車に食品や日用品を積んで地域を回る“移動スーパー”。いまコロナ禍で人気を集めています。増え続ける“移動スーパー”についてお伝えします。
【 “移動スーパー”って何?】
Q:私の周りには免許を返納した親戚もいます。こういう車が来てくれるといいですね。
A:多くは軽トラックなどに食品や日用品を積んで各地を回ります。今は冷蔵庫や冷凍庫も設置している車も多く、肉や魚など生鮮食料品やお惣菜なども販売しています。
Q:特にお年寄りには助かりますね。
A:食品の買い物が困難な高齢者は全国で824万人に上るといわれます。“移動スーパー”は、こうした人を支える手段の一つになっています。
四国では徳島に本社を持つ企業が、全国展開しています。私は愛媛県内を走る車に1日同行して、人気の秘けつを探ってきました。
【“移動スーパー” その1日は?】
朝7時前のスーパーです。開店前に準備をしているのが、「とくし丸」の販売員、岩見隆則さんです。
この1台に食品や日用品など、およそ1200点を積み込んでいます。岩見さんは1日30か所を回るそうです。これでも午前中に売り切れてしまう品目もあるそうです。
開店前に契約している地元のスーパーから商品を仕入れます。岩見さんの手元にはお客さんから届いたリクエストがびっしりと書かれています。野菜などもできるだけ新鮮なものを選びます。
買い物に来る客には1人くらしのお年寄りも多いため、お惣菜などは、できるだけ小さいパックも準備して出発します。
向かうのは中心部から30分ほど離れた山間部です。いつもお店を開いている集会所前の広場では、住民が岩見さんの到着を待っていました。免許を返納したお年寄りも多く、お店のない地域では、週2回やってくる岩見さんが生活の頼りです。
ただ、取材してみると、回っているのは山間部だけではありません。多くが普通の住宅地でした。少し離れたところには商店やコンビニもあります。それでも人気なのはなぜでしょう。
最近はコンビニも高齢者向けに力を入れていますが、それでも野菜や魚などの豊富な品ぞろえも支持を受けている1つのようです。またあらかじめネットなどで注文して受け取る「宅配サービス」と違って、“移動スーパー”は自分で好きな商品を直接選ぶことができます。
さらに、自宅まで運んでくれるのも、お年寄りには助かります。こうしたサービスや販売員との触れ合いが、人気の秘けつのようです。
【独特の経営の仕組みは】
Q:でも、この“移動スーパー”はどうやって利益を上げているのですか。
A:岩見さんなどの場合ですが、1つ商品を買うごとに10円加算して支払うことになっています。10円のお菓子でも10円加算。1000円の化粧品でも10円プラスです。これをスーパーと半分にして、5円が販売員の取り分になります。また、商品の利益もスーパーと分け合います。この2つが収入になるのです。
スーパーにもメリットがあります。全体としての売り上げはわずかであったとしても、出店できない場所にも車で出向いて販売してくれることで、リスクは少なく地域貢献にもなるわけです。
Q:これだと品数をたくさん売った方が、販売員の収入は多くなりますね。
A:ところが、岩見さんたちは、こんな決まりや心がけがあります。
▼1つはすぐ近くに商店がある場所では、販売しないルールです。地元の商店を圧迫せず、共存するためだそうです。
▼もう1つは「売りすぎない」ことです。認知症などで必要以上に購入してしまうケースもあるため、「こんなに買って大丈夫?」と声をかけることもあるそうです。
岩見さんはもう5年販売員をしているそうですが、一緒に回っていると、本当に地域の人たちから信頼されていることがよくわかりました。私の取材に「地域の人に頼りにされ、感謝されることがうれしい。長く地域を支えていきたい」と話していました。
【販売だけでなく広がる役割も】
Q:こういう動きは広がっているのですか。
A:四国はほかにもNPOや地区の自治会、それから、道の駅やJAが運営する移動販売もあります。道の駅やJAは「生産者の支援」という目的もあります。
それから岩見さんは警察の依頼で防犯チラシも置いたり、走っている愛媛県東温市と協定を結んでいて、買い物に来るお年寄りの見守り活動も行ったりしています。つまり「地域支援」の一端も担っているわけです。
全国的な統計はないのですが、徳島の会社の販売台数でみると、昨年度は5年前の3倍に増えています。
Q:うちにも来てほしいという人もいると思います。
A:実は“移動スーパー”は条件が合えば、リクエストに応じて来てくれることもあるそうです。どこでも来てくれるわけではありませんが、自治体が補助金を出している場合、自治体にも相談できますし、近くに“移動スーパー”が走っていれば、その運営会社や契約しているスーパーに相談してください、ということでした。販売エリアで販売員のスケジュールなどに余裕がある場合は、希望する地域に出向いてくれることもあります。
【都心にも“移動スーパー”】
Q:自分は都会にすんでいるから難しいのでは、という人もいるでしょう。
A:ところが、今。この“移動スーパー”、都会にも走っています。もう1か所、取材してきました。
こちらは東京、新宿です。「都心中の都心」にも移動スーパーが来ています。つぎつぎとお年寄りが訪れていました。
Q:新宿なら、すぐ近くにお店はたくさんあるでしょう。
A:私もそう思っていました。実際、すぐ近くにスーパーやコンビニはあります。ただ足が不自由だったり、重いモノを持てなかったりして、100メートル先、200メートル先に買い物に行くのが大変だという人も実はたくさんいます。この都営団地では、もう5年以上毎週来ているそうです。
販売員の石川明生さんは、一段落するとカバンに商品を入れて階段を上っていきました。中には体が不自由で「車がやってくる一階に降りることも難しい」という人もいます。そういう人のために部屋の玄関まで商品を持っていって、販売してくれるのです。
石川明生さんは「5分10分歩けばスーパーに行けても、その5分10分が大変だという方、特に足が不自由な方はちょっとお買い物するのもご苦労される方もいらっしゃいます。そういう方を中心に必要なのかなと思います」と話していました。
【社会的弱者の「福祉的機能」も】
私も最初は“移動スーパー”は、過疎地を回って「お買い物サポート」をするが役割だと思っていました。しかし、取材すると、それだけにとどまりません。
社会的弱者の生活支援という、福祉としての機能があるのだということが見えてきました。
それは、実は過疎も都会も関係ない。高齢化していく社会をどう支えるかという課題を考える上で、大事な糸口の1つが、この“移動スーパー”から見えると感じました。
(清永 聡 解説委員)
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