例は、欧米各国からは、許しがたい行為と見られています。タリバンの暫定政権を承認した国は、これまで1つもなく、多くの国が、支援をやめたり、見合わせたりしています。
とくに、アメリカは、タリバンが国際テロ組織との縁を切っていないとして、制裁を続けています。具体的には、アフガニスタン政府が海外に保有している資産を凍結し、暫定政権は、著しい資金不足に陥りました。公務員の給料は、4か月以上、払われていません。物価が軒並み高騰し、主食のパンの値段は、3割以上高くなりました。30年ぶりと言われるひどい干ばつの影響もあって、食料不足はかつてないほど深刻です。

Q3:
国連は、この状況をどう見ていますか。

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A3:
国連は、先週、人口の半数以上にあたる2440万人が食料支援を必要とし、390万人の子どもたちが急性の栄養失調に陥り、このままでは、13万人の子どもたちが命を落とすおそれがあると警告しました。そのうえで、食料や医療・保健分野などの人道支援として、ことし1年間で、合わせて50億ドル、日本円で5770億円あまりが必要だとして、加盟各国に資金を出してほしいと訴えています。
グテーレス事務総長は、13日、「食べ物を買うため、赤ちゃんが売られ、病院は栄養失調の子どもであふれている。命を救う活動は、時間との闘いだ」と述べて、国際社会に対し、緊急の人道支援に協力するよう、とくに、アメリカに対し、資産凍結を解除するよう呼びかけました。

Q4:
国際社会からの支援は止まってしまったのでしょうか。

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A4:
各国政府による直接支援は、ほぼ止まった状態ですが、国境は封鎖されていません。国連や赤十字、NGOなどの緊急の人道支援は、周辺国から、主に陸路で、アフガニスタンに運び入れることができます。しかしながら、支援物資の絶対量が全く足りないうえ、必要としている人々に届ける手段も整っていません。

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タリバンの指導者たちは、統治を安定させるためにも、支援物資を国民に届けたいと考えています。ただ、暫定政権が、自らの力で物資を適切に配る能力がないことが問題です。
また、治安の問題もあります。タリバンと勢力争いをしている過激派組織IS・イスラミックステートが各地でテロを行っている影響で、食料などが全く届いていない地域もあるようです。

Q5:
そうした状況に、国際社会は手をこまねいているのでしょうか。

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A5:
国連などの呼びかけに応じて、人道支援を促進する動きも、少しずつ始まっています。
▼国連安全保障理事会は、先月、アフガニスタンへの人道支援活動は、タリバンに対する制裁の対象とはならないことを明記した決議案を採択しました。これによって、国連やさまざまな支援団体のアフガニスタンでの活動が促進されます。
▼アメリカ政府も、人道支援活動に限って、タリバンが関わる金融取引であっても、容認する方針を打ち出しました。
▼また、世界銀行は、凍結されていたアフガニスタンを復興するための基金のうち、2億8000万ドル分について、WFP・世界食糧計画とユニセフ・国連児童基金に移管し、運用を任せることを決めました。
▼さらに、イスラム諸国でつくるOIC・イスラム協力機構は、食料支援などにあてる人道基金をつくることを決めました。

Q6:
そうした国際社会の措置で、人道危機は解決に向かうのでしょうか。

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A6:
そう簡単ではありません。タリバン側は、各国に対し、政権の承認と支援の拡大を強く求めていますが、各国とも、タリバンとの対話はしつつも、当面、政権承認は視野に入れていません。タリバン内部では、強硬派の勢力が優位にあるため、国際社会からの要求を受け入れる状況ではないと専門家は指摘しています。

このため、各国は、政権承認の問題とは切り離して、タリバンの協力もとりつけて、国際機関や支援団体の活動を後押しするやり方で、人道支援を推し進めるしかないと思います。

Q7:
日本で暮らす私たちに何かできることはないでしょうか。

A7:
アフガニスタンでは、胸が痛くなるような出来事が、数えきれないほど起きていますが、一般の日本人が現地入りして支援活動ができる状況ではありません。私たち市民として、できることと言えば、国連の機関や、赤十字、そして、現地で活動する民間の支援団体を資金の面で支える、つまり寄付をすることになるでしょう。

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それぞれの機関が、それぞれの分野で支援活動を行っています。たとえば、WFPは、最も緊急を要する食料を人々に届ける支援を続けています。ユニセフは、子どもの命を救い、教育の機会を与える支援を、UNHCR・国連難民高等弁務官事務所は、難民と避難民の保護と支援を中心に、現地で活動しています。また、日本赤十字社も、今回の事態を受けて、アフガニスタンの人道支援に的を絞った募金活動を続けています。
ネットで検索すれば、それぞれの活動状況を調べることができますので、そのうえで寄付を行うのは、意味のある支援ではないでしょうか。そして、現地で何が起きているかを知ろうとすることが、出発点になると思います。

(出川 展恒 解説委員)

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