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衆院選 投票率を考える

伊藤 雅之  解説委員長

衆議院選挙は、今月31日に投票日が迫っています。選挙のたびに、課題とされるのが投票率。特に若い世代の投票率の低さです。投票率が低いのはなぜか、投票率が低いままだとどうなるのか考えます。

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【低迷する投票率】
Q)投票率が低い傾向といいますが、どういう状況なのでしょう?

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A)衆議院選挙の投票率の推移を示したグラフです。
昭和の時代は、変動はあるものの、おおむね投票率は70%をはさんで推移していました。それが平成に入った後、がくんと下がっています。
そして、前々回、7年前が過去最低の52.66%、前回、4年前が53.68%と低迷が続いています。

Q)平成に入ってなぜ、投票率が下がったのでしょうか?

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A)いろいろな見方がありますが、選挙制度が、25年前、1996年の選挙から今の小選挙区と比例代表を組み合わせた制度に変ったことが影響しているという指摘があります。それ以前は、中選挙区制度で、定員は3人から5人。同じ政党から複数の候補者が争うこともありました。一方、小選挙区で選ぶのは1人で、選択の幅が狭まったため、投票する意欲がそがれたのではないかという見方です。
ただ、平成に入っても、いわゆる郵政解散やその後の政権交代があった選挙では、投票率は高いので、制度の問題だけでもなさそうです。

【若い世代の投票率】
Q)若い世代の投票率が低いといわれますが、それほど違いがあるのでしょうか?

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A)4年前の選挙の年代別の投票率をみます。おおむね年齢が高いほど、投票率も高い傾向にあります。60代が最も高く72.04%。最も低い20代は、33.85%ですから、ほぼ半分ですね。
ただ、これは今の若い世代だけが低いという訳ではありません。みなさんも少し前を思い出してみてください。20代の頃、選挙への関心は、今と比べてどうだったしょう?

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25年前とくらべてみましょう。今と同じように年齢が高いほど投票率が高く、20代の投票率は、やはり60代の半分程度です。
傾向は変わっていません。ここから2つのことがわかると思います。

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若い世代の得票率が低いというのは、長年続いてきた課題であること。
もう一つは、若い世代も年齢を重ねると投票率が高くなっていくことです。そこに投票率をあげるヒントがあるように思います。

Q)年齢が高くなると政治や選挙への関心が高くなる、その理由を考えるということですね?

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A)ええ。年齢が高くなるにつれて、例えば、家計の収入や税金に敏感になってきます。子育てや教育をもっと支援して欲しいと感じるかも知れません。
また、自分や家族の病気や介護、老後の不安もあって、医療や年金など社会保障がどうなるか、人生設計を考える上で重要になってきます。
一方で、年齢を重ねるにつれて、仕事や地域などでの付き合いや人脈が広がり、選挙で投票を呼び掛けられる機会も増えてくるでしょう。

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生活していく上で、より政治が現実の問題になる。政治が身近になってくると投票率があがってくることが考えられます。
政治は身近なものかどうか。今回のテーマの重要なポイントになります。

【なぜ投票にいかない】
Q)それでも投票率は、全体として、以前より、低くなっているのですよね?なぜ投票に行かないのでしょうか?

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A)さまざまな調査の結果をみますと、投票に行かない理由は、「適当な政党や候補者がいない」、「仕事があった」、「関心がない」などというのが、いつも上位にきています。

Q)理由はいろいろですね?

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A)投票にいかない理由のうち、「適当な政党や候補者がいない」、「違いがわからない」というのは、まさに選ばれる側の政党や候補者の課題です。しっかり考えてもらいたいですし、残る選挙戦の間に、分かりやすく主張を伝える一層の努力が必要です。

Q)「仕事」は、「期日前投票」もあるので、なんとかなりそうですね?
A)「期日前投票」は、すっかり定着しました。前回は投票した人のおよそ4割が「期日前投票」でした。「仕事」だけではなく、「旅行やレジャー」「冠婚葬祭」などでも利用できます。コロナ対策で「密」をさけるため、投票を分散させる意味からも積極的に利用するよう呼びかけている自治体もあります。
初めての人でも、手続きは簡単です。投票日に都合が悪いからとあきらめる前に「期日前投票」を検討したらよいと思います。

【投票に行かないとどうなる】
Q)一方、「関心がない」「選挙で政治は変わらない」というのは、どう考えたら良いでしょう。
A)ここが一番難しいところですね。特に、投票の経験が少ない若者の場合は、より当てはまることかもしれません。
NHKの衆院選特設サイトには、選挙に関する様々な情報が掲載されています。この中には、若い世代が投票しないと、政策が投票率の高いお年寄り向けになりかねないと指摘するショート動画もあります。
もちろんお年寄りのための政策も大切です。投票にいかない理由に「選挙で政治は変わらない」というのがありましたが、投票に行かないと、政治が望まない方向に偏っていく心配もあります。

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今回の衆議院選挙は、コロナ禍の選挙です。若い世代の人も、新型コロナでは、大きな影響を受けました。たとえば学生の場合、学校が休校になったり、オンライン授業が増えたりしました。バイト先がなくなったり、シフトが減ったりして学費や生活費に困った人という声があがりました。
このため、去年は、国民一人当たり10万円の一律給付がありました。アルバイトの収入が大幅に減った学生には、10万円か20万円の「学生支援緊急給付金」という制度もありました。今回の選挙でも、生活に困った人への支援を、これからどうするか、若い世代をどう支援していくかも争点になっています。
また、ワクチンの接種も、若い世代が後回しにされているという憤りも聞こえてきます。まさに政治は身近だと実感できたのではないでしょうか。

【投票率向上で「こわい」有権者に】
Q)身近なことから政治を考えると選挙に対する考え方も変わってくるかも知れませんね。
A)投票率が、もっともっと下がっていけば、一部の人の支持だけで当選できるようになってしまいます。全体のことを議員が考えなくなったら大変です。
政治を取材してきて感じるのですが、どんなに当選を重ねたベテランの政治家でも、選挙は心配です。投票率が高くなれば、国民の声をより幅広く聞き、政策や方針を考え、説得するようになるでしょう。衆議院選挙の投票日を前に、投票率の向上が、政党や候補者、政治家にとって、有権者をよりこわい存在にする。そして、政治に緊張感をもたらすと考えてみてはいかがでしょうか。

(伊藤 雅之 解説委員)


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