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「動き出した高校普通科改革 ねらいと課題」(みみより!くらし解説)

二宮 徹  解説委員

高校生のおよそ7割が通う普通科に、来年度から新しい学科が設置できるようになります。特色や魅力のある学校を増やそうという、この高校普通科改革。そのねらいや課題について、お伝えします。

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<高校普通科改革とは?>
高校普通科改革とは、どんな改革なのか?今の高校の制度と合わせて説明します。

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日本の高校は、普通科、専門学科、総合学科の3つに分かれています。
多くの教科を幅広く学ぶ普通科のほか、農業や工業、商業、理数などの専門学科は、それぞれの専門科目を多く学びます。農業高校や工業高校もこの分類です。そして総合学科は、普通と専門両方の科目を選べる学科として1994年に導入されました。
生徒の割合は、普通科がおよそ73%です。

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この普通科に来年度から新しい学科を設置できるようになります。現在の制度ができた1948年以来初めてです。ただ、今は普通科の中に別の名前の学科がないので、わかりにくいのですが、新しい学科はあくまで普通科の枠内です。
新しい学科は専門学科とは何が違うのかというと、必修科目など、基本的なカリキュラムは普通科のままです。そのうえで、総合学習の時間など、学校の裁量で使える時間を活用して、ある分野に特化して、新しい学科を名乗ります。
文部科学省は、例として、地球温暖化や格差解消など、現代社会の課題を学ぶ学科や、少子高齢化など、地域の課題解決を探る学科を挙げています。

<高校普通科改革のねらい>
改革のねらいは、同じような教育内容で画一的な普通科に、特色や魅力のある高校を増やすことです。

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背景には、受験生の多くが、学校の特色や教育内容ではなく、いわゆる偏差値をもとに選んでいるという現状があります。入学後も、大学受験や就職に関係ない教科は意欲が低下しがちという問題があります。
それに、日本、アメリカ、中国、韓国で、普通科の高校生に勉強の仕方を聞いたところ、日本は「試験の前にまとめて勉強する」が4か国で最も多い一方で、「できるだけ自分で考えようとする」などが最も少なく、能動的に学んでいない実態が裏付けられました。
こうした中で、少子化が進む地方を中心に定員割れが相次ぎ、時代に合った教育内容という面でも改革が迫られています。
学習意欲に加えて、自分で課題を見つけ、解決する力などを高めようというわけです。

<全国初の改革に臨む松浦高校>
課題解決力は、最近はソリューションという言葉で、企業でも重視されています。それを高校でどう教えようというのでしょうか?
この普通科改革に全国で真っ先に名乗りを上げ、来年度から新しい学科にする長崎県立松浦高校を取材しました。定員割れが続く中で、4年前から課題解決力や論理的思考力を高める授業に取り組んでいます。

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長崎県北部の松浦市は人口2万人余り。トラフグやアジフライが名物です。
松浦高校は1学年に普通科2クラス、商業科1クラスの市内で唯一の高校で、来年度から普通科を「地域科学科」にします。
特色は4年前に始めた「まつナビ」という授業です。2年生が週2回、地元の経済活性化や高齢者福祉など、10以上のテーマから自分で選んで、グループで探求します。この日は今後、深める内容を話し合いました。現地調査などを通じて、実践的に地域課題の解決策を探ります。

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<松浦高校「まつナビ」の効果>
新しい「地域科学科」の目玉になる、この「まつナビ」。来年度からも総合学習の時間などを活用して、地域に関わりながら学びを深めていきます。
この「まつナビ」、文部科学省の高校改革の推進事業にも選ばれています。
生徒たちも、大学で何を学びたいか、将来どんな職業に就きたいかなど、より具体的に考えるようになり、それに伴っていろいろな教科を幅広く学ぶ意欲や進学志向が高まっているといいます。

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 2年生の男子生徒は「ふだんの勉強はやれって言われたゴールが見えているが、『まつナビ』は見えないゴールに向かって、1歩ずつ進んでいかないといけない。物事の見方を一方から見るのではなくて、多方面から見ることで解ける問題など、頭をやわらかくすることができると思う」と話していました。
また、2年生の女子生徒は「私は大学に進学しようと思っていて、私たちの班では子どもをテーマに研究を進めています。普通の教科の勉強とは全然違いますが、『まつナビ』は、コミュニケーション力や自分たちで考える力がどんどん付いていくので、大学入試の面接や就職試験の面接の時に自分の意見をどんどん言えると思う」と話していました。

<地域連携が重要>
取材をしていても、生徒が受け身ではなく、自発的に進める姿が印象的でした。ただ、こうした実践的な取り組みは先生たちだけでは難しく、地域の協力が必要です。

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「まつナビ」の授業がある日などに校長室で行われる打ち合わせには、市の担当者や協力してくれる市民のほか、毎週のように長崎大学から准教授がやってきて、内容や方針をアドバイスします。
こうした連携が、大学のゼミのような深い学びに加えて、地域活性化にも役立っているといいます。

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アドバイスをしている長崎大学の井手弘人准教授は「高校が勉強を教えることだけではなく、地域と一緒に、地域の人たちと地域に学びながら地域をつくっていく、参加していく学校づくりというのが非常に大きい意味合いを持ってくる」と話していました。

<「普通科信仰」の壁>
地域連携がとてもうまくいっている一方で、改革は予想していた以上に分厚い壁に直面しています。

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いわば「普通科信仰」です。「地域科学科」に替わると発表したところ、地元の中学校や保護者から「大学進学を目指せなくなるのか?」「受験に不利なのでは?」といった不安が多く寄せられました。このままでは、志望する中学生が減って、定員を大きく下回ってしまうおそれが出てきたのです。
改革に名乗りを上げたのが松浦高校が全国初で、高校普通科改革自体がまだよく知られていなかったこともあって、普通科の教育内容ではなくなるなどの誤解を生んでしまいました。

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 このため、校長らが急いでチラシや資料を作り、中学校などを説明に回って「シン(深・伸・進)化した新たな普通科」であり、「進学重視」などと強調しました。
新しい学科への不安の声が多いことに、文部科学省も戸惑っています。
来年度から新しい学科をつくる高校は岐阜県や島根県にもある一方で、ためらっている高校もあります。文部科学省や自治体は、率先して説明するなど、不安の払しょくに全力を挙げてほしいと思います。

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新しい学科は普通科の枠内に置くというのが、まだしっかりと伝わっていないので、新しい学科にする際には、地域に十分すぎるほどの説明が必要です。文部科学省も、来年度以降、本格的に改革を進めるため、手を挙げた高校への支援を強化する考えです。
最近は大学入試も変わってきて、面接や小論文を重視する入試が増えるなど、暗記した知識ではない力が求められています。すべての高校で新しい時代に合った教育を行い、生徒が生き生きと学ぶ姿をもっと見たいと思います。

(二宮 徹 解説委員)

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