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学歴は不問! 新世代の宇宙飛行士募集

水野 倫之  解説委員

今週から募集が始まった、新世代の日本の宇宙飛行士について。
今回文系・理系どころか学歴も問わないと、応募条件が大幅に緩和。
その狙いと、求められる宇宙飛行士像について、水野倫之解説委員の解説。

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応募条件は大きく2つしかなく世界の宇宙飛行士募集の中でも最も緩やかに。

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① 専門性について、3年以上の実務経験、つまり社会で仕事をした経験があること。
② そして医学的特性を有することで身長が149.5~190.5㎝、矯正視力が1.0以上あることなどで年齢や性別も問わない。

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これまでは例えば前回13年前はまず学歴の条件があり、
理系の4年制大学を卒業していなければ。加えて3年以上の実務経験も、理系に限られていた。

なので、歴代11人の日本人宇宙飛行士は、全員理科系の大学を出て、研究者や医師、エンジニアなどを経て飛行士となるケースが多かった。

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でも今回は学歴不問、高卒や中卒もOK。
そして実務経験も理系である必要はなくなり、文系もOK。
またこの実務経験の内容も問わないということで、派遣社員、自営業などいずれもOK。

これほど条件を緩和した宇宙飛行士の募集は世界でも初めて。

ただ応募の間口が広がったことは確かだが、なりやすくなったと言うわけではなく、
逆にハードルは上がったと私は見る。

例えば私のような文系でも門前払いされることはなくなったが、
理系の知識が不要になったわけではない。

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選抜の日程をみると、来年3月までの応募期間後、書類選考を経て、
0次から3次まで4段階の試験が行われ、さ来年2月頃に若干名が選抜。
このうち0次選考で英語や大学の教養課程レベルの一般教養に加えて、
国家公務員試験レベルの理科系分野の試験を受けなければならず、
理系の大卒程度の基礎知識が必要なのは変わらない。

様々な才能を備えた優秀な人材を発掘するためには、
より多くの人の応募が必要。
たとえばコンピューターのプログラマーの中には
文系出身の人もいたりするわけで、最初から振り分けるのではなく、
選抜試験の中で能力を見極めていこうということ。
前回963人の応募、今回JAXAは数千人規模の応募を期待。

では、新世代飛行士に求められる能力は何なのか。この点が前回よりもハードルが上がったと私が見ているところだが、
JAXAは3つ示していて、

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1つ目は、国際協力でミッションを行いますので、多様性を尊重し、
協調性とリーダーシップを備えていること。
2つめが極限の宇宙環境でも的確な判断・行動ができること。
ただこの2つは前回も求められていた能力。
次の3つめが今回新しいもの、それは表現力と発信力。

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実際エントリーシートには、今回自己アピールの項目が追加。
構成は自由で、写真や図の添付も可能。
また1次から3次試験を見ても、まだ内容は言えないというが
毎回プレゼンテーションが求められることになっていて、
表現力・発信力を重視しているとうかがえる。
これは新世代の飛行士の活躍の場が月に広がっていくことが背景にある。

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アメリカは2025年に宇宙飛行士を月面に送り、
月を周回する拠点ゲートウェイも建設して継続的に月面探査をする計画。
日本も参加を決め、物資の補給などを担うかわりに、
日本人がゲートウェイに搭乗する約束が交わされている。さらに2020年代後半にも日本人飛行士が月面探査に参加できる可能性もあり、今回選抜された飛行士が月面に立つ可能性。

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ただ月面探査には莫大なコスト。
日本はこれまで国際宇宙ステーション計画に1兆円を超える経費をかけてきたが、
それを大幅に上回る可能性も。
政府は宇宙の平和利用や高い技術力を通じた国際プレゼンスの向上も期待でき
参加の意義はあるというが、
先日実業家の前澤友作氏が日本の民間人として初めて宇宙ステーションに滞在、
今後民間宇宙船で月を目指すことも発表。
民間が力をつける中、日本が国として多額のコストをかけて月面探査を行う意義は何なのか。国民にわかりやすく説明し、理解を得ていかなければならず、
発信力や表現力が新世代の飛行士には重要になってくるわけ。

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そのためにも多彩な人材の応募が求められるが、中でも期待がかかるのは女性の応募。
宇宙飛行士の仕事で女性に務まらないものはなく、多様性という点で女性の視点も必要。しかし、現役の日本人宇宙飛行士に女性はいない。
でも世界ではNASAの飛行士の3割は女性で、
最初に月面に降りるのは女性飛行士と決めているくらい。
JAXAでは前回全体の1割だった女性の応募を3割まで高めたいとして、
今後女性をターゲットとした応募キャンペーンを打っていく。
とここまでいい話ばかりしてきましたが、注意しなければならない点も。

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選抜試験のあとも、2年間航空機の操縦訓練などが行われて正式に宇宙飛行士に認定され、その後も2年以上かけてステーション滞在へ技量を高める訓練も行われるので
宇宙飛行には最短でも4年。実際には初飛行まで13年かかったケースも。

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さらに今、有人宇宙計画は不確定な点が多く、
国際宇宙ステーションは2024年まで運用されることは決まっていますが、
それ以降は不透明。
また月面探査もアメリカは当初2024年月面着陸と言っていたが、
つい最近1年の延期が発表。
また月を周るゲートウェイも数人が年間最大30日滞在する程度とみこまれるので、搭乗の機会は限られるかも。最悪、宇宙飛行できない可能性も否定はできない。ただ
月から上る地球を目にして、探査の意義を広く世界に伝えたりして
人々に夢を与えることができる特別な存在であることも確か。
応募は来年3月4日まで、まずはどれだけ応募が集まるかに注目。

(水野 倫之 解説委員)


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