トイレの水が溢れたり、家の鍵をなくしたりしたといった突然の困りごとに対応してくれるサービスを“くらしのレスキューサービス„と呼んだりもするのですが、思ってもいなかった高額な請求をされたというトラブルが相次いでいます。今井解説委員。
【思ってもいなかった高額な請求ですか?】
はい。例えば
▼ トイレが詰まって水が流れなくなった。インターネットで「390円から」と宣伝していた事業者に電話をしてきてもらったところ、「排水管の清掃が必要で、20万円かかる」と言われた。高いと思ったが「マンションの下の階の人に迷惑がかかってもいいのか」などと言われ、契約を結んでしまった。
▼ 台所の蛇口から水が漏れていた。郵便受けに入っていたマグネットの広告に「見積もり無料」などと書かれていた事業者に、来てもらったところ「給水管の交換が必要で、50万円かかる」と言われた。高いと思ったが「現金払いなら45万円でいい」と言われ、払ってしまった。
▼ 玄関の鍵をなくし、インターネットで探した事業者に電話をしたら「基本1万5000円くらい」と言われた。ところが、家に来た作業員には「特殊な鍵なので8万円かかる」と言われた。すぐに対応してもらいたかったので、あけてもらった。
▼ 隣の家の人から、「お宅にハチの巣ができている」と指摘され、インターネットで「ハチの巣の駆除4000円から」とあった事業者にきてもらったところ、「複雑な巣なので、取り除くには10万円かかる」と言われた。「近所に迷惑がかかる」とも言われ、駆除してもらった。
このように「早く解決してほしい!」という思いから、契約をしたけれど、高すぎたのではないか。なんとかならないのか。という相談が多いということです。
【高いけれど、やむをえないと思う気持ちはわかります】
困っているところにつけこむ悪質な事業者がいるのです。
全国の消費生活センターには、昨年度、こうした“くらしのレスキューサービス„に関する相談が5800件あまり寄せられました。5年前の2.8倍で、今年度は、さらに40%上回る勢いです。
インターネットで事業者を探す人が増えていることに目をつけて、ホームページで「安さを強調する」事業者が増えていることが背景にあるとみられています。
【どうにかならないのでしょうか?】
ひとつ、先月、動きがありました。消費者庁が、インターネットやチラシ、つまり広告の表示額と、実際の請求額に「相当な開き」がある場合、「クーリング・オフできる」という見解を示したのです。
【いくつか聞きたいことがあるのですが、まず、「クーリング・オフ」。これは、一定の期間、解約できる制度ですね?】
はい。
▼ 訪問販売や電話勧誘のように、不意打ちの勧誘を受け、よく考える間もなく契約をしてしまいがちな取引。
▼ そしてマルチ商法やエステなど複雑で、よくわからないまま契約をしてしまいがちな取引について、
消費者が頭を冷やして考えなおすことができるよう、8日間、あるいは、20日間、無条件で契約が解除できることが認められている制度です。
【そして、“くらしのレスキューサービス„。これも対象になるということですね】
はい。広告の表示額と実際の請求額に「相当の開き」がある場合は、訪問販売と扱われ、対象になるという見解です。
これまでは、クーリング・オフを申し出ても、「消費者から、家に来るよう依頼されたのだから、不意打ちではない。クーリング・オフはできない」と応じない事業者も多くいました。でも、今回、消費者庁は、消費者は「安い」という広告を信じて来てもらった。それなのに
▼ 「特殊な作業」や「追加の作業」が必要などと言われ、当初思っていなかった髙い代金を請求された場合、不意打ち性があり、クーリング・オフの対象になる。という考えを示したのです
【「相当な開き」とは、どのくらいですか?】
「何倍」といった明確な基準はありませんが、消費者庁は、例として、「3000円から」という広告だったのに、数万円の請求をされたというケースを示していて、参考になります。が、逆に言うと、もともと広告にあった通りの料金で契約した場合は、不意打ち性があるとは言えず、クーリング・オフの対象にはならないということでもあります。
【高額な請求をされ、納得できない場合、8日以内ならクーリング・オフができることになりますね】
原則、契約して契約書面を受け取ってから8日以内となっていますが、
▼ 事業者から、法律に基づいた「契約書面」を(クーリング・オフのお知らせなどが書かれている)渡されていない場合や
▼ 「クーリング・オフはできない」など、クーリング・オフを妨害するようなことを言われた場合は、
8日間が過ぎても、クーリング・オフできることになっています。
【すでに工事や作業が終わっていた場合もクーリング・オフできるのですか?】
できます。鍵を開けてもらったり、ハチの巣を駆除してもらったりしていても大丈夫です。支払い済みの代金は返金されることになっています。
もし、工事などで元の状態に戻してもらいたい場合は、無償で元に戻してもらうことができます。一方、事業者の方から、取り替えた新しい便座や給水器などを撤去すると言ってきた場合は、事業者側の負担で、少なくとも、元の便座や給水器と同じものか、同じ程度のものに戻す義務が生じることになります。
【追加の料金は必要ないのですね】
必要ありません。
消費者庁は、こうした見解を示した後、実際に、
▼ トイレなど水回りの修理を依頼した人に、クーリング・オフができないかのようにウソの説明をしていたとして、広島県の事業者に対して、業務の一部を9か月間停止するよう命じました。悪質な行為をなくすためにも、今後も、積極的に行政処分をしてほしいと思いますし、そもそも、安さを強調して、消費者に誤解を与えるような表示も適正なものに改めさせるよう、消費者庁は、対応してほしいと思います。
【それでも、クーリング・オフできるということで、少し安心して頼むことができますね】
ただ、「相当な開き」の解釈をめぐって、事業者が簡単にクーリング・オフに応じてくれないケースも想定されます。できるだけ事前にトラブルを防ぐことが大事です。
国民生活センターや消費者問題に詳しい弁護士の話では、
▼ あらかじめ、いざという時に備え、地元に密着しているなど、安心できる事業者を調べておくことが望ましいということです。例えば、マンションやアパートの場合、管理組合や大家さんに相談するのもひとつの方法です。
【マンションなどが提携している事業者もいますね】
はい。
▼ また、インターネットなどで調べる場合、広告の表示をうのみにしないで、依頼する前に、どの程度の料金がかかるのか。見積もりやキャンセル料、出張料など、詳しく確認すること。できれば、いくつかの事業者にも見積もりをしてもらうことも大事です。
▼ そして、請求された金額が高いと思った場合、現金やクレジットカードではなく、請求書をもらい後から振り込みで支払うようにすることも勧めています。(後からおカネを取り戻す方が、難しいケースが多いとのことです)
その上で、最後
▼ トラブルになったら、近くの消費生活センターに相談をしてください。全国共通188の電話番号から、身近な相談窓口につながる仕組みになっています。
今回、クーリング・オフできる可能性が明確に示されただけに、あきらめずに、相談をしていただきたいと思います。
(今井 純子 解説委員)
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