NHK 解説委員室

これまでの解説記事

物価上昇 生活への影響は?

今井 純子  解説委員

消費者物価が上昇に転じました。今井解説委員。

m211026_1.jpg

【物価。上がっているのですね】
はい。消費者物価指数は、コロナの影響で、前の年より下落が続いていましたが、先週、発表された今年9月は、プラスの0.1%。1年6か月ぶりにプラスに転じました。

【何が上がったのですか?】
内訳を見てみてみると、
▼ まず、ガソリンが16.5%上がったのをはじめ、灯油、電気代といった、エネルギー関連の価格が大きく上がりました。また、
▼ 輸入牛肉や食用油、マヨネーズなどの食料品も、大きく上昇。
▼ 水道料も上がりました。

m211026_3.jpg

調査の対象522品目のうち、上がっている品目と下がっている品目の数を今年一月と比べると、
▼ 下落した品目が、このように減った。(223品目⇒175品目)
▼ 一方、上昇した品目が、大幅に増えました。(232品目⇒284品目)
値上げのすそ野が広がっていることがわかります。

m211026_4.jpg

【なぜ、これだけ多くの品目で物価が上がっているのでしょうか?】
例えば、水道料は、人口減少や老朽インフラ更新のために、水道料金を上げる地域が相次いでいる。といった、個別の要因はいろいろありますが、
物価全体を押し上げている大きな要因としては、国際的な原材料価格が上がっているという点が挙げられます。

m211026_6.jpg

【国際的な原材料価格ですか】
はい。まず、
▼ 原油です。ニューヨーク市場では、一時、およそ7年ぶりの高値になりました。
▼ また、発電所の燃料などに使われるLNG=液化天然ガスのアジア向けのスポット価格は、今月、一時、去年の同じ時期の10倍を超える水準となりました。
そのほか、
▼ 鋼材、鉄鉱石、木材など幅広い原材料。
▼ 小麦や大豆などの穀物、それに食肉の国際価格も上がっています。

m211026_7.jpg

Q)原材料の価格は、なぜ上がっているのですか?
A)はい。ひと言でいうと、世界的な需要の増加に、供給が追いついていないということが大きな背景にあります。コロナのワクチン接種が進んで、世界的に経済活動が活発になって、モノやサービスに対する需要が増えています。一方で、例えば、原油については、コロナの感染が再び拡大することへの懸念などから、産油国が大幅な増産に慎重な姿勢を崩していない。あるいは、穀物については、世界的な異常気象の影響で、生産量が減少した。このように、供給が追いついていないのです。

m211026_9.jpg

もともと、日本は、エネルギーや素材、食料の多くを輸入に頼っています。その国際的な価格が上昇している。それに加えて、このところ円安が進んでいること。そして、需要の増加でコンテナ輸送費が急騰していること。が加わり、9月の輸入物価指数は、一年前と比べて、30%あまりの上昇と、比較可能な1981年以降、最大の上げ幅となりました。

m211026_12.jpg

【輸入の原材料がそれだけ上がっている。となると、私たちに身近な商品の物価も、今後、さらに上がるのでしょうか】
10月に入っても、値上げの動きが相次いでいます。
▼ マーガリンやレギュラーコーヒー、お菓子などの食料品の出荷価格が今月1日から上がったほか、
▼ 建築向けのガラス製品の出荷価格も上がりました。
▼ また、ガソリンと灯油の小売価格は、先週、ともに7年ぶりの高値の水準まで値上がりしました。
そして、11月には、
▼ 電気料金が大手10社、ガス代も大手4社、すべてで値上がりすることになっています。
いずれも3か月連続の値上げです。例えば、東京電力では、使用量が平均的な家庭で、一か月の電気料金が7371円。一年前と比べて、およそ900円の値上がりとなります。
▼ そして、食用油や冷凍食品、プラスチック素材の出荷価格も値上がりします。
▼ さらに、12月には、業務用の小麦粉の値上げも発表されています。

【輸入物価が上がっていることが、これだけの値上げにつながるのですね】
はい。日本では、これまで、原材料などの輸入物価が上がっても、企業が加工や流通などの段階で、コストを減らし、消費者への値上げを極力、抑えてきました。それが限界にきているのです。
エネルギーや穀物の国際的な価格の上昇は、当面続く。あるいは、高止まりするという見方が広がっています。加えて、10月に入って、一段と円安が進んでいます。
消費者物価指数は、上昇率が年末には1%程度になり、来年春以降は、1%台半ばまで上がるという見方もでています。

m211026_15.jpg

【家計にとっては痛いですね】
そうですね。本来、賃金が上がって、消費が増え、それによって物価が上がるというのが、「良い形での物価上昇」です。が、今回の物価上昇は、賃金がなかなか上がらない中での、いわば「悪い形の物価上昇」になっています。このままでは、家計にとっては、その分負担が増えることになります。
特に、消費者物価のうち、生活に欠かせない生活必需品について見てみると、9月は、2.0%。全体の平均より、上昇率が高いことがわかります。生活必需品ですから、価格が上がっても、買わないわけにはいかない。それだけに、所得が低い世帯にとっては、より重い打撃になります。

m211026_16.jpg

こちら。
▼ 企業やフリーランスで働いている=仕事がある人を対象にしたアンケート調査です。今年3月から5月の家計収支について、27.3%の人が「赤字」。35.1%の人が「収支トントン」だったと答えています。

【収支トントンというのは、収支がぎりぎりということですね】
そうです。赤字とあわせると、60%あまりが、要するに余裕がないという世帯です。
全体のうち、去年世帯年収が300万円未満だった人についてみると、「赤字」が50%近く。「収支トントン」の人とあわせると80%を超えます。新型コロナの影響で、貧困に陥った世帯も増えています。こうした中、生活必需品の価格が上がっていくことで、すでに、ぎりぎりで暮らしている人たちの生活が、さらに厳しさを増すことが懸念されます。

m211026_19.jpg

【本当に心配です。どうしたらいいのでしょうか?】
今回の衆議院選挙は、与野党とも、所得の再分配、特に国民への現金給付を掲げているのが目立ちます。困っている世帯への支援を強化することは大事だと思います。でも、一時的な給付だけでは、限界があります。やはり、長期的には、全体的に賃金を上げていくことが欠かせません。
こちら。主な国の時間当たりの平均賃金。2000年を100とした指数で推移を見てみると、アメリカやヨーロッパで、大きく上がっているのに対して、日本では、2020年に、93.9。長期的に下がっていることがわかります。賃金の水準は、OECD加盟国で統計のある35か国の中で、22位まで、落ちています。

m211026_21.jpg

【なんとか賃金を上げてほしいですね】
余裕のある企業は、思い切って賃金を引き上げてほしい。その上で、社会全体で人材を再教育して、より高い賃金が得られる仕事に橋渡しをしていく取り組みも欠かせないと思います。

m211026_23.jpg

長期的な視点で、物価を上回る賃金の引き上げが実現できる社会にしていくことが求められていると思います。

(今井 純子 解説委員)

関連記事