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お忘れなく!"もう1つの投票"最高裁国民審査

山形 晶  解説委員

19日に公示された衆議院選挙にあわせて、最高裁判所の裁判官の国民審査が告示されました。
20日からは期日前投票も始まりました。
私たちは何を基準にして投票すればいいのでしょうか。

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Q:選挙のたびに裁判官の国民審査がありますが、どうやって判断すればいいのか悩んでしまいますね。

A:この制度は、最高裁の裁判官のうち、「信頼できない」と思う人がいれば「×」をつけるというものですが、「制度の意義がわからない」「判断材料が少ない」と感じる方も多いと思います。イチから解説します。
NHKでは、判断の手がかりになるような特集サイトも作りました。
あわせてご覧ください(記事の末尾にURLがあります)。

Q:最高裁の裁判官を審査すると言っても、顔や名前が浮かびません。

A:15人いるんですが、少し遠い存在なのかもしれませんね。
ただ、最高裁が判断しているのは、私たちの暮らしに大きく関わる問題です。

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例えばこちら。
ことし6月には、家族の名字のあり方について判断を示しました。
今の法律は、夫婦が同じ名字にするか別々の名字にするかを選べる「選択的夫婦別姓」を認めていませんが、これが憲法に違反するかどうかが争われたケースです。
これは、多数決で「憲法に違反しない」という判断になりました。
また、去年10月には、非正規雇用の人たちの待遇について判断を示しました。
大学や駅で働いていた人たちが正規雇用の人と同じようなボーナスや退職金を求めた裁判です。
これは「格差が不合理とまでは言えない」として認めませんでした。
ただ、このケースと働く条件が違えば、ボーナスや退職金をもらえる可能性はあります。

Q:確かに、私たちの暮らしに関わる判断を示しているんですね。

A:はい。そして、最高裁の判断は、ほかの裁判所とは重みが違います。

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地裁の判断に不服があれば高裁に控訴できます。
高裁の判断に不服があれば最高裁に上告できます。
しかし、最高裁の判断に不服があっても、それ以上は争うことができません。
「最高」というだけあって、全国の裁判所の頂点なんです。
最高裁が、ある問題について一度判断を示したら、ほかの裁判所は、事実上、違う判断をすることはできません。

Q:最高裁の判断は全国の裁判に影響するんですね。

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A:はい。場合によっては、国会を動かすこともあります。
国会は、私たちの社会のルールである法律を作ります。
その内容が、最高法規である憲法に照らして問題がないか、誰かがチェックする必要があります。
それが裁判所の役割なんです。
裁判所は、法律の是非が争われた裁判で、憲法上、問題があると判断すれば、判決などで「憲法に違反する」と宣言して、国会に「NO」を突きつけることができます。
最高裁が「憲法の番人」と呼ばれる理由でもあります。
最近では、婚姻関係にない親から生まれた「婚外子」の遺産相続の格差や、女性が離婚した後、再婚するのを禁止される期間について、当時の法律が憲法に違反すると判断しました。
これらは、いずれも法改正につながりました。

Q:最高裁は強い権限を持っているんですね。

A:はい。だからこそ、権限が強くなり過ぎないように、最高裁の裁判官は裁判所が任命するのではなく、内閣が任命する仕組みになっています。
そして、その人物でいいかどうか、主権者である私たちが事後的にチェックするのが、国民審査なんです。
私たちが裁判官に「NO」を突きつけられるので、裁判官に緊張感を持ってもらうという意味もありますし、私たちが司法に関心を持つきっかけにもなる制度だと言えます。

Q:審査のやり方は具体的にはどうなっているんですか?

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A:投票所に行くと、衆議院選挙の選挙区と比例代表の投票用紙が配られます。
そして、もう1枚の紙が国民審査の投票用紙です。
今回の審査対象となっている裁判官の名前が書かれていて、その上に空欄があります。
もし、この裁判官は信任できないと思う場合は、「×」を書いてください。
何も書かずに「白紙」のままにすると「信任した」と見なされます。
注意しなければならないのは、「〇」とか、ほかのものを書いたら、無効になるという点です。
なぜ「×」以外はダメなのかというと、選挙のように私たちが「この人がいい」と選ぶ制度ではないからです。
内閣が選んだ人物でいいかどうかをチェックするので、「×」だけを書くという仕組みなんですね。

Q:「×」が多かったらどうなるんですか?

A:有効投票の過半数が「×」だった裁判官は、罷免、強制的に辞めさせられます。
ただ、過去に罷免された人はいません。
「×」の割合は、最も高かった人でも15.17%です。
「制度が形骸化している」という批判もあります。
一方で、消極的とはいえ、裁判官は一定の評価を得ているという見方もあります。

Q:「×」を書くにしても、書かないにしても、名前だけではわかりません。
何を手がかりに判断すればいいのでしょうか?

A:やはり投票所に行ってからでは遅いので、事前に調べておかなければなりません。
ここで少しご紹介します。

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今回は15人の裁判官のうち、こちらの11人が審査の対象です。
最高裁のホームページと同じ、就任した順番です。
投票用紙の順番ではないので、ご注意ください。
残りの4人は、前回、4年前に審査を受けているので、対象外です。
一度審査を受けると、次は10年以上経ってからです。
最高裁は定年が70歳なので、実は、全員、今回が最初で最後の審査です。
顔ぶれを見ると、裁判官や検察官、弁護士など、法律関係の出身者がほとんどで、女性は2人です。

Q:最近では、誰がどんな判断をしていたんですか?

A:最高裁の裁判官が全員参加する「大法廷」のケースで見てみます。

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先ほどの夫婦別姓のケースでは、ご覧のようになっています。
空欄の人は、最近就任したので関わっていません。

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また、おととしの参議院選挙で、選挙区ごとの1票の格差が憲法に違反するかどうかが争われたケースでは、ご覧のようになっています。

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ただ、これだけでは判断できないと思います。
NHKが立ち上げた特集サイトでは、最近の主な裁判(30件)を紹介しています。
いずれも過去にニュースとしてお伝えしたものですが、改めて一覧にまとめました。
関心のあるテーマもあると思います。
誰がどんな理由でどんな判断をしたのか、個別の意見も載せていますので、この機会に、関心を持っていただければと思います。

最高裁の裁判官は、言ってみれば、社会のルール違反を裁く「審判」です。
その審判がフェアでなければ社会が歪んで、私たちが不利益をこうむります。
どんな人物なのか、しっかり見極めて審査したいですね。

(山形 晶 解説委員)

(NHK国民審査特集サイト)
https://www3.nhk.or.jp/news/special/kokuminshinsa/2021/

 


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