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そのビル ブロック塀は大丈夫? 進まぬ耐震化

松本 浩司  解説委員

先月7日に東京や埼玉で震度5強を観測した地震では交通機関が止まって多くの帰宅困難者が出たほか、エレベーターの停止や水道管の破裂など生活に大きな影響が出ました。
またブロック塀の倒壊や外壁の落下も相次ぎ、都市部の脆さと危険性も露になりました。
建物やブロック塀の耐震化はどこまで進んだのでしょうか。

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【耐震化はどこまで進んだのか】

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耐震化は少しずつ進んできましたが、住宅の場合、耐震性が足りないものがまだ700万戸あると見られています。国は2025年までにこれをほぼ解消するという目標を立てていたのですが、達成が難しくなってこの春、5年先送りしました。

耐震化率があがらない理由のひとつが古い建物の耐震化が進まないことです。
このため国は倒壊すると多くの人を巻き込む恐れのある建物に耐震診断を義務付け、結果の公表を進めています。補強や建て替えを促す狙いです。

【ビルの耐震診断義務付けと公表結果】

対象は耐震基準が厳しくなる1981年までの基準で建てられた、一定規模以上の建物で
▼商業ビルやホテル、病院など多くの人が利用する建物や
▼避難路沿いにある建物です。
耐震性不足の建物名を自治体が順次、公表しています。

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今年3月には東京・中央区の分が公表されました。代表的な繁華街で戦後いち早く復興したため古いビルが多く残っている銀座の診断結果が注目されました。

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銀座1丁目から8丁目に、診断義務付けの古い建物が76ありました。
診断結果は3ランクで評価され、
▼ランクⅠの「震度6強以上の揺れで倒壊または崩壊する危険性が高い」建物が18。
▼ランクⅡは「危険性がある」建物が15あって、4割以上が耐震性不足でした。
買い物や飲食、ビジネスで多くの人が利用する建物ばかりです。

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全国ではどうなのでしょうか。まだ公表していない自治体もあって公表はまだ半ばですが、1万6000棟のうち27パーセントが耐震性不足であることがわかっています。

【耐震化が進まない理由と公表の効果】

耐震補強が進まないのははぜなのでしょうか。耐震補強に補助を出している自治体もありますが、原則自己負担で費用がかかるのが第一の理由です。また利用しながら工事をするのが難しかったり、所有者が多く合意形成が難しかったりするケースもあります。

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ただ診断結果の公表によって少しずつ耐震補強をするケースも出ています。
東京・新橋にあるニュー新橋ビルは築50年。飲食店や物販、診療所、弁護士事務所などさまざまな店や事務所が入っています。

耐震診断をしたところ「震度6強以上で倒壊・崩壊の危険性が高い」との判定。補強をする必要があるのですが、実はこのビル、地区の再開発に伴って4~5年後には取り壊される可能性があります。しかも区分所有者が319人もいて「あと数年なのに何億円もかけるのか」という意見もあって話し合いは難航しました。

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そこで「第一弾としてビルの一番弱いところだけは補強しよう」ということで合意。
鉄骨の筋交いを入れたり、柱や壁を補強。2億円近くかけて今年3月に完成しました。
耐震性のランクはⅠからⅡに改善され、今後さらに補強をすることも検討しています。

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管理組合の役員は「安全のため『まずできるところまでやろう』ということで話がまとまった。先月の地震のあと『補強をしておいてよかった』と声があがった」と話しています。

【ブロック塀も耐震診断が義務に】

先月の地震ではブロック塀の倒壊が相次ぎましたが、ブロック塀についても診断の義務化が始まっています。

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ブロック塀の危険性がクローズアップされたのは40年以上も前、1978年の宮城県沖地震です。塀の倒壊で15人が亡くなりました。地震のたびに被害が繰り返されたのですが抜本対策はなかなか進みませんでした。

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3年前の大阪北部地震で小学校の女子児童など2人が巻き込まれて亡くなりました。これを受けて国はブロック塀についても耐震診断の義務付けと結果の公表に踏み切りました。

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対象はすべてではなく、避難路沿いにあるものです。自治体が緊急輸送道路など避難路を指定し、その道路沿いにあるブロック塀の所有者に耐震診断を義務付け、結果を公表します。

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積極的に取り組んでいるのが大阪北部地震があった大阪府です。去年から取り組んでいて、まず緊急車両や帰宅困難者の通行のため重要な300キロの道路を避難路に指定しました。
「広域緊急交通路」と呼ばれています。すべての道沿いを自転車でまわって調査したところ耐震性に問題がありそうなブロック塀が当初265カ所見つかりました。所有者に手紙を出して耐震診断が義務付けられたことを知らせたうえ、市町と協力して個別訪問をして診断を働きかけています。さらに義務付け対象になっていなくても通学路などのブロック塀の調査を進める一方、府と市町村でブロック塀撤去費用の補助制度を設け、2800件の利用がありました。

避難路沿いのブロック塀の耐震診断の義務付けは全国ではどのくらい進んでいるのでしょうか。避難路を指定し、義務付けを始めたのはまだ4都府県22市町村にとどまっています。
避難路の指定に時間がかかっていたり、避難路沿いの建物の耐震診断と結果の公表が終わっておらず、そちらを優先しているなどが理由と考えられますが、急いでほしいと思います。

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ではブロック塀の所有者はどうしたらよいのでしょうか。全国の自治体の半分はブロック塀の耐震診断や撤去などに何らかの補助を出しています。診断費用は規模に応じて1万5千円から数万円ということで全額補助している自治体もあります。市町村や地元の建築士会などに相談をするのがよいでしょう。

【耐震性への関心を高め安全性向上を】

建物もブロック塀も耐震性の確保は所有者の責任ですが、利用者など多くの人が耐震性に関心を持つことが危険なものを減らし安全性を高めることにつながります。

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耐震診断義務付け建物の診断結果は都道府県や市区町村のホームページで確認することができます。自治体名と耐震診断、義務などのキーワードで検索すると見つかります。正式名称は「要緊急安全確認大規模建築物」と「要安全確認計画記載建築物」です。

また耐震補強を済ませるなど耐震性のあることを国が証明するマークがあって掲示する建物も少しずつ増えています。国や自治体はよりわかりやすく公表することと耐震マークの普及に努めてほしいと思います。

日本はどこに住んでいても大地震のリスクから逃れられません。自分の命を守るため、また人を死なせたりけがをさせたりすることがないよう建物やブロック塀などの耐震化を急ぐ必要があります。

(松本 浩司 解説委員)


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