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オミクロン株急拡大で岸田政権は 政局は 世論調査から解

曽我 英弘  解説委員

1月のNHK世論調査がまとまった。ことしに入り新型コロナの変異ウイルス・オミクロン株の感染が急拡大する中、岸田内閣の下で初めてとなる通常国会は17日召集され、夏には参院選も控えている。ことしの政治はどう展開するのだろうか。

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【まん延防止等重点措置を拡大すべきか/自宅などでの療養容認の評価】

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年明け早々、オミクロン株の市中感染が相次いで確認されている。岸田総理大臣は4日の年頭会見で、「水際対策の骨格を維持しつつ、国内対策に重点を移す」考えを示したが、11日も全国では6000人を超える新規感染者が確認された。こうしたなか政府は9日から、沖縄、山口、広島の3県に「まん延防止等重点措置」を適用した。そこでこの重点措置の対象をほかの地域にも拡大する必要があると思うか、ないと思うか聞いたところ、「必要がある」は58%、「必要はない」は29%だった。それだけ今回の感染拡大が不安だ、という国民が多いということだろう。またこの措置に先立って政府は、感染が急拡大している地域では感染者全員に入院を要請してきた対応を見直し、自宅などでの療養を認めることにした。この見直しを評価するかどうか聞いたところ、「評価する」は「大いに」「ある程度」あわせて68%。「評価しない」は「あまり」「まったく」あわせて28%だった。

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今回の見直しは去年夏の第5波の時のように、医療機関がひっ迫する事態を防ぐためということだが、全ての患者が適切な治療を受けられるようにすることが、政府に課せられた最大の責務だ。またワクチンの3回目の接種も、全国にある在庫や追加分も活用して高齢者や一般の人に対する接種を早急に前倒しすることを強く求めたい。一方でオミクロン株の感染力の強さ、速さに加えて、年末年始にかけて人出が増加したことが今回の要因と指摘されている。それだけに私たち一人一人も、これを機に感染対策を改めて徹底することが求められている。

【政府の対応の評価/内閣支持率】

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岸田内閣のコロナ対策を、国民はどうみているのだろうか。政府の対応を「評価する」は「大いに」と「ある程度」をあわせて65%。「評価しない」は「あまり」と「まったく」をあわせて31%で、安倍・菅内閣を通じ最も高い水準を維持している。これも影響して、岸田内閣を「支持する」と答えた人は12月より7ポイント上がって57%、「支持しない」は6ポイント下がって20%だった。内閣発足から3か月余り経つが、この時期の調査で発足時から支持率が増加したのは第2次安倍内閣、そして旧民主党の菅内閣のみだ。
これまで感染者が増加すると支持率は下落する傾向にあったが、今回は上昇しているのはなぜか。オミクロン株の世界的な流行を受けて、年末には外国人の新規入国を原則停止する水際対策で時間を稼ぎ、備えを急いできたと岸田総理大臣は説明してきた。これまでの内閣が「後手に回っている」と批判されたことを強く意識していることがうかがえる。
ただ今回政権として初めての急拡大に直面し、総理の言う備えがきちんと機能するのか、医療ひっ迫が再び起きることはないか、経済への影響はどうか。政権の真価が問われるのはまさにこれからだと言えそうだ。また、在日アメリカ軍基地でのクラスター発生をきっかけに市中感染が広がった可能性も指摘されており、今後の対応次第では政権へ風向きが変わる可能性も否定できない。

【今年賃金は上がるか】
岸田政権が取り組む経済政策、とりわけ賃上げの実現に対する国民の見方はどうだろうか。「新しい資本主義」の実現を掲げる岸田総理大臣は賃金の3%を超える引き上げへの協力を経済界に要請している。

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そこでことし、賃金は全体としてどの程度上がると思うか聞いた。「大いに」または「ある程度上がる」は21%。「あまり」または「まったく上がらない」は72%だった。
期待がそれほどでもないのは、コロナの状況に加え、原材料価格の高騰もあって企業の業績が見通せないほか、人件費の増加が経営の足かせになることへの懸念が経営側には根強くある。岸田総理大臣は看護や介護、保育で働く人たちの給与を中心とした「公的価格の引き上げ」と、「賃上げ税制」つまり賃上げに積極的な企業を支援し、分配につなげたい考えだ。

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賃上げはあくまで企業の判断ではあるが、長年の政治課題でもあっただけに、中小企業も含めて実現可能な環境をいかに整えるかが問われる1年となりそうだ。

【国交正常化50年 日中関係は/北京五輪・パラ 政府関係者派遣見送り】

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外交面での最大の課題は中国とどう向き合い、どのような関係を築いていくかだ。ことしは日本と中国が国交を正常化してから50年となるが、日中関係が「良くなっていく」と思う人は5%にすぎず、「悪くなっていく」は24%、「変わらない」は62%だった。一方で2月から始まる北京オリンピック・パラリンピックについて、閣僚など政府関係者を派遣しないことを決めた日本政府の対応を「適切だ」と思う人は61%、「適切ではない」は21%だった。
「良くなっていく」と考える人が極めて少数という背景にはやはり、中国国内の人権弾圧や沖縄県尖閣諸島周辺での挑発行為への反発、警戒があるとみられ、自民党内にも強い姿勢で臨むべきだという声が少なくない。岸田総理大臣は「建設的かつ安定的な日中関係の構築」を目指すとしているが、米中の対立が長期化する中、日本としてどのような関係を構築するのか。

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外務大臣として歴代最長を誇る岸田総理大臣の外交手腕も問われる年となる。

【今の支持政党】

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通常国会は17日に召集されるが各党の支持率は明暗が分かれた。自民党が6ポイント以上伸ばしたのに対し、野党は軒並み低下し、なかでも立憲民主党は3ポイント以上落として日本維新の会を僅かではあるが下回ったことが目を引く。

【ことしの政治】

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ことしの政治は夏の参院選を軸に展開することになるが、自民・公明両党は去年秋の衆院選に続いて勝利すれば、解散しない限りその後3年間、全国規模の国政選挙はない。つまり岸田総理大臣は政策の実現に集中することが可能になる。それだけに通常国会では、与野党が鋭く対立する法案の提出は極力控えるものとみられ、「こども家庭庁」の設置に向けた法案などを政権の実績として示し選挙に臨みたいところだろう。
これに対し立憲民主党は党勢回復の足掛かりを得られるかどうかの重要な選挙だ。泉代表は、論戦を通じて党の存在感、独自性を示しながら、野党内で指導力も発揮するという難しい課題を果たせるか。リーダーとしての力量が問われる。
選挙を前にした国会はとかくアピール合戦となりがちだが、すべての政党・政治家には、目指す社会や必要な政策を競い合うことでこの国を前に進め、国民の判断にも資する真剣な議論を求めたい。

(曽我 英弘 解説委員)


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