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食品による窒息 子どもの安全を守るには

水野 倫之  解説委員

一口サイズのパンをのどに詰まらせ、乳児が死亡したり窒息する事故が続いたことがわかり、国民生活センターが商品名を公表し注意を呼びかけ。こうした食品による子どもの窒息事故はパン以外でも相次いでいる。水野倫之解説委員の解説。

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国民生活センターが公表したのは大阪のメーカーが製造している「かぼちゃとにんじんのやさいパン」という3センチ四方の一口サイズのパン。

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国民生活センターによると、まず去年3月、沖縄県で生後10か月の男児が保護者が目を離したすきに丸ごと口に入れ、保護者が出そうとしたが少ししかかきだせず、苦しそうにしたため救急搬送されたものの、亡くなった。
続いて今年6月には静岡県で、ベビーカーに乗った11か月の男児に保護者が与えたところ、息ができなさそうになり、あわてて背中をたたいたところパンが吐き出されて、命に別状はなかった。

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事故が続いた原因はパンの大きさや水分量が影響したとみられる。
まず1歳児の口は直径3センチほどで、今回のパンは丸ごと入る。
しかしその先ののどは、直径1センチ以下と、ホースのように細い。
仮にのどに詰まっても、唾液でパンの形が崩れればいいが、今回のパンを国民生活センターが調べたところ、水分量は食パンの半分程度で唾液の中でも崩れにくいことがわかった。
専門家は、「乳幼児が丸飲みできるサイズで、口の中で形が崩れにくいことから乳幼児にはリスクのある食べ物だった」とみる。

メーカーでは事故を受けて袋に、小さい子はちぎって食べるよう表記するなどした上で、今後、乳幼児が丸飲みできないようサイズを大きくしたり、のどを通りやすくするため材料を変更するということ。
ただ販売は継続されているので、国民生活センターでは乳幼児に与える場合は、小さく切って食べやすい大きさにして与えることや、お茶や水で喉を湿らせることなど、注意を呼びかける。
ほかにも幼い子どもが食品で窒息は相次いでいる。
去年も松江市の認定こども園で豆まき行事に参加した4歳の男児が豆を喉に詰まらせて死亡、また東京の幼稚園でも4歳の男児が給食で出されたブドウを詰まらせて亡くなっている。

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消費者庁によると、14歳以下の子どもの食品による窒息で、過去6年間で80人が亡くなっていることがわかった。その9割以上が5歳以下。
小さい子どもに事故が多いのはそしゃく機能が十分に発達していないから。
幼い子どもは歯が生えそろっていないため、よく噛んで飲み込むというそしゃくが十分にできず、食べものを丸飲みしてしまい、のどに詰まらせることが多い。
またのどに詰まれば、大人であればせきをしてはき出すことができるが、子どもが自分で力をかけて咳をすることは困難。
さらには走ったりしゃべったりしながらの「ながら食べ」や早食いなどふざけて詰まらせてしまう危険性も。
日本小児科学会は、事故が多い食品を3種類上げる。

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まず丸くてつるっとしているもの。
ブドウやサクランボ、ミニトマト、団子や飴、それに豆やナッツは、丸くて表面がなめらかなため口の中で保持できず、ふとしたときに飲み込んで喉に詰まり、窒息につながる可能性。
次に粘着性があるもの。
お餅やパンなどは、口の中にはり付いて取れなくなる可能性あり。
中学生がパン食い競争で窒息死したことも。
さらにかたくてかみ切りにくいもの。
イカやタコ、セロリなどは十分に小さくならないまま喉に送り込まれ、窒息する可能性。
こうした窒息を防ぐためにどんな対策が考えられるか。

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まず国。
加工食品の場合、対象年齢や注意書きが示されている商品が多いが、統一規格がないため、食品会社の裁量で表記。
食品ごとに特性は異なるので簡単ではないが、これだけ事故が起きているので、国がどんな大きさや粘着度で事故が起きているのかまずデータを蓄積した上で、乳幼児向けの食品の形状などに関する規格を示すことも検討してもらいたい。
次に家庭での対策。
まずは幼い子どもが食事をするときには必ず保護者がそばに付き添って。
しかし実際、保護者が隣にいて注意していても事故は起きている。

なので、危険性のある食品はなるべく控えること。
中でも豆やナッツ、消費者庁は以前は3歳ころまでは食べさせないでと呼びかけていたが、松江市の事故を受けて、今年から「 かたい豆やナッツは5歳以下には食べさせないで」と対象年齢を引き上げた。
でもこの中にはくだものなどもあるのでどうしても与えたい場合は、例えばぶどうやミニトマトなどは4等分。
また噛みにくいものは小さく刻むなど、保護者がコントロールすることが大事。

それでも子どもがのどにつまらせてしまったらまずは何はともあれ救急車を呼ぶこと。
でも喉に詰まると5~6分程度で呼吸が止まって意識を失い、心臓も止まって脳が障害を受ける危険性が高まる。一刻を争うため救急車をただ待つだけでなく、その場で食べたものをはき出させるための応急処置を行うことが極めて重要。
乳児と幼児でやり方に違いがあるが乳児の場合のまずは背中をたたいてはき出させる方法。
乳児をうつぶせにして、おなか側に腕を通し、指で下あごを突き上げる。
そして両肩の真ん中あたりを、手のひらの付け根で素早く強くたたく。
次に胸を圧迫してはき出させる方法。
乳児を仰向けにして頭を低くする。
両方の乳首を結んだ線より少し足側を指2本で押す。
食べ物をはき出すまで、この2つの方法を交互に5,6回繰り返して行う。
消費者庁や消防が動画を公開しているし、地域によっては消防などが講習会を開いているところも。
なじみのある食品で事故は起こる。
尊い命を守るため、保護者としていざというときの対処法をしっかり覚えて事故を防いでもらえれば。

(水野 倫之 解説委員)


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