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コロナ長期化で『フレイル』増加  予防の実践を!

牛田 正史  解説委員

「フレイル」という言葉をご存じでしょうか?
「か弱さ」などという意味で、体の機能や能力が衰え、介護が必要な一歩手前となった状態を表します。
実は、このフレイル状態の人が、新型コロナが長期化する影響で増加しています。
その実情と予防法についてお伝えします。

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【コロナでフレイル増加】

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急速な高齢化とともに介護が必要な人は、年々増加しています。
この伸びを抑えていくためにも、一歩手前の「フレイル」を減らしていくことが重要です。
ところが、新型コロナの長期化でフレイル状態の人が増えています。
筑波大学などの研究グループが、約900人の高齢者を対象に行った調査では、去年(2020年)1年間に16%の人が新たにフレイル状態になったといいます。
一方で、同じような年齢や状態の人が、5年前(2015年)にどれくらいフレイルになったか調べたところ11%でした。つまり割合が約1.5倍に拡大したわけです。

【なぜフレイルが増えているのか】

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その要因はいくつかあります。
まずは外出や運動時間の減少です。
急事態宣言の相次ぐ発出や感染予防で、自宅にいる時間が増えました。
感染の大きな波が来るたびに、体を動かす時間は減っています。
また、人と会う機会が極端に減ったことも「フレイル増加」の大きな要因となっています。
ワクチン接種が進み、宣言が解除されたとはいえ、今後も感染リスクは続き、フレイル状態の人が増えるおそれは十分にあります。

【フレイルを予防するには】
そうなると重要なのは予防、ということになります。
そこでまず大切なのは、自分自身が「フレイル状態になっている」もしくは「なりかけている」ということに早めに気付くことです。
その参考となるのが、次の5つの項目です。

▼①「歩行速度の低下」
▼②「疲れやすい」(わけもなく疲れた感じがするなど)
▼③「活動性の低下」(社会活動など)
▼④「筋力の低下」(握力など)
▼⑤「体重の減少」(例えば半年で2、3キロ減るなど)

これらは専門家が示した基準なんですが、3つ以上揃うと「フレイル」、そして、1つか2つの場合は「プレフレイル」に該当するという考え方もあります。

【予防の3大ポイント】
ここからは、具体的な予防法についてお伝えします。
フレイル予防には大きく3つのポイントがあります。

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「栄養」「運動」「社会参加」です。

▽栄養は体を作り機能を維持する。
▽運動は筋力の低下を防ぐことにつながります。
▽そして社会参加、つまり人とのコミュニケーションは認知機能の低下を防ぎます。

今回はコロナ禍でも出来る予防法をお伝えしていきます。

【予防のポイント①栄養】

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まず栄養です。
特に筋肉を作る「たんぱく質」を十分に取ること、そして栄養バランスが重要です。
具体的には1日2回以上、「主食」=ごはんやパンなど+「主菜」=肉や魚など+「副菜」=野菜・きのこ・いもなど。これを組み合わせて食べてください。

【予防のポイント②運動】

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そして運動です。
新型コロナで、運動する機会が減ったという人も多いと思います。
東京大学高齢社会総合研究機構などが、コロナ禍での高齢女性の筋力の低下を調べた結果、握力が低下した人は半数あまり、腹筋や背筋などの体幹の筋量が低下した人は80%以上にのぼりました。

では、どれくらいの運動が望ましいのか、1つの例はこちらです。
「ストレッチや体操を1日10分程度」、または、
「散歩やウオーキングを1日20分程度」などです。
特に歩く速さが落ちてくると、フレイルに注意が必要です。
ウオーキングなどで軽く汗を流す習慣をつけてください。

感染予防で、スポーツジムや体育館などに行くのを控えている人もいると思いますが、そうした人は自宅で出来る運動があります。動画投稿サイトなどで紹介されています。
その1つは「HEPOP」と呼ばれる在宅運動です。(ヒーポップ)
長寿医療の専門家や大学の学生が動画を作成し、自宅でも安全に、そして、体に無理なく、短時間でできる運動を紹介しています。
こうした動画も是非、参考にしてください。
パソコンを使えないという高齢者もいると思いますが、難しい運動ではありませんので、家族や友人が動画を見て教えてあげるのも良いと思います。

【予防ポイント③社会参加】

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そして社会参加、つまり「人や社会とのつながり」です。
新型コロナの影響を最も受けたとも言えます。
フレイル予防を研究している東京大学高齢社会総合研究機構の飯島勝矢機構長は、
「この社会とのつながりを失うことがフレイルの最初の入り口だ」と指摘しています。
飯島さんはこれを「フレイル・ドミノ」と呼んでいて、社会とのつながりを失うことで、生活範囲が狭まり、こころや体にも次々と影響を及ぼすとしています。

新型コロナによって、この「繋がり」を失った人も少なくありません。
コロナ以前には、地域の高齢者が集まって、みんなで「フレイル」をチェックしたり予防運動に取り組んだりする活動が行われていました。
全国70以上の自治体で行われていましたが、コロナで軒並み中止となり、今も再開できていないところは少なくありません。

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そこで、飯島さんが提唱しているのが、「対面型」と「オンライン型」とを組み合わせた「ハイブリッド」方式です。
みんなで集まる機会、そして人数を減らす代わりに、その合間をスマートフォンやタブレット端末などを使って、オンラインで交流していく仕組みです。
このオンライン型のフレイルチェックは、東京・文京区や西東京市で試験的に始まっています。
フレイルサポーターと呼ばれる元気なお年寄りが、オンラインで地域の高齢者に定期的に連絡を取って、フレイルのチェックや予防に向けたアドバイスを送っています。
こうしたコロナ禍での新たな工夫が今後、広がっていくことも期待されます。
もちろん、こうした取り組み以外に、電話で家族や近所の人と話す、あるいは感染対策に気をつけながら小人数で会話をする機会を徐々に増やしていくことも大切になってくると思います。

また、交流する機会があれば、普段あまり運動しない人が始めるきっかけにもなりますので、自治体なども、そうした場を工夫して作ってほしいと思います。
そしてもう1つ。
「最も大事なことは継続すること」です。
無理なことを初めて、短期間で終わってしまうのではなく、出来ることから、長続きすることから実践することが大切です。
新型コロナの影響はまだ続くと思います。
それだけ「フレイル」のリスクは高まりますので、自分の状態をその都度、確かめて、予防に取り組んでもらいたいと思います。

(牛田 正史 解説委員)


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