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「終わらないPCB処理」(みみより!くらし解説)

土屋 敏之  解説委員

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◆1968年に起きたカネミ油症の原因となった化学物質PCBの処理は現在も続いており、国は先月、その処理期間をさらに延長する方針案を打ち出した

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PCBは「ポリ塩化ビフェニル」という液体の化学物質で、電気を通しにくいなどの性質から、絶縁用の油などにかつては世界的に使われていました。例えば電気設備の「変圧器」や「コンデンサー」と呼ばれる部品、事業所用の照明器具に入っている「安定器」という部品、さらには塗料などにも含まれ、国内でも合計5万トン以上使用されました。
特別な限られた場所ではなく、私たちの身近なお店や職場でも使われていたのです。

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ところがこうした中で1968年、北九州市の企業が製造した米ぬか油を口にした人たちに健康被害が多発しました。これが「カネミ油症」で、認定患者だけで2千人以上にのぼり、当時健康被害を訴えた人はおよそ1万4千人とされます。
原因は、米ぬか油の製造施設で使われていたPCBが、加熱されてさらに毒性の強いダイオキシン類も発生し、これらが米ぬか油に混入してしまったためとされます。
患者の全身に黒い吹き出物などの皮膚障害が現れたり、いわゆる「黒い赤ちゃん」が生まれたことなどが社会に衝撃を与えましたが、症状は他にも、全身の痛みや倦怠感、せきやたん、さらにはがんや動脈硬化のリスクが高いことなども報告されており、今も多くの人が苦しんでいます。

◆決して過去の問題ではない

直接はこの油を口にしていない患者の子供などにも同様の症状を訴える人が多く、国が予算を出す研究班が、今年から認定患者の子供や孫への健康調査も始めています。
そして、原因となった化学物質PCBの処分も終わっていません。PCBの製造自体は1972年に中止されましたが、全国の事業所などで使われていたPCBを含む電気設備などは長い間そのまま残され、そのPCBを無害化する処理は現在も続いているのです。

◆半世紀前に製造中止となったPCBの処理は、なぜ今も終わっていない?

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当初PCBは焼却処分が計画されていましたが、有害物質の焼却施設に各地で強い反対が起き、進まなかったことが背景にあります。
ようやく2000年代になって、国が全額出資したJESCOという特殊会社が化学分解する施設を全国5か所に建設し、高濃度PCBの処理が始まりました。高濃度PCBを含む電気機器などを保有する事業者は、期限内にJESCOに処理を委託することが義務づけられました。

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処分するのに期限が設けられているのは、反対があった施設を地域に受け入れてもらうため、地元に対しあらかじめ操業する期間を示し、終了後は撤去する約束もしているためです。こちらが高濃度PCBを含む変圧器やコンデンサーの処分期間で、他の品目についてはまた別の期限が設けられています。
ご覧のように西日本では既に処分期間は終了していて、東海から北海道までも来年3月、つまり今年度末までと期限が迫っています。
ところが先月、国の検討会でこうした期限の延長を意味する新たな方針案が打ち出されました。これは今もPCBを含む製品・廃棄物が見つかり続けていて、東日本でも今年度末では終わらないことが見込まれるためです。

◆地元と約束していた期限をなぜ延長?

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背景には、長年の間に事業者が保有していたPCB製品が紛失したり、そもそも自社の設備にPCBが含まれていると事業者が気付いていなかったケースも少なくないことがあります。
とは言え、このような物が放置されれば、やがて漏れ出して環境汚染などにつながる恐れもあります。
PCBは水や大気に拡散する一方、生物の体内には溜まりやすく食物連鎖を通じて濃縮される性質もあります。世界的に魚介類や野生動物からも微量のPCBが検出されていて、 されていて、これはかつて使われていたPCBの影響と見られます。日本でも学校で使われていた古い蛍光灯の安定器が破裂し、子供がPCBを浴びるようなことも起きており、こうしたことからも適正な処理が必要です。
これまでも国が事業者への周知を行ってきましたが十分だったとは言えず、今も自治体が調査して古い工場や事務所の電気設備から見つかるようなケースが後を絶ちません。
今後見つかるであろう量はもうわずかだと国は見込んでいますが、とは言え今後も出てくることを想定せざるを得ず、期限延長という案になったのです。

◆国の新たな方針案は?

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まず全国の施設で現在の期限後も、品目にもよりますが2年程度期間を延長します。
そして、北九州の施設は既に期間を終了して一部は解体作業が始まっているため、その担当地域で出てきた変圧器などは、今後は他の施設、具体的には大阪と豊田で処理することが考えられています。
国は立地自治体に対し、こうした方針案を受け入れてくれるよう要請している段階です。
実は国が期限を延長するのはこれが2度目です。当初は2016年までが期限だったのが予定通り進まず、一度延長して現在の期限になりました。その際に自治体に対し、これ以上の再延長はしないと約束していました。それを再び延長するというのは、国の見通しが甘かったと言わざるを得ませんし、地域からは反発する声も上がっています。

◆今後求められることは?

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国は、今度こそちゃんと終えられるのか?これからの計画や再延長後の安全確保など、地域の人たちにこれまで以上に丁寧に説明し理解を得ていく必要があります。また問題の背景には、事業者がPCBを含む設備を持っていると自覚しておらず、散発的にPCB廃棄物が見つかり続ける現状がありますから、周知を徹底することも欠かせません。
一方で事業者には、自社の設備にPCBが含まれていないか確かめ処分する責任があります。経済産業省や環境省のホームページなどに確認の方法が掲載されていますし、自治体も窓口を設けています。費用は公的補助で軽減されますので、PCBを持っていないか?全ての事業者があらためて確認して欲しいと思います。
カネミ油症の発生から半世紀が過ぎ知らない世代も増える中、PCB廃棄物という負の遺産を次の世代に押しつけることなく、早期に安全な処理を進めなくてはなりません。

(土屋 敏之 解説委員)

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