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世界糖尿病デーと新型コロナ

矢島 ゆき子  解説委員

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◆世界糖尿病デー

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11月14日は「世界糖尿病デー」です。
糖尿病はインスリンというホルモンと関係が深い病気ですが、11月14日はインスリンを発見したカナダのフレデリック・バンティングの誕生日。2006年、国連は、多くの命を助けることになった彼の発見に対して敬意を表し、「世界糖尿病デー」に認定しました。
そして、今年2021年はインスリン発見から100年です。100年前の1921年に、バンティングたちが、インスリンを糖尿病の犬・マージョリーに注射したところ、糖尿病がよくなり、インスリンの効果を確かめることができたのです。そこで、1922年に糖尿病患者に初めてインスリンが注射され、治療は成功しました。以前は多くの糖尿病患者が、昏睡状態で亡くなっていましたが、治療できるようになり、多くの命が助かりました。この業績で、バンティングは1923年ノーベル医学・生理学賞を受賞しています。
当初、インスリンは動物のすい臓からとられていましたが、その後、この100年の間に、ヒトのインスリン遺伝子がわかり、人工的に作れるように。さらに、さまざまなタイプの治療薬が開発され、糖尿病治療は進歩してきたのです。

◆世界の糖尿病患者数

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糖尿病患者はどのぐらいいるのでしょうか?
今現在、世界の糖尿病患者数は、20歳以上の人で5.37億人。10人に1人が糖尿病と言われています。グラフを見ると、2000年の1.51億人から増加していることがわかります。このままだと2030年には6.43億人、2045年には7.84億人に増えるという予測もあります。一方、日本国内の患者数は、2019年の調査ですが、20歳以上の男性で5人に1人、女性は10人に1人が糖尿病です。また糖尿病になるリスクの高い予備群は、世界でも、国内でも相当数いると言われています。

◆糖尿病とインスリンの関係は?

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では、糖尿病とインスリン、具体的にはどう関係しているのでしょうか?
私たちが食事をすると、食べたものが消化吸収され、血液中に糖がたまります。そのとき、膵臓からでたインスリンが、体の細胞のドアを開けてくれるので、糖は細胞に入り、エネルギーとして使われます。

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糖尿病は、このインスリンが不足したり、働きが悪いことで起こるのですが、そうなると、このドアがきちんとあかなくなり、糖が細胞に入れないので、体にエネルギーが行き渡らなくなります。そして、それだけでなく、血液中にたまった糖で血管が傷つき、例えば目・脳・心臓などの病気につながってしまうこともあるのです。

◆どうして糖尿病患者は増加している?

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では、糖尿病の治療は進歩しているのに、どうして世界中で患者が増えているのでしょうか?
確かに、治療が進歩したため、糖尿病になっても健康な人とかわらない生活が送れるようになりました。しかし、多くの場合、完全に治るわけではないのです。また、日本でも世界でも高齢化が進んでいて、高齢になるほどインスリンが少なくなる。便利な社会になり、車・バスを使い、歩かなくなるなど運動不足のために体の糖が使われないことも。また例えば、加工食品・清涼飲料水に含まれる糖質などのとり過ぎで肥満になる。これらの理由で糖尿病になる人が増えていると考えられているのです。

◆コロナ禍の今、糖尿病患者の生活は?

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コロナ禍の今、多くの人の生活が変わりました。糖尿病の場合はどうなのでしょうか?
生活習慣などがどう変化したのかを糖尿病患者321人で調査した研究があります。(20歳以上の通勤している人・テレワークの人・働いていない人が対象。)食事・運動など様々な項目をアンケート調査しました。コロナ禍で増加したものとして、果物・菓子類・間食・自宅での飲酒・自炊・コンビニ弁当や宅配の利用が増加しました。また、外食・宴席・通勤などを含む身体活動量・運動が減少しました。このアンケート結果は予想できそうな内容ですが、この研究では、患者のHbA1c(糖尿病診断に使われる血液検査の一つ)などの数値もチェックしているのがポイントです。このようにアンケートとHbA1cなどの数値を組み合わせて確かめた調査研究は日本では初めてとのことです。では、結果はどうだったのでしょうか?まず、糖尿病が悪化したのは、コーヒー・紅茶などの飲料に砂糖・ミルクを使うことが増えた人でした。一方、改善したのは、外出自粛中でもかならず犬の散歩した犬を飼っている人。そして、間食が減った人です。

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この調査を担当した坊内さんが特に注目したのは、テレワーク。「テレワークの人は糖尿病が全体では悪化したが、詳しくみてみると、両極化したかもしれない」とのことでした。両極化というのはどういうことでしょうか?テレワークをしている人たちの運動(通勤などの身体活動は含まない)について調べた所、運動しなくなった人が43.3%いたのですが、一方で、運動するようになった人も30%いたのです。運動しなくなった人は、病気が悪化。そして運動するのが増えた人は悪化しませんでした。坊内さん曰く、糖尿病の人に限らず、予備群の人も予防のためにも「テレワーク中は自宅でできる筋トレ・ストレッチ、ウオーキングなど、意識して運動量が減らないように」することが大切で、「自宅だとつい間食しがちだが、血糖値が悪くなるので気をつけましょう」とのことでした。今、テレワークがかなり増えているので、全国の多施設と共同でさらに詳しく調査をはじめているということです。

◆コロナ禍の今 糖尿病で注意すべきこと

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新型コロナウイルスの流行は、まだ続いています。糖尿病の人が注意すべきこととしては、どんなことがあるのでしょうか?
糖尿病の人は新型コロナの重症化リスクがあります。具体的には入院時に酸素投与が必要になる割合が高く、また入院中の死亡率が高いのです。ただし、ワクチン接種でこの重症化リスクは下がるといわれています。
そして、「シックデー」(体調の悪い日)に注意が必要です。糖尿病は新型コロナ・インフルエンザなどの感染症にかかりやすく、かかると、発熱・下痢・おう吐・食欲不振で血糖値がひどく上がるなど変動することがあるのです。すべきことは、十分な水分をとり、そして、おかゆ・うどん・ポテトのスープなどで炭水化物をとること。そして、新型コロナなどには、いつかかるのかはわかりません。使っている薬によって対応が違うので、事前に主治医と相談して、わからなければ電話で聞きましょう。またインスリン注射は継続するのが原則で、大切なことは、自己判断でやめないことです。そして、これらの症状が続く、意識がぼーっとする場合は、医療機関に連絡することが重要です。

ご自身が糖尿病だったり・ご家族で糖尿病の方がいたり、リスクの高い予備群だという方も多いかと思います。是非、この機会に、糖尿病について知り、食事・間食・運動などについても改めて意識していただければと思います。

(矢島 ゆき子 解説委員)


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