◆24日、世界各地で地球温暖化対策を訴える大規模なデモなどが行われ、今月の国連総会でも温暖化は主要な議題になった。
日本ではこの夏、記録的な大雨が各地で降り、災害が起きたり野菜の高騰にもつながりました。この8月の大雨について先日気象庁が検討会を開き、「地球温暖化に伴う大気中の水蒸気の長期的な増加が、降水量を増加させた可能性がある」と発表しており、これも温暖化との関係を否定できません。
そしてこの夏、異常気象や気象災害は世界中で起きていて、主なものだけでも、カナダで観測史上最高の49.6℃など北米の熱波。アメリカ南部などでは大雨による洪水。中国やドイツでも記録的な大雨による洪水で多くの犠牲者が出ており、地中海では記録的熱波で山火事が相次ぎました。
この中には既に国際的な研究グループが、「温暖化の影響で記録的な暑さや雨量になる確率などが高まっていた」と発表しているものもあります。
◆どうして温暖化との関係が具体的に言えるようになってきた?
近年コンピューターの計算能力が飛躍的に向上したことで、「温暖化が起きている場合」 と「起きていなかったと仮定した場合」のそれぞれで多くのシミュレーションを行って、温暖化がどれぐらい影響したかを計算できるようになってきたことがあります。
こうした手法の発達で、温暖化について基本的なことも詳しくわかってきました。世界の平均気温は現在既に産業革命前より1℃あまり上がっていますが、そのうち太陽活動の変化や火山など自然の変動によるものはごくわずかで、ほとんどが人間活動の影響だったことがわかったのです。
国連の機関IPCCは先月、最新の報告書で「人間活動によって温暖化が起きていることは疑う余地がない」と初めて断定し、世界各国の政府がこれを承認しました。
長年、「温暖化なんて言っても自然の変化でたまたまそう見えているだけで、無理に対策をする必要は無い」などといった主張もありましたが、それが科学的に明確に否定され、今後はどの国も対策をおこたる言い訳ができなくなった、とも言えます。
◆そこで対策をもっと強化すべきだという機運も高まっている
先週末、国連総会の時期に世界各地で大規模なデモなどが行われましたが、スウェーデンの18歳グレタ・トゥーンベリさんに象徴されるように若い世代の危機感は特に大きくなっていると言われます。
イギリスのバース大学などが先日、世界10か国の若者1万人を対象にした大規模な調査の結果を公表しました。地球温暖化が「とても不安」「非常に不安」だという人が全体の6割近くを占め、温暖化で「未来が恐ろしい」と感じる人が75%にのぼるなど、世界の若者の危機感の高さが示されました。
◆危機感に対し実際の対策は?
これに対して、現在の各国の対策では全く足りないことも明らかになりました。国連総会にあたって、これまでに各国が提出している温室効果ガス削減目標を分析したレポートが発表され、このままでは2030年には世界の排出量が16%増えてしまうと報告されたのです。
パリ協定では世界の気温上昇を産業革命前より1.5℃までに抑えることを目指していて、そのためには2050年頃に世界の排出を実質ゼロに、その途中の2030年でも45%ぐらい削減が必要だと計算されているのに、逆に増えるというわけです。新興国などでまだ排出量の増加傾向が続いていることなどが大きいと見られます。
来月末からイギリスでCOP26が開かれますが、新興国や途上国などにも削減目標の上積みが望まれますし、先進国は途上国の削減を資金や技術面で支援することも求められます。
◆温暖化を食い止めるカギは?
温暖化を食い止めるために必要なことは数多くありますが、まず注目されるのが「脱石炭」です。石炭火力発電は、高効率とされる新型でも天然ガスの倍近いCO2を出し、国連のグテーレス事務総長は、全ての国に2040年までに、特に先進国には2030年までの脱石炭を求めています。国連総会では中国の習近平主席が、今後、途上国などで石炭火力発電所を新設しないと表明したのは一歩前進ですが、自国内ではまだ大量の石炭火力を使い続けています。
そういう点では日本も、新たな「エネルギー基本計画」の案でも2030年に電力の19%を石炭でまかなうとしています。
◆日本は2030年度に温室効果ガス46%削減という目標を掲げているが実現可能?
政府は2030年度に温室効果ガス46%削減という目標に向け、新たな計画の案も同時に公表しています。エネルギーを使うことで出るCO2の削減目標を例えば産業の分野では38%減、運輸では35%減などとしていますが、最も削減率が大きい目標を割り当てられているのが、実は私たちの「家庭」です。
◆家庭で「66%削減」なんてできるの?
国は様々な対策を積み上げれば可能だとしていますが、全体で46%削減という目標に対し、「国民生活に大きな負担を押しつけているのでは?」と感じる方もいるかもしれません。
そもそも家庭からの排出とされるCO2の3分の2は電力由来、つまり実際は発電所などから出ています。ですから、まず電力会社などが大幅な脱炭素化をしてくれないと、私たちにはなかなか減らせない部分もあります。
◆私たちにできること、すべきことは?
まず、やって損がない対策が「省エネ」です。電気代も安くなりますので、買い換えの時期などにはより省エネ型の機種にしたり、照明をLEDにするなどが基本です。
その上で「66%削減」にはライフスタイルの転換も求められます。その一例がこちらです。まず電化、つまり調理や暖房も化石燃料から電気に変え、そうした電力をまかなうためにも屋根には太陽光発電パネルを設置。さらにヒートポンプ式と呼ばれる高効率の給湯器や、車は電気自動車などに変えます。
こうすれば、太陽光での発電量が多い時には余った電気を給湯器で熱に変えてためたり、EVのバッテリーに電気でためることができます。そして夜間など発電量が足りない時は、車から家に電気を戻すことで、CO2を出さない電気を言わば自給自足できる、ということになります。
ただ、マンションなどは別の仕組みが必要ですし、なんと言っても導入するのにはお金がかなりかかりますから、国が家庭にこれだけの削減を求めるなら無理なく各世帯が導入できるよう後押しする制度が必要でしょう。
ドイツでは先日の総選挙で温暖化対策が大きな争点になりましたが、日本も総理が交代することになって今後の政策が問われています。
国は目標数値を掲げるだけでなく、実現できる施策を早急に打ち出す必要があります。
(土屋 敏之 解説委員)
この委員の記事一覧はこちら