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住民が主役! 地区防災計画を作ろう

中丸 憲一  解説委員

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【「地区防災計画」は、どんなものなのでしょうか】
行政ではなく、各地区の住民が作成する防災計画のことです。
国は21日、北海道から岩手県にかけての沖合にある「千島海溝」と「日本海溝」で、巨大地震と津波が発生した場合、死者は10万人から19万9000人に達するとする新たな想定をまとめ、公表しました。
また、南海トラフ巨大地震や首都直下地震の発生も切迫しているとされているほか、毎年のように豪雨災害も起きて、今後、地球温暖化の影響でさらに激甚化するとされています。こうした甚大な被害をもたらす大規模災害から命を守るには、行政の力だけでは不可能で、地域住民自らの行動や住民どうしの助け合いが必要だとして、今、この「地区防災計画」の重要性が高まっているんです。

【国などの計画とはどう違うんですか】

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災害対策基本法には、もともと▼国の「防災基本計画」のほか、▼都道府県と市町村の「地域防災計画」の作成が定められていました。
これに平成25年の改正で、住民や事業者などが作る「地区防災計画」が新たに設けられたんです。
東日本大震災と阪神・淡路大震災という2つの大震災で、行政が被害を受けて機能が麻痺したり、公的機関の救助の手が十分に届かなかったりしたことから、住民どうしの助け合いが必須だとして、この地区防災計画の創設につながったんです。

【具体的には、どんな内容なんでしょうか】

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たとえば

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▼県が作ったハザードマップを、自分たちの地区だけにズームアップして掲載し、細かいエリアごとにどんな危険性があるのかを示している計画や、
▼過去にその地域でどんな災害があったのかを細かく調べ、同じような災害が起きた場合、どう対処するかを記載したりしている計画もあります。

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また、▼マンションの住民が作っている計画もあります。
神奈川県横須賀市(よこすかし)にあるマンションで作られた計画を詳しく見てみます。
住民を「避難誘導班」や「消火班」、「救助班」、「給食給水班」など複数の班にあらかじめ分けておきます。このうち、「避難誘導班」は、災害発生時にマンションにいる住民の避難誘導はもちろん、親が仕事などで外出していてすぐに家に帰れない「帰宅困難世帯」の子供を引き取り、親に代わって安全な場所に避難させるというマンションならではの役割も担っています。
この計画作成のアドバイザーを務めた専門家によりますと、住民が話し合って計画を作った結果、希薄になりがちなマンションの住民どうしのつながりが深まり、訓練の参加者が増えるなどの効果が出ているということです。

【住民同士が話し合って作ることで、より防災上の効果が高まるわけですね】

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内閣府の最新のまとめでは、全国のおよそ5000の地区で、「地区防災計画」が作成されたり、作成が進められたりしています。ただ、どこで災害が起きてもおかしくない中、さらに多くの地区で作成する必要があると思います。

【これから新しく計画を作ろうという場合は、どういった点がポイントになるんでしょうか】
まず、先ほど紹介した先進例を参考にして、いいところを取り入れるということが大事です。内閣府のホームページにある「地区防災計画ライブラリ」に先進例が数多く載っていますので参考にしてください。
また、南海トラフ巨大地震で、全国で最も高い津波が想定されている高知県黒潮町(くろしおちょう)のホームページには「まねっこ防災」という動画がアップされています。
その一部を紹介します。

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「まねっこ防災始めてみませんか。

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地区防災計画のポイントは、よい事例や工夫をまねっこすることです。

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個人ボックスとは世帯ごとに衣装ケースの大きさのボックスを用意し、その中に避難後に必要なものを入れて、それを高台の避難場所や避難タワー上にある防災倉庫に備蓄する活動のことです。黒潮町のある地区では、すべての世帯に個人ボックスを配布し住民全員が必要なものを入れて防災倉庫に保管しています。

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個人ボックスを整備することで災害時に何も持たず手ぶらですぐに避難することができます。

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これによりたとえ自宅が津波で被災しても、必要なものを避難した先で確保することができます。備蓄された個人ボックスには、衣服や食べ物、薬など必要なものを一人一人の事情に応じて自由に入れることができます。黒潮町では個人ボックスが配布されたことで備蓄を行政や自主防災組織にすべて任せるのではなく、地域住民一人ひとりが自ら考え備えるきっかけになりました。」

【地域の特性を知る住民の皆さんならではの素晴らしいアイデアですね。こうしたアイデアを計画に書いていけばいいんですね】

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そうですね。地区防災計画の作成に詳しい京都大学防災研究所の矢守克也教授は、実際に計画を作っていく際に3つのポイントがあると指摘しています。

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まず1つ目です。
「① 地区防災計画は行政が行うのではありません」。
計画作りの主体はあくまでも住民で行政はその手助け役です。「どうせ行政がやってくれるでしょ」というのでは身を守れないというわけなんです。
続いて2つ目です。
「② 地区防災計画は書類を作ることが目的ではありません」
どうしても行政の計画のような分厚いきっちりとした書類を作らなければいけないんじゃないか、と思ってしまいがちなんですが、そうではないんです。この制度の目的は、あくまでも住民が計画を作ることで地域の防災力を高めることにあるからです。
そして3つ目が、
「③ 地区防災計画は一度きりで終わりではありません」
計画ができたら「やれやれこれで終わった」となりがちなんですが、そうではないんです。その計画をもとに訓練をして、見つかった課題を新たに盛り込み改善するというサイクルを繰り返すことが大事なんです。一度作ったら終わりではなく、「差し替え版」ができるのが望ましいんです。

【でもやはり「計画」というと分厚い書類をイメージしますし、何回も作るというのはたいへんそうですよね】
なので、まずは一枚でいいんです。
法律には「計画は何枚以上じゃなきゃダメ」とは書かれていないので、フォーマットは自由だからです。

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黒潮町で作られた計画をご紹介します。一枚の紙にすべてまとめられています。
詳しく見ていきますと、地区の特徴として、人口や高齢化率、また想定される津波の高さなどが書かれています。
さらに、必要な防災活動として、家具の固定があげられています。
この地区では、「津波から迅速に避難するには何が必要か」を検討しました。
その結果、「まずはけがをしないで早く家から出ること、そのためには家具の固定が重要だ」となったわけです。

【住民のみなさんの「気づき」が一枚の紙に凝縮されているわけですね】
そうです。なので、まず一枚紙でいいから作りましょうと。で、訓練などを行うと新たな課題が見えてくるので、そうしたらもう一枚追加しましょうと。いう形で進めるといいということです。

【これなら「始めやすく続けやすい」ですね】
巨大地震や豪雨の被害は全国どこでも起きるおそれがあり、地区防災計画の作成は待ったなしといえると思います。
まだ作っていない地区の方々は、先進例や今回紹介したポイントなどを参考に、ぜひ早めに作成にとりかかっていただきたいと思います。

(中丸 憲一 解説委員)


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