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衆院選の民意 今後の課題は

曽我 英弘  解説委員

11月のNHK世論調査がまとまった。衆議院選挙は与党が勝利し岸田政権が継続した。
民意はどこにあったのか、政治の今後の課題は何かを考える。

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【内閣支持率】

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選挙後最初の調査で、岸田内閣を「支持する」と答えた人は10月に行った衆議院選挙の1週間前の調査より5ポイント上がって53%。「支持しない」は2ポイント下がって25%だった。与党支持層の80%だけでなく、野党支持層の31%、無党派層の34%も岸田内閣を「支持する」と答えている。支持率が上がった理由として、新型コロナの感染者数が全国的に大きく減少したこともあり、政府の対応を「評価する」と答えた人が60%に上っていることが大きく後押ししていると見ていいのだはないか。

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ただ気になる点は内閣の政策への期待に陰りも見えることだ。「支持する理由」として「政策に期待が持てる」と答えた人が12%にとどまっている一方で「ほかの内閣より良さそう」が41%、「支持する政党の内閣」は26%にまで増えた。どちらかと言えば消極的支持に支えられていることがうかがえる。一方で、「支持しない」理由として「政策に期待が持てない」が41%に急増し、「実行力がない」をあげる人も14%いて、「新しい資本主義」など政権の看板政策の中身、また実現可能性次第で支持率が下落する可能性もある。

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岸田総理が11月中にまとめる大型経済対策や新型コロナ対策をいかに具体化し、速やかに国民に届けることができるか。選挙後早くも正念場を迎えている。

【今の支持政党】

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衆院選で激しく争った各政党だが、支持率の変化で目を引くのは日本維新の会だ。前の調査より3.8ポイント増加し7.3%と、党としての最高を更新し、立憲民主党の8.2%に迫る勢いだ。地域別にみると近畿で21.3%を記録し、またあくまで参考値だが大阪では支持率が30.2%に達し、自民党を抜いて「第1党」だ。また「特になし」いわゆる無党派の割合は、国政選挙直後には減るというこれまで傾向と同様の結果となった。

【衆院選の結果の評価】

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衆院選の結果を国民はどう評価しているのだろうか。
自民党が単独で過半数の議席を確保した今回の結果をどう思うか、聞いたところ、「与党の議席がもっと多いほうがよかった」は10%、「野党の議席がもっと多いほうがよかった」は40%、「今回の結果でちょうどよい」は41%だった。30代以下で54%と若い人ほど「ちょうどよい」が多く与党支持の傾向をうかがわせる一方で、60代の半数を超える人が「野党の議席がもっと多いほうがよかった」と答えた。

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この結果をどう見るか。「ちょうどよい」は、経済や新型コロナなど課題山積する中、当面安定した政権の下で取り組んでほしいということではないか。その一方で「野党の議席がもっと多いほうがよかった」という声からは、自民党単独で国会を主導的に運営することが可能な議席も確保したことで、国会に緊張感が失われるのではないか、議論が疎かになるのではないかといった懸念とも受け取れる。実際、289ある小選挙区を一つ一つ見ていくと当選と次点との得票率の差が5ポイント以下だったのは全体の2割を超える64選挙区に上る。それだけの接戦でもあったわけで、与野党ともに肝に銘じて国会の論戦に臨んでもらいたい。

【低投票率の理由】

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激しい争いも多かったが、投票率は依然として低いままだった。今回の衆院選の投票率は55.93%で、戦後3番目の低さとなった。そこで、この最も大きな理由はなんだと思うか聞いたところ、「政治への無関心」は30%、「政治への信頼の低さ」は25%、「明確な争点がなかったから」は18%、「今の投票の仕組み」は14%、「投票の啓発の不足」は4%、となった。なかでも30代までは「政治への無関心」が40%と他の年代より高い結果となった。
「政治の信頼の低さ」「明確な争点がなかった」というのは選ばれる側の政党や候補者の責任であり、有権者との接点をいかに日ごろから作っていくかが重要だ。今回ほぼすべての党が分配に力点を置いて主張が重なり、争点が見えにくかった面もあるが、一斉休校や営業自粛などを通じて政治が生活に直結していることを痛感した人も多いはずだ。特に18歳、19歳の投票率は速報値で43.01%と全体より12ポイント余り下回った。多くの人が棄権すれば政党や候補者はどうしても特定の声を重視しがちになるだけに、学校現場などでの主権者教育などがいっそう重要になってくる。

【女性議員の割合の評価】

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女性議員も増えなかった。3年前に男女の候補者数ができる限り均等になることを目指す法律が施行されて初めての衆院選だったが、女性候補の割合は17.7%。当選した女性議員は45人、全体の9.7%で前回よりやや下回った。これをどう思うか聞いたところ、「低すぎる」は42%、「ちょうどよい」は4%、「高すぎる」は3%、「男女の割合は問題ではない」は46%となった。男女別の回答で違いはなかった。
候補者や議員になるのはあくまで能力次第であり、性別の問題ではないという人がいる一方で、今の状態が放置されれば、多様な意見を政策決定に反映させようという制度導入の狙いに反する。今後「クオータ制」つまり候補者や議席の一定数を女性に割り当てる制度の導入や、政党交付金で女性議員の数に応じて差をつけるべきだといった声が強まることも予想される。現職には男性が多く、差し替えが簡単ではないという政党側の都合もあるかもしれないが、来年夏の参院選に向けて一層の取り組みを求めたい。

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【政治の行方は】
10日、第二次岸田内閣が発足するが、政治の行方を大きく左右するのは今後も、コロナ次第だろう。

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緊急事態宣言が解除されて1か月が経つが、次の“第6波”の感染拡大に対する不安を「大いに」または「ある程度」感じている人がおよそ8割と変わらず高いのが現状だ。7割近くが3回目の接種を受けたいとしているのもそうした不安を裏付けている。一方でアメリカ同様、日本でも5歳から11歳の子どもに接種することには「わからない」と答えた人がちょうど5割と「接種したほうがよい」「必要はない」のどちらをも上回り、戸惑いもうかがえる。海外では現在ドイツなどで感染が再び拡大し、日本国内でも去年、年末から年始にかけて大きな感染の波が襲っただけに、岸田総理も感染状況をにらみながらの政権運営を強いられることになりそうだ。

(曽我 英弘 解説委員)


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