来年度の税制改正大綱が、先週まとまりました。焦点のひとつとなっていた住宅ローン減税の見直しについて、今井解説委員。
【住宅ローン減税。どう変わるのですか?】
まず、今、現時点の住宅ローン減税を確認したいと思います。
▼ 年末に残っているローン残高の「1%分」を
▼ 「10年間」その年に払う所得税や住民税から控除=差し引くことができます。
▼ ただし、控除できるローンの上限は、一部を除き、原則「4000万円」となっています。
つまり、最大限利用すると、「4000万円」の1%=毎年40万円。10年間で400万円の減税を受けられる内容です。
それを、今回の税制改正では
▼ まず、1%の控除率を0.7%に引き下げることにしました。これは、「行き過ぎの改善」をするためです。注文住宅は今年10月以降、マンションなどの分譲住宅では今年12月以降に契約し、来年1月以降に入居する人が対象になります。
【「行き過ぎの改善」とは、どういうことですか?】
住宅ローン減税は、もともと、金利の負担を軽くすることで、住宅の購入を後押ししようという目的です。ところが、今は、低金利です。
▼ 例えば、0,4%の金利で4000万円のローンを組んで、最大限、減税を利用する場合、支払う利息は、4000万円の0.4%で、年16万円。これに対して、減税額は、4000万円の1%で年40万円。払う利息より、減税額が年24万円多くなります。
【その分、お得になるのですね】
はい。こうした状態が10年続き、その時点で残っているローンを一括返済すれば、10年間、国から補助金をもらって家を買ったような形になります。
会計検査院は、実際、1%未満の金利で住宅ローンを組む人の割合が78%にのぼっている。資金に余裕があり、ローンを組む必要がないのに、あえてローンを組む動きにつながっているなどと指摘していました。
そこで、控除率を0.7%に引き下げることにしたのです。ローンを組む時の銀行への手数料などを考えると、「お得」はほぼ、解消されるということです。
さらに、そもそも住宅ローン減税を受けられる人の所得の上限を引き下げることにしました。所得が高い人は、減税の恩恵を受けなくても、家を買うことができる。そういう考えです。
【でも、控除率が下がると、所得がそこまで多くない人にとっても、減税の恩恵が減ることになりますよね。これは痛いですよね】
そこで、新築について、減税を受けられる期間を、今の10年間から、13年間に延ばすことにしました。
【3年間長く、恩恵を受けられるのですね】
はい。そういうことです。ここまでは、「行き過ぎの改善」について見てきましたが、今回、住宅ローン減税の見直しには、もうひとつ大きな狙いがありました。省エネ性能の高い家を買うと、減税の恩恵が大きくなる仕組みを本格的に導入することで、省エネ住宅を後押ししようという狙いです。
具体的には、今は、一部の極めて省エネ性能の高い、「認定住宅」を除くと、原則、控除できるローンの上限は4000万円となっています。その部分を、今回、省エネ性能に応じて、3段階に分け、省エネ性能がより高い住宅は、上限を高くする。一方、国の省エネ基準に達しない住宅は、これまでより上限を低くすることにしました。
【省エネ性能が低いと、減税の恩恵が少なくなるのですね】
2019年度着工の家では、おおむね80%以上が、国の省エネ基準を満たしているということですが、そのうち、より高い省エネ水準、あるいは極めて高い省エネ水準などの住宅は一部に限られています。確かに、省エネ性能の高い家ほど、一般的に、価格は高くなりますが、長い目で見ると光熱費は安くなります。減税のお得感を加えることで、脱炭素社会に向けて、より省エネ性能の高い住宅の購入を後押ししようという考えです。
ただ、2024年以降に入居の方は、上限額が全体的に縮小されますので、注意が必要です。
【考え方はわかりましたが、結局、住宅ローン減税の恩恵は、これまでと比べてどうなの?】
政府は、「全体では、税収に大きな変化はない。増税でも減税でもない」としています。ただ、ざくっとした傾向で言えば、「高所得の人」は、恩恵が減る。一方、「中所得の人」は、恩恵が増える形です。
【どうしてですか?】
所得の高い人ほど、税金をたくさん納めているため、控除率が下がることが大きく響きます。例えば、フルに控除の枠を利用した場合、10年の減税額は最大400万円でしたが、今後は一般的な省エネ基準の家で、減税の期間が3年延びても最大364万円。恩恵は36万円減ります。
一方、それほど多く税金を払っていない中所得の人には、減税の期間が3年延びることが大きく効いてきます。例えば、年収600万円で、一般的な省エネ基準の家を買い、4230万円のローンを組んだ場合、減税額がこれまでの299万円から314万円と、15万円分恩恵が増えるという試算もあります。
ただ、毎年の収入や住宅の価格、省エネ性能、ローンの額などで減税の恩恵は変わりますので、不動産会社や工務店などに試算をしてもらって考えることが大事だと思います。
ここまでは、減税の話でしたが、住宅については、もうひとつ。子育て世帯と若い夫婦に向けた新しい補助金の制度もできることになっています。
【どのような制度ですか?】
省エネ性能に応じて、最大100万円の補助が受けられる制度です。対象は、「18歳未満の子を持つ世帯」または「夫婦いずれかが39歳以下の世帯」です。
省エネ基準を満たしている新築の住宅を買うと、省エネ性能に応じて、60万円から100万円の補助を受けられるという内容です。補助を受けるには、契約は今年11月26日から。申請の期限は、来年の10月末までなど、いくつか条件があります。予算の都合上、早めに締め切ることもあるとしているので、これも注意が必要です。
この制度では、省エネ性能を高めるリフォームも、最大45万円の補助が得られます。こちらは、子育て世帯や若い夫婦以外も対象になりますが、その場合、補助は最大30万円です。
【減税も、補助も、期限が区切られているとなると、手厚い支援策があるうちに家を買った方が得ということでしょうか?】
そう考えたくなる気持ちはわかります。
ただ、特に若いうちは、預貯金が少ないので、頭金を多く出せません。もともと、頭金は、価格の20%から30%が目安と言われてきましたが、今、20代、30代は40%前後の人が、頭金ゼロで家を買っているという調査結果もあります。
一方、住宅の価格は、例えば、首都圏の新築マンションの平均価格が一戸当たり6750万円に達するなど、値上がりしています。頭金ゼロでは、多額のローンを組むことになります。
今、新型コロナの影響で、賃金やボーナスが大きく減って返済の不安に直面している人もいます。
減税や補助金の期限に迫られて、焦って、年収に見合わない多額のローンを抱えることがないよう、長い目で見てローンを返せるかどうか、こどもの教育資金・老後の資金は大丈夫か。慎重に検討し、自分なりの「買い時」というのを自ら考えることが、なにより大事だと思います。
(今井 純子 解説委員)
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