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新型コロナワクチン どう考える?3回目接種と現状

中村 幸司  解説委員

新型コロナウイルスの感染拡大で出されていた緊急事態宣言が2021年9月30日の期限で解除されました。今後の感染について、ひとつのカギを握っているのが、ワクチンです。いま政府は、2回ワクチン接種した人にもう1回追加する「3回目の接種」について、検討を進めています。今回は3回目接種やワクチンの現状について、考えたいと思います。

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Q:3回目の接種については、今の時点で、どこまで決まっているのでしょうか?

A:ワクチンの3回目接種については、厚生労働省の専門家などでつくる、分科会で検討されています。

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9月の会合では、3回目接種の必要はあるということと、3回目接種を実施する場合、2回目の接種から概ね8か月以上あとに行う、というところまでは決まりました。「8か月以上」というのは、海外で追加の接種を始めているケースを参考にしています。
ただ、いつから始めるのか、対象は誰に行うのか、そして、どこで接種できるようにするのかといったことについては、今後さらに議論していくことになります。

Q:そもそも、なぜ3回目接種が必要と考えられているのでしょうか?

A:ワクチン接種で、体にできる抗体、これが時間とともに減ってきますが、3回目の接種で再び抗体を増やそうということなのです。デルタ株などの影響で感染が広がった海外の国では、ワクチンの効果をできるだけ引き出そうと、追加の接種が試みられています。

Q:3回接種したときの安全性がどうなのかが気になりますが、副反応は大丈夫なのでしょうか?

A:3回目接種の副反応について、
▽ファイザーのワクチンは、頻度が、2回目と同じ程度か低い、
▽モデルナは、許容できる範囲で、半数以上は軽度か中等度だったとしています。
▽また、アストラゼネカのワクチンは、1回目の接種後より少ないとされています。

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ただ、3回目接種のデータが少ない段階での分析なので、今後、副反応の評価が変わらないか注意が必要です。
1回目と2回目は、原則同じワクチンを接種することになっていますが、3回目についても、やむを得ない理由がない限り、原則1回目、2回目と同じワクチンを使うことが基本的な考えです。
一方で、3回目の接種をめぐっては、どこまで必要なのかということが、議論になっています。

Q:必要性については「抗体が減るから」ということなのでは、ないでしょうか?

A:実は、ワクチンによる免疫は、抗体だけで考えるわけにもいかないのです。

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新型コロナウイルスは、ヒトの体に入ってくると細胞に入り込んで、細胞の中で増殖します。

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ワクチンを打つと、抗体ができます。抗体は、新型コロナのウイルスを待ち構えていて、ウイルスが細胞に入り込むのを邪魔し、排除してくれます。
ワクチンを接種すると、この抗体以外にウイルスへの攻撃を助ける司令塔のような細胞もできます。

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ヒトの細胞にウイルスが入ると、この細胞は別の細胞に指令を出して、これが感染した細胞ごとウイルスを攻撃します。

ワクチンによってヒトが手に入れる免疫は「2段構え」なんです。

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ワクチン接種から時間が経過して抗体が減っても、こちらの働きはある程度維持されているのではないかということが指摘されています。
そう考えると、3回目の接種をいま急ぐ必要があるのか、慎重な検討が必要だという意見もあります。実はこれは、後で示すWHO=世界保健機関の主張なんですが、議論になっています。

Q:3回目接種の導入については、なかなか判断が難しそうですけど、どうなりそうなのでしょうか?

A:3回目接種を日本がいつから行うのかなど具体的に決まっていませんが、このうち「誰に」ということについては、まずはリスクの高い人を対象に行うことになる可能性があります。病院など、感染のリスクが高いところで働いている医療従事者、それと重症化などのリスクが高い高齢者などが考えられます。

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海外を見ても、イギリス、フランス、ドイツなど追加のワクチン接種を、すでに始めている国では、高齢者などリスクの高い人を対象にしています。アメリカも1週間ほど前から始めています。
一方、イスラエルは、少し違って、はじめは、対象をリスクの高い人たちとしていましたが、次第に対象を広げて、今では12歳以上すべてに追加接種の対象を広げています。
ここまで対象を広げて、感染を抑える効果が高まるのか、日本は、海外の状況をみながら判断していくことになると思います。こうした、先に実施している国を参考に、日本がワクチンの3回目接種を感染対策にどこまでつなげられるかが、ポイントだと思います。

ここで、視点を世界に広げて、ワクチン接種を完了した人の人口に対する割合=接種率を国別にみてみます。WHOの資料から、いくつかの国を抜き出しています。

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日本は、2回接種して完了した人が、57%です。アメリカを上回りましたが、一方で60%、70%を超えている国もあります。いまの日本には、希望する人全員に早く2回の接種を行うことが、優先事項だと思います。
そして、こちらは、ワクチン接種が完了した人の率が低い国を抜き出してみました。

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Q:アフリカの国々など、大きな開きがあるのは問題ですね。

A:そうです。WHOは、少なくとも年末までは追加のワクチン接種の導入をしないよう呼びかけています。
今の段階で先進国などが追加の接種に相次いで踏み切ると、ワクチンがこうした国に行ってしまって、この格差がさらに広がってしまうということが懸念されます。接種ができていない国が多い今の時点では、追加接種を行う必要性があるとする根拠は限定的だというのが、WHOの主張です。

Q:この差をみるとWHOの主張もわかる気がしますが、日本としてはどうしたらいいのでしょう?

A:日本も今後の議論によっては、3回目接種を広く進める可能性はあります。さらに言うと、3回目のみならず、インフルエンザのワクチンのように、年1回というように定期的に繰り返し接種する必要が出てくるかもしれません。

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そう考えると、国産ワクチンを開発して、日本で使うワクチンは日本でつくる、できれば途上国に送るくらいの国際貢献が必要だと思います。

Q:ただ、国産ワクチン開発しても、私たちは、ファイザーやモデルナといった海外のワクチンを打ってきているので、先ほどの同じワクチンを打つという原則からすると、国産ワクチンを接種できないのではないでしょうか?

A:国産ワクチンを開発しているメーカーの中には、異なるワクチンを打った場合、例えばファイザーの後に国産ワクチンを接種しても効果や安全性に問題がないことを臨床試験で確認する計画にしています。その結果をもって、国産ワクチンの使用を可能にしようと考えているところもあります。

日本は、ワクチン開発で出遅れていますが、WHOの指摘、途上国とのワクチンの格差を考えると、国を挙げて国産ワクチン開発に取り組む必要性をあらためて感じます。
個人としての感染症の対策は、自分のことだけでなく、周りの人のことも考えて実践しなければなりませんが、国も同じで、自分の国だけでなく、世界各国のことを考えなければならないということなのだと思います。

(中村 幸司 解説委員)


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