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「ショパンコンクール なるか日本人初優勝」(みみより!くらし解説)

出石 直  解説委員

みみよりくらし解説。
♪♪お聞きいただいているのはポーランドが生んだ天才作曲家ショパンのピアノ曲です。そのショパンにちなんだショパン国際ピアノコンクールが来月2日からポーランドの首都ワルシャワで始まります。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1年延期された今回のコンクールには、日本から予備予選を勝ち抜いた14人が参加し、日本人初の優勝に期待が寄せられています。担当は出石 直(いでいし・ただし)解説委員です。

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【世界3大コンクール】
Q1、ショパンコンクール、映画やアニメでも聞いたことがありますが、そんなに大きなコンクールなのですか?

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A1、チャイコフスキーコンクールなどとともに世界3大コンクールのひとつと言われています。“ピアノの詩人”と呼ばれたショパンは39年の生涯で数々のピアノ曲を残していますが、ショパンコンクールはそのショパンの故郷で5年に1度、ショパンの作品だけで腕を競うという若手ピアニストの登竜門、夢の舞台です。
第18回目となる今回のコンクールは当初去年10月に行われる予定でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で一年延期されていました。
ポーランド政府が定めた感染症対策を守ったうえで、一年遅れで開催されることになりました。

Q2、日本からは14人が参加するということですね。

A2、はい。コンクールには予備予選を勝ち抜いた16の国と地域から87人のピアニストが参加しますが、このうち14人が日本からの参加者です。

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国別では、もっとも多いのが中国で22人、次いで地元ポーランドが16人、日本が14人、韓国が7人などとなっています。

Q3、アジアからの参加者が多いのですね。

A3、アジア勢の躍進はショパンコンクールに限ったことではありません。アメリカやカナダなどからの参加者の中にもアジア系の名前が数多くみられます。過去には優勝者を除く入賞者全員がアジア系だったこともあったほどです。

【日本人参加者の顔ぶれ】
Q4、日本からはどんな方が参加しているのでしょうか?

A4、ことしは特に個性的で才能豊かな若手が揃っていて、大きな期待が寄せられています。話題のピアニストを何人かご紹介しましょう。
反田恭平(そりた・きょうへい)さん(27)。すでに国内外でソリストとして活躍中で、今、“もっともチケットが取れにくいピアニスト”と言われています。
コロナ禍でコンサートが次々とキャンセルになりましたが、反田さんはいち早く有料のオンライン配信を立ち上げて演奏の場を確保し音楽家の生活を守りました。また若手によるオーケストラを結成してその経営も担うなど、多方面での活躍ぶりはこれまでにないタイプの音楽家として注目を集めています。
4年前からはショパンの本場ポーランドの音楽院に留学。今回のコンクールに備えてきました。

牛田智大(うしだ・ともはる)さん(21)。牛田さんは12歳でCDデビューし、天才少年として話題となりました。すでに国際コンクールの入賞経験もある実力者です。

角野隼斗(すみの・はやと)さん(26歳)。角野さんは音楽大学ではなく東京大学の工学部から大学院に進み情報処理を専攻したという変わり種です。ユーチューブの世界ではCaTeen(かてぃん)という名前で知られており、ジャンルにとらわれない幅広い活動を続けています。

このほか、前回のショパンコンクールで日本人としてはただ一人最終選考にまで残った小林愛実(こばやし・あいみ)さん(26)、名古屋大学の医学部で学びながら医師とピアニストの二刀流を目指している沢田蒼梧(さわだ・そうご)さん(22)ら個性あふれる才能豊かな顔ぶれが揃っています。

Q5、楽しみですね。

A5、今回は、コロナの影響で留学が叶わなかったり、コンサートホールでの演奏会がキャンセルされたりするなど不利な条件も重なりました。その一方で「人前で演奏できる喜びを強く感じられるようになった」という声も聞かれました。

【日本人初の優勝なるか】
実はこのショパンコンクール、100年近い歴史の中でまだひとりも日本人の優勝者が出ていません。
2000年には中国のユンディ・リ、前回2015年には韓国のチョ・ソンジンが優勝しています。今回、初めて日本人の優勝者が出るかどうかも注目されています。

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Q6、中国や韓国からは優勝者が出ているのに、なぜ日本人は優勝できなかったのでしょうか?

A6、日本人の入賞者は何人も出ていて、皆さん、素晴らしいピアニストです。
ただ一般論ではありますが、審査員の間には「日本人はみなきちんと準備をしていて上手に弾くが、いまひとつ訴えるものがない」という評価もあるようです。
日本ショパン協会理事でショパンコンクールについての著書もあるピアニストの青柳いづみこさんにお話しを伺いました。

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「日本には、先生のいうことに素直に従うことをよしとする風潮がある。国際舞台で通用するには、自分で考え解釈する力を身につけなくてはならない」
というご指摘でした。

Q7、「自分で考え解釈する力」ですか。耳の痛いお話ですね。

A7、「教えられたことは忠実に守るけれど、なぜそうなのか疑問をもたない」
日本人にはそういった傾向があるのかも知れません。海外の生徒は先生から指摘を受けても「なぜそうなのか」「自分はこう思う」と食い下がって何度も疑問をぶつけてくると言います。「ショパンはなぜこの音を書いたのか。自分はなぜこの曲を弾いているのか。自分の頭で考えて理解しなければ、人には伝わらない」ということではないでしょうか。「自分で考え解釈する」という青柳さんのご指摘は、音楽の世界に留まらず、今の日本の社会全体にも当てはまるような気がします。

一方で、青柳さんは先ほどご紹介した反田さんや角野さんのように、お客さんが来てくれるのを待つのではなく、新しいメディアを駆使して自分から積極的に発信していく、自分で自分をマネージメントできる若者が育ってきていることを高く評価しておられました。
「今回は元気の良い若者がたくさん参加しているので期待したい」ともおっしゃっていました。

今回のコンクールでは、もうひとつ注目されていることがあります。

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優勝者がどのメーカーのピアノを使うかです。ショパンコンクールでは主催者側が用意したヤマハ、カワイなど4社の公式ピアノの中から演奏者が自由に弾くピアノを選ぶことができます。各社とも腕利きの調律師を現地に派遣してピアノの性能をアピールしています。

日本人初の優勝者が出るのか、そして日本のピアノが“優勝ピアノ”に選ばれるのかどうか。最近よく“日本は元気がない”という言葉を耳にしますが、こうした評価を覆すような結果を期待したいと思います。

(出石 直 説委員)

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