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「教育の未来をつくる 教師の労働改善を!」(みみより!くらし解説)

二宮 徹  解説委員

今、教育界では、教師の忙しさ、労働環境が大きな問題になっています。特に去年以降は新型コロナ対策も加わって、先生たちはますます疲弊しています。教師の給与や採用の問題について、教育担当の二宮解説委員がお伝えします。

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<多忙な学校現場>
先生たちが忙しいのは、コロナ禍だけが原因ではありません。コロナ対応の消毒などの業務が増えていますが、教師の多忙はコロナ前から深刻な問題です。教師の業務負担が増えているのです。

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▼例えば、授業の準備に時間や手間がかかるようになってきました。教える内容が増えたうえ、グループでの話し合いや体験を生かしながら、子どもに深く考えさせる授業が増えました。
▼また、会議や研修、報告書類の作成などの業務も増えています。昔のように担任に多くを任せるのではなく、学校全体や複数の教師で進めるようになったことなどが背景にあります。
▼それに、中学・高校では、部活動の負担も大きいといいます。事故やトラブル防止の観点からも、以前のような生徒任せになかなかできなくなったといいます。
文部科学省が5年前におこなった勤務実態調査では、「過労死ライン」とされる月平均80時間以上の時間外勤務をした教員が小学校でおよそ3割、中学校はおよそ6割にのぼりました。

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これに、今はコロナ対応も加わっています。
▼消毒や健康観察、保護者との連絡のほか、▼緊急事態宣言などに応じて、行事の日程や計画を練り直します。今年の行事がすべて変更になった学校もあります。▼また、オンライン授業をしている学校では、機器の準備やトラブル、オンラインに適した教え方への対応などに追われています。

<「残業裁判」と「給特法」>

全国で教師たちが疲弊し、悲鳴を上げる中、先日出された裁判の判決が注目を集めました。

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今月1日、埼玉県の公立小学校の男性教員が、月平均60時間の残業代約240万円を県に求めた裁判の判決が言い渡され、男性の請求は棄却されました。
どうして認められなかったのか。公立校の教師は時間外勤務手当、いわゆる残業代は出ないという法律があるからです。
公立校の教師の給与は、給特法・教職員給与特別措置法という法律に基づき、残業代が出ない代わりに、「教職調整額」が支給されます。平日夜の残業や休日の部活動などをしても、労働基準法が定める時間単位の手当は出ないのです。しかも、そもそもこの法律で、教師は原則、残業をしない、命じられないことになっています。校外実習、学校行事、職員会議、非常災害この4項目は、時間外勤務を命じることができますが、これらも「教職調整額」に含まれます。
この「教職調整額」が問題で、基本給の4%。だいたい月に1万数千円。何十時間残業しても1万数千円なのです。

<給特法の課題> 

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詳しく説明しますと、給特法は50年前、1971年に制定され、残業代の代わりに基本給の4%が支払われるようになりました。なぜ4%かというと、その5年前におこなった勤務実態調査で、1週間の残業時間が平均で1時間48分、月8時間程度だったことから算出されました。当時の先生は、残業が週に2時間足らず。一日30分もないので、ほぼ定時に帰れていたということです。ただ、自宅に持ち帰ったテストの採点や夜間のトラブル対応などが含まれないなど、当時の実態を正確には反映していない面もあります。
一方で、今は多くの教師が何十時間も残業していますが、50年前のまま、「自発的行為」という扱いです。ネットやSNSで「定額働かせ放題」と揶揄されるほどです。
こうした中、先日のさいたま地裁の裁判長は、請求は棄却したものの、「付言」として、「給特法は、もはや教育現場の実情に適合していないのではないか」と指摘し、給与体系など勤務環境の改善を求めました。
文部科学省は、来年度、教員の勤務実態調査を行う予定です。現状や裁判長の指摘を重く受け止めて、制度の見直しに踏み込んでほしいと思います。
しかし、文部科学省だけで決められることではありません。もし、今の勤務実態に応じて残業代を支払うとしたら、年間9000億円はかかるという試算があるのです。勤務実態と給与がかけ離れている職業は、公立病院の医師など、ほかにもある中で、教育にこれだけの予算を上積みするには、国会や財務省、そして何よりも国民の理解が不可欠です。

<採用倍率低下と改善策>
それに勤務実態調査が来年度ということで、給与制度を見直すにしてもしばらくかかりそうです。その間に教師の人気低下が進めば、教育の未来が危うくなってしまいます。 

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教員の採用倍率が下がり続けています。昨年度は公立小学校の全国平均が2.7倍と、過去最低に落ち込んでしまいました。採用倍率は3倍を下回ると人材確保への影響が大きくなるとされています。
どうしてこんなに人気が下がっているのか。若い人たちが労働の実態や給与制度に敏感に反応して、教師を目指す人が減っているのです。
教育大学や教育学部を卒業して教師になった学生の割合は、大学院への進学などを除くと、昨年度は65%で、この10年で最低です。3人に一人は教師にならないのです。一般大学・学部でも、教職課程の履修をやめる学生が増えています。
教師を目指す人を増やすにはどうすればいいのか。教師の労働環境や給与を改善するとともに、採用方法も見直す必要があります。例えば、教員採用試験です。主に大学4年の春に行われていますが、一般企業の就職活動と重なっているのです。
このため、文部科学省では、採用試験の時期を早めることなどを検討しています。また、社会人や大学の途中から教師を目指す人などのための採用制度も充実させる方針です。

教師はやりがいがあり、子どもたちを育て、日本の土台をつくる大切な仕事です。給与制度や働き方を改善して、魅力を高めてほしいと思います。給与を上げる、人を増やすという改善には、多額の予算、税金が必要です。子どもたちのため、教育の未来のために、学校や教師をどのように支えていくのか。国や国民全体で、もっと考える時期に来ていると思います。

(二宮 徹 解説委員)

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